連れは天使か爆弾か
――四柱戦争の翌日。恒例となっている『打ち上げ』と称した親睦会は、前日の勝ち負けに関わらず毎度のこと開催されているお祭り騒ぎだ。
会場は戦時拠点にもなった【異層の地底城-ルヴァレスト-】――会場へ向かいがてらゴッサンにあれこれメッセージで確認したところ、参加者に関しては戦争に赴いたプレイヤー全員が対象らしい。
加えてVIP待遇の序列称号保持者には各一名の招待枠が与えられているため、総勢は三百+αといったそれなりに大規模な集まりである。
で、俺も元々『誰か一人なら陣営問わず連れてきていい』とのお達しを受けていたために、あらかじめソラを招待していたというわけだ。
お師匠様や職人二人にも多大な恩はあるものの、これに関しては流石に〝一択〟というか……むしろ大事なパートナーを蔑ろにすれば、他三人からは叱られていただろうという俺の予想は間違っていないはず。
打ち上げの形式については、馬鹿広いエントランスを利用した立食パーティ……なんてお上品なモノでは当然なく、基本的には飲めや歌えの大騒ぎとなるのが当たり前なんだとか。
なんか壁際に〝ステージ〟みたいなものまで設置されているし、出し物なんかの催しもあるのかもしれない。仮想世界……否、異世界ならではの魔法ショー的なものがあるなら、是非とも観賞してみたいところだが――
「どうなんだろうね、ソラさん」
「――っ……、…………ま、現実を見てくださいッ……‼」
シンと静まり返る――までは行かずとも、数十秒前までの爆音が嘘のように大喧騒が消え去った広間にて。肩越しに声を掛ければ、俺の背に隠れて過去最高に身体を縮こまらせているパートナー殿は蚊の鳴くような声でそう訴えた。
午後九時五分前、集合時間ピッタリ。
例の空間の亀裂からこの場へと転移してきた俺を迎えたのは、音圧で吹き飛ばされるのではと思うほどの大歓声。
なにを言っているんだか一つも聞き取れなかったが、好意的な歓迎の声であることは間違いなかっただろう。見知った顔もそうでない顔も、大挙して押し寄せかけた彼らは――数秒後、皆一様にその動きを止めてみせた。
無数の視線が向けられる先は、ただ一つ。
「っ、へぅう……!?」
俺の後ろに隠れている、一人の少女を置いて他にない。
この場に【曲芸師】の招待を受けて姿を現すということが、どんな意味を持つのか。それくらい理解できないソラではないだろう。
それでも昨夜の戦争前に顔を合わせたとき、俺の誘いに頷いたのは彼女自身。今日も会ってからソワソワとしっぱなしではあったが、結局いまここに至るまでソラの口から辞退の言葉は出てこなかった。
相も変わらず、〝俺の隣に立っていたい〟という想いを意識してくれているのだろう。怯えようとも逃げ出す素振りは見せない健気な姿に、感動を禁じ得ない。
――ともあれ、だ。
「《コンストラクション》」
ソラを庇う左半身はそのままに一歩踏み出し、進化を遂げた切り替えスキルで右手に喚び出すは黒岩の大戦斧。
「ちょ」
「はっ?」
「へっ!?」
ノータイムの臨戦態勢。俺たちを取り巻くギャラリーはもちろん、
「なんっ……ハル!?」
背後のソラが驚きの声を上げるのも無理からぬこと。戸惑いを伝えるか、凶行を諫めるか、一瞬だけ迷ったパートナーの手が背中へと届く前に――
「――――そ゛ぉ゛い゛ッ‼‼」
剛閃、着弾、そして轟音と衝撃。破壊不能オブジェクトである城の床を叩いた【巨人の手斧】が、盛大な火花を宙へと散らす。
如何な歴戦の強者共と言えど、やれ打ち上げだパーティだと緩み切ったテンションに前触れなくサプライズを叩き付けられればビックリもするだろう。
……別に、アレだぞ。誓って『なにを無遠慮に人のパートナーを鑑賞してんだ貴様ら』などと脅しを利かせたわけじゃないぞ。
ともかく、少なくない者たちが仰け反ったり肩を跳ねさせたりしているリアクションを見届けながら、今度こそシンと静まり返ったホールに向かって――
「ハ イ ど う も こ ん ば ん わ ー ! ! 盛 り 上 が っ て る か ー い ! ! ! 」
――と、いつぞやの『レディース&ジェントルマン』よろしく意味を成さない大声を一つ。ソラへと向けられていた視線を根こそぎ攫いつつ、周囲を見回して目当ての顔を探し……視線が合った目的の人物に、渾身のウィンクで合図を送る。
そうすれば果たして、大雑把の化身みたいな姿の癖に気遣いに長ける『彼』は苦笑いを浮かべつつ――
俺が上げた轟音に続き、ホールに響き渡る特大の拍手の音。どこぞの曲芸師の奇行に呆然としていた者たちは、不意を打たれて一斉にその出所へと振り向き――
「盛り上がるもなにも、まだ始まってねえよ」
再び転じた視線を一身に受けた金の偉丈夫――【総大将】ゴルドウは苦笑いを消し、二ィッと口端を吊り上げ快活に笑う。
「そんじゃまあ、そろそろ始めるか――オラ野郎共、杯を掲げろ! 持ってねえ奴ぁ拳を上げやがれぇッ!」
流れるような開幕の音頭。意図を汲んで注目を引き剥がしてくれた大将に感謝の念を送りつつ、後ろで固まってしまっているパートナー殿のほうを振り向く。
二転三転した状況に、目をパチクリさせている少女へ俺も笑みを零しつつ――
「ほい、ソラさんも」
ほとんど誰も見ていないのを良いことに、機会を逸して宙を彷徨っていた手を掴み取る。お手を拝借、しからば後は――
「っし続けぇッ! イ ス テ ィ ア の 勝 利 に ッ ! ! ! 」
「「「「「 勝 利 に ィ ッ ! ! ! 」」」」」
――相変わらずの、ノリ良い轟声。
そして、そのノリに乗っからない人間などこの場にいない。
大将の音頭、続く三百名の大音声に気圧されて「ひぇっ」と可愛らしい悲鳴を零したパートナーの小さな手を、
「勝利に!――ってな」
一緒に持ち上げて笑いかければ、どうにかこうにか……引き攣りかけという注釈は付きつつも、笑顔をひとつ引き出すことには成功。
誠に結構――せっかくだ、楽しんでいこうぜ。
本当に悠々と楽しめるとは思ってないよなぁ???
なんか意外と時間が取れないので、不定時連投については一旦忘れてください。
しないとは言っていないので唐突な複数更新はアリます。