お披露目
一般プレイヤーと序列称号保持者が入り乱れての親睦会……とはいえ、最低限の秩序を確保するためにある程度の線引きは必要なのだろう。
各々が身を置く会場は基本的に一般勢がメインホール、十席メンバーは吹き抜けで繋がっている二階部分の特別席と言った具合にスペース分けがされていた。
別に厳しく決められているわけではないらしいが、一応この二階部分は序列持ち以外立ち入り禁止というのが暗黙のルールとのこと。
そのため交流に際しては序列持ちのほうが階下へと足を運び、下りてきた相手には無礼講――というのが、この三年で定例化した習わしなんだとか。
しかし、それはあくまで基本的にはという話。メンバーからのお誘いを受けた者ならば、上階へ踏み入るのは問題なしということだ。
そのため一も二もなく――というか、もう有無を言わさず連行されてきたソラは、今も例によって俺の後ろに……と、今回はそうならず。
「ほらほらソラちゃん、これとかオススメだよー!」
「どうぞ」
「あ、あり……ありがとうございますっ……」
様々な軽食が敷き詰められた大台を中心に、周りに散らされたいくつかのテーブルセット。そのうち一つに座らされている我がパートナー殿は、ちっこいの×2に死ぬほど構われながら目を白黒させていた。
いやもう、なんか知らんがメッッッチャ懐かれてる。
周りをちょこまかしながら得体の知れない食べ物や飲み物を勧めまくっている赤色もそうだが、青色に至っては出会って数分にも関わらず当たり前のようにソラの膝上を占領している。
アバターの外見年齢だけなら年長の姉と双子の妹に見えないこともなく、その光景自体は純粋に極めて微笑ましいものではあるのだが――
どうにもこうにも、それぞれの肩書き……というか、立場の差がですね?
「いやいやいや、だぁから敬語はいらないってばー」
「名前も呼び捨てでいい」
「え、ぇぅ…………あの、えと……っ!」
剣聖様にも初見で認められる天才少女といえど、序列持ちどころか未だ公の場に姿を現したことすらないソラの立場は正真正銘の一般プレイヤー。
序列上位の『東の双翼』に囲まれて、なんかもう可哀想なほどテンパっていらっしゃる――てかあの二人もあの二人で、どんだけ爆速で距離詰めようとしてんだ。
どちらかというと普段は落ち着いているリィナのほうがバグっているのも予想外。うちの天使に一目惚れでもしたの? それなら仕方あるまいが。
……で。そんな相棒を庇いもせずに、俺がなにをしてるのかといえば――
「いやあの、何度でも言うけど、別にやましいアレコレはなくてだな」
背筋を正して、正座 on the 床。
ご丁寧に膝の上へ重石まで乗せられて、俺は悪ノリという名の〝可愛がり〟の刑に処されていた。頻繁にソラのほうから救援信号が送られてくるが、助けてほしいのはこっちである。
ソラに夢中になっている二人を除き、残りの面子は俺の周りにほぼ勢揃い。
ニヤけ面を隠そうともせず面白がっている囲炉裏とゴッサン。
興味なさげなポーカーフェイスの裏で笑っているのが透けて見える、先輩にして後輩ことテトラ。
ただ一人少しだけ申し訳なさそうな表情を見せているものの、それはそれとして好奇心からの〝尋問〟を止めようとはしない雛世さん。
そしてゲンコツさんは早々に離脱して一階で腕相撲大会に参加中。
畜生、味方がいねぇ……!
「オーケー、これで最後にしよう――――俺とソラが出会ったのは仮想世界デビュー初日。イスティア初期配置エリアの森でごっつんこしてからパーティを組むことになりそのまま成り行きでペアを継続していたらシークレットレイドボスだの隠しエリアのボス撃破だのとなんやかんや修羅場を共有していく中で互いになんというかまあアレだ無二の相棒的な意識が芽生えたり芽生えなかったりしたわけでそしたらもうパートナー契約も自然な流れということで、今に至る……以上だ」
なに一つ嘘は言っていないし、これ以上に語れることなど在りはしない。オーディエンスは皆一様に納得の顔を見せちゃいないが、知ったことではない。
「その、なんというか……」
「奇跡と非常識の塊みてえな二人組だな……」
「自覚はしてる。けどまあ、それが全部だよ」
苦笑いを見せる雛世さんとゴッサンの二人に憮然と返しながら、大人しく抱えていた真黒な謎インゴットを横へ転がす。感覚的におそらく重量二百キロ前後はありそうなものだが、STR:300の我が身にとっちゃ軽い軽い。
立ち上がり、向かう先はちっこいのに絡まれているパートナーのもと。
揶揄われようがなんだろうが、この場に知り合いがいないソラの拠り所として機能するのは俺だけであるからして……椅子の横に立ってやれば、わかりやすく安心した顔で相棒は緊張を薄れさせる。
長々と一人にさせる気はないから、安心しなさい?
「ということで、俺のパートナーのソラさんです――改めて、相棒共々よろしく」
「ぁ……よ、よろしく、お願いします……!」
そうして区切りの如く一緒になって頭を下げれば、返ってくる反応はおざなりな拍手がパチパチといくつか。緩いノリも嫌いじゃないよ、大変結構。
「はいはーい! 様子見しながらウダウダ気を遣うのもメンドクサイから、もうサクッと聞いちゃっていいかなー!」
と、出会いから此処に至るまでの経緯を説明し終えたものの、俺たちへの質問タイムまで終了とはいかないらしい。ソラの膝の上から相方を引き取りつつ、元気よく手を挙げたミィナへの返答は一択だ。
「ダメです」
「オッケー了解!――――で、二人ぶっちゃけ付き合ってんの?」
「へうぇっ!?」
「だろうとは思ったけど、言葉通じねえな???」
質問の拒否権など、端から存在していなかったらしい。
イジられること自体は覚悟していたし、答えも用意してはいたが……俺はともかく、ソラは一瞬で顔を真っ赤にしてまんまと周囲を喜ばせてしまう。
とはいえ、他人からそう見られるのは承知の上。元より『その都度誤解は解けばいい』と、互いに納得して交わした契約である。
なので――
「期待させて悪いけど、恋人とかじゃない。俺もソラもそういうのは無しってスタンスでパートナーになったんだ、その辺の勘繰りは勘弁な」
俺が憮然と言い放ち、ソラも必死にコクコクと頷いて見せれば――それでもなおしつこく追及を続けるような輩は、幸いなことにこの場にはいない。
「ふーん……じゃあ普通に、メッチャ仲良しってだけかぁ」
と、クッソ失礼ながら一番空気の読めなさそうな赤色をしてこの物分かりの良さである。流石はオンラインゲームらしからぬ良識者だらけのアルカディアプレイヤー、更にその頂点で常に注目を浴びる者たちといったところ。
「まあ、そうな。普通にメッッッチャクチャ仲良しってだけだよ」
――ということで、問題なのはあっちよりこっち。
はいソラさん、そこで頬染めはいただけません。俺の言葉に対する初心な反応は無際限に可愛い案件の加点要素だが、無限にイジられてキリがないからね?
果たして、いつもの〝以心伝心〟を頼りにそんな思いを視線で送れば、
「っ……――――ッ!」
頂戴したのは『あなたのせいです!』と言わんばかりの、お叱りの一打だった。
もちろん即座に全員が内心でツッコミ入れてる。
コイツらこれで付き合ってないとかマジ?