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セルフ嵐前ブラッドレイン

 ――調()()()()から、はや二時間強。


 下手な変装など今更と割り切って堂々と姿を現したにもかかわらず、どうしたことか結局一度も声を掛けられなかっただとか、


 ()()()()()()()()()に見舞われて、武装の二つが使用不可になっていただとか、


 先刻ログインしてきた〝誰かさん〟へのメッセージが、かれこれ一時間近く迫真の既読スルーを喰らっているだとか……とりあえず全てに蓋をして。



「オラどうした〝同族〟どもぁッ‼ そろそろ打ち止めなんじゃねえかペース落ちてやがっ―――パァアアアアアアアアアアアアアアッ!!??」



 足を運んだ【螺旋の紅塔】にて、俺は真実キレ散らかしていた。



 宙を駆け回っていたアバターを四方八方から滅多撃ちにされて、もう何度目かもわからない爆発四散――からの、


「――――ッしゃコンティニューだオラァッ‼」


 死亡、蘇生、そして再突撃。


 跳躍強化の補正が向上した《ランド・インシュレート》及び『踏み込み動作削減』の効果は据え置きとなった《兎乱闊躯ヘアリアル》が存分に働きを見せ、些細な踏切音を残してアバターを宙へと跳ね上げる。


 途端に殺到するのは、もはや見慣れた紅の弾丸――正道たる螺旋階段ではなく、塔中央をぶち抜く吹き抜けに躍り出た馬鹿者へと向かう弾丸の数は推定三桁。


 初攻略以降は舐めプすら成立するイキり相手かつ資金源に成り下がっていた【紅玉の弾丸兎(ルビーバレット)】だが、それはあくまで正規ルート攻略で覚えた・・・パターンをフル活用する場合の話。


 いま思えば、俺がこの螺旋の紅塔を踏破できたのも『記憶』のギフトが有効に働いたからなのだろう。定まった道程を走り抜ける際の出現&飛来パターンを全て覚えられるというのなら、そりゃまあクリアできますわといったところ。


 ただし、いくら覚えられると言っても――――



「あ、っちょまッ――パァアアアアアアアアアアアアアアッ‼」



 全方位から迫る物理的に回避不能な弾数ともなれば、それはもう単なる無理ゲー。


 まともに考えれば、性懲りもなく死地へのリトライに挑み続ける俺は狂人以外の何者でもないだろう。ならばなぜそんなことを繰り返しているのか――そんなもの、マトモではないからに決まっている。


 少なくとも、今回に限っては俺自身がどうこうではなく。


 新たにアバターへ宿ったスキル共が、押し並べてマトモではないということだ。


 ――紹介しよう、新スキルNo.1《兎乱闊躯ヘアリアル》。


 走行及び跳躍動作の補助、加えて踏み込み動作の削減や限界速度稼働時のDEX補正強化など。とりあえず高機動戦士が欲しいもの詰め込みましたみたいな性能を誇っていた前身《兎疾颯走ラビットラン》の効果は据え置きに、追加能力を獲得したこのスキル。


 その能力とは――跳躍滞空時に、()()()()()()というものだ。


「ッ゛――そぉイッ‼」


 空を切る――ように見えた手が、目に見えない壁をしかと押し込み体勢が転じる。


 俺含め大体の者が聞いただけではハテナを浮かべるであろうその効果。上手く利用すれば()()()()()、常識的には不可能な即時の空中回避を実現させるが、


「んのッ……――へぁっ!!?」


 次いで意図せず虚空に足を引っ掛けて、ガクンと身体の制御を喪失する。


 制御を誤れば()()()()()、自ら態勢を崩してしまい――


「っパァアアアアアアアアアアアアアアッ!?」


 こうなる。


 なにが問題かといえば、このスキルとにかく〝暴発〟が多過ぎる。基本的には思考操作による瞬時起動なのだが……なんというかこう、感度が高過ぎて些細な思考のブレに反応してしまい、結果()()()()()()()()()()()のである。


 効果を発動出来るのは一度の跳躍につき四度まで。というか、両手両足で各一回ずつ。パッシブなのでクールタイムは存在せず、地に足を着けるたび回数がリセットされる仕組みだ。別に〝地〟に限らず壁でも天井でも可。


 反復使用のゴリ押しでなんとか暴発頻度を徐々に抑えるところまで来てはいるが、ちょっとコレ一日やそこらでは完璧に乗りこなせる気がしない。


 ON/OFFスイッチがあればノータイムでOFFをぶん殴るレベル。常時発動パッシブだから無理なんですけどねハハハ――クソがぁッ……‼


 ちなみにあくまでも『叩く』程度であって、空中ジャンプを実現させられるような出力は発生しない。位置をズラすか体勢を変えるくらいが限界だ。


 それでも完璧に使いこなせれば〝ヤバい〟のは分かるんだが……正直キツイ。そもそも空中でのアレコレなら以前までの――いや、まあ、それは置いておこう。


 パッと散ってコンティニュー。ダンジョン内ではデスペナが免除されるという有情極まる仕様に飽かして、終わりなきリトライTake???をいざ敢行。


 《兎乱闊躯ヘアリアル》のほうは、まあぶっちゃけ近いうちに和解できそうな気はする。なので真に問題なのはこっち――


 【曲芸師】の十八番にして、戦略の要であった《瞬間転速イグニッション》の進化系。


「《ロケ――」


 視界を埋め尽くす殺人兎。その切れ間へと進路を設定して――瞬間、アバターの全身を奔り抜けるは紅の閃光。


 ()()()()()()()()()()、タメは多分……こんくら――――


「――――――――――ッ》ォオオアアァッッッ!!!??」


 ゴッ!


 ドッ!


 パァンッ‼


 文字通り、()()()()()()()()()()()()


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()が実現した未来は――



 流れるような死亡からの、いっそ無慈悲なリスポーン。



「クソがッ……‼‼」


 いやコントロールできるかこんなもんッ‼ 瞬間転速を返してもどしてッ‼


 打ちひしがれるまま床を叩こうが喚こうが、失われたものは戻ってこない。


 自傷だなんだと白い目で見られちゃいたが、俺はお前を軽んじたことなどなかったというのにこの仕打ち……‼


 新スキルNo.2《空翔ロケット》――その名を()()()()()()()()正確に体現するコイツの正体は、何を隠そうアルカディア史上初の『空中ジャンプ』スキルに他ならない。


 前身となった《瞬間転速イグニッション》の仕様を継承して、同じく自傷コスト型のクールタイムが存在しないアクティブスキル……そこまではいい。


 進化前とは異なり、今度はコストの支払いが自動になった点も素直に評価できる。暴発の危険性も生じはするが、こっちは《兎乱闊躯ヘアリアル》ほど感度がイカれていないため制御は可能だ。


 ただし、それは起動の制御に限った話。メインの空中跳躍に関しては、正直いまのところ匙を投げる他ないかもしれない。


 簡単に言えば、《空翔ロケット》の仕様と《兎乱闊躯ヘアリアル》の能力がこう……喧嘩というか、もう空前絶後の大事故を起こしているのだ。


 起動は思考操作オートマ、出力調整は肉体操作マニュアルみたいな感じなのだが、この出力調整がどうにもこうにも――


「ッだぁ……‼ また過剰かッ!?」


 十パーセントきっかり。前身と変わらぬ代償ライン調整できれば、出力は以前までのゼロ百加速とほぼ同等。


 【愚者の牙剥刀ペイング・フール】など頼る必要がない上、純粋な空中跳躍を可能とするコイツはカタログスペックだけなら完全なる《瞬間転速イグニッション》の上位互換足り得るのだが――


 起動後、()()()()()()()()()()()()()()()が、《兎乱闊躯ヘアリアル》の『踏み込み動作削減効果』と奇跡的に余計な相乗効果を生み出しやがっている。


 軽く爪先で空を蹴る程度のアクションでも、十パーセントどころか五十パー近くを出力してしまい――壁への激突死を避けられたとしても、出力と等価の代償は容赦なく持っていかれるわけで。


 ちなみに百パーセントも出力できる。特殊称号『曲芸師』の権能である《鍍金の道化師クラウン・クラウン》が無けりゃ即死するけどなハハハ――クソがぁッ‼‼


「いーやッ……‼ もしや俺のこと嫌いか神様仏様システム様……!?」


 挙句の果てには――――



「〝切り替え跳躍スイッチジャンプ〟もできなくなってるしさぁアッッッ‼‼」



 紅の尖塔内部に、響き渡るはヤケクソ十割の男泣きひめいが一つ。


 果たして、()()()()()()()()()()()()()()()()【曲芸師】は……相変わらず、逆境において無意識に頬を吊り上げている己に気付かぬまま。


 紅との狂騒を駆けるうちに、時もまた足を止めず瞬く間に過ぎていった。






嫌われるどころか全力で好かれた結果だぞ、泣いて喜べ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 剣聖がスキルを生贄にしまくってるのってある意味理に適ってるのかも?ステータスの制御だけで良いし [一言] コマンド式であれば制御とかないけど体動かしてってなると超むずいだろうなあ 下…
[良い点] この糖分は脳に直接クる
[一言] 鳥手羽美味しいよね
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