view:real side + α
――とある電脳掲示板にて。
『もう僕にはなんにもわからないよ』
『遂にオリジナル映像では滅多に入らないスロー演出が入り始めた……』
『何度でも聞くけどこれマジ? マジで曲芸師=剣聖様の弟子で確定?』
『ほぼ確。挙動が完全に縮地のそれ』
『騙りの線もナシだろうね。囲炉裏君と仲良さそうだったし』
『むしろ、だからこそと思えばやたら息が合ってたのも頷けるっていう』
『あのコンビめちゃくちゃ推せますよねぇ!!!』
『ういちゃん、お弟子さん取れたんだね……! 良かったね……‼』
『ちゃん????? 様を付けろと言ってるだろうが』
『出たな過激派フォロワー』
『お前ら画面を見ろや。間違いなくアルカディア史に残る神回やぞ』
『スロー編集入ってなおワケわかんねえんだもん……』
『当たり前のように宙を走るな、残像を残すな』
『ねえあの人いま目閉じてたんだけど。曲芸師さん多分これ動いてるときまともに見えてないんじゃないの……?』
『ならなんで攻撃中断して回避に移れるんだよ。予知能力でもあんのか』
『当方、今年で還暦の爺。孫の姿に重ねて推している者ゆえ許されたし』
『それは許せる』
『祖父目線なら仕方ないかなって』
『くっ……お祖父ちゃん子の剣聖様に免じて許すしかない……』
『剣聖様に話飛ぶのは仕方ないけど現実を見よう?』
『むしろこれは現実なのか?』
『四柱が楽しみ過ぎるゆえに発作起こして死んでた説……?』
『じゃあ俺もお前らもみんな死んでるってこと?』
『なにもかも異次元過ぎて観客サイドもバグリ始めてるの笑う』
『私はアイリス様の微笑みが見られただけでもう満足なんだ』
『それ』
『それな』
『あのぎこちない笑顔、のたうち回りながら記憶に永久保存した』
『願わくばもうちょっと二人の会話をですね……』
『なんか頑なにマイクで拾おうとしないよねシステムちゃん』
『プライべートなこと話してるんかな……え、元々知り合い?』
『自己紹介してたやろ。初対面だぞ多分』
『初対面でシステムちゃんが拾わない判断をするような会話を……?』
『ねえ本当に曲芸師これ始めて二ヶ月程度なの? 僕もう軽戦士やめたい』
『気持ちは死ぬほどわかるけどコレは果たして軽戦士なのか……?』
『軽量装備の戦士という意味でなら、もう全く当て嵌まってなくない?』
『少なくとも俺の知る軽戦士は、大剣やら大斧やらを振り回したりしない』
『うわっ』
『やっば』
『まあ、刀の空振りで水路を爆発させたりはしないわな……』
『いや、うん……これは剣聖様のお弟子様ですわ』
◇◆◇◆◇
――とある大学生たちの集いにて。
「楓、ちゃんと息して」
「……っ…………し、してます……」
「よかった。じゃあ、まばたきもして」
「それはイヤ……!」
「目、真赤になってるから。しなさい」
「俊樹、どう?」
「まあ、メッセは反応ナシだわな。電話すんのは……〝マジ〟だってんなら、邪魔でもした日にゃ切腹ものだから無理」
「あー……そうね、やめとこ」
「……………………多分、マジなんだよな?」
「…………マジ、なんだろうねぇ」
「……なあ」
「……うん」
腰を並べる男女は、目を見合わせて頷き合った。
「「――明日、なにがなんでも捕獲しよう」」
そしてその隣、並んで座る少女たちは、
「――楓、やっぱり息も止まってる。ちゃんと呼吸して」
「――無理ぃ……!!!」
介抱する側とされる側に分かれながらも、共に『画面』へ目を奪われていた。
◇◆◇◆◇
――とある祖父と孫の集いにて。
「なあ、優衣」
「……なんですか、お祖父ちゃん」
「お前のそんな顔、私も初めて見たかもしれんなぁ」
そう言う祖父の顔は、これまで数限りなく目にした慈愛に満ちた表情で――
「…………しばらくは、どうにもできそうにありませんから」
『孫娘』は恥ずかしげに、ほんの少しだけ頬を染めながら、
「あまり、こっちを見ないでください」
顔を隠している暇などないとばかり――画面に映る『弟子』の雄姿を、ただただ嬉しそうに、その目で追いかけ続けていた。
◇◆◇◆◇
――とある親友二人の集いにて。
「………………ニアちゃ?」
「…………………………………………………………………………」
「ふむ……」
呼びかけてみるも、膝の上、腕の中で固まる友人はピクリとも反応せず。
「やられちゃったかぁ」
瞬きもしないまま釘付けになっている姿に、そう結論付けて……
妹でもあやすようにその頭を撫でながら、彼女もまた――画面の中の一大事へと、関心を戻しゆく。
◇◆◇◆◇
――とある家族の集いにて。
「――…………」
なにも言わず、静かに〝その姿〟を見守り続ける少女の両側。二人の大人はといえば、似たような面持ちで呆けるまま。
「……私はあまり知識はありませんが、アレが凄いことだというのはわかります」
片や、『騎士様』の想像を遙かに超えた滅茶苦茶具合に戸惑いが色濃く。
「そ、そうだな……あぁ、その認識で間違っていないとも」
片や、『既知の青年』の異常が過ぎる成長速度に驚嘆を隠せない様子で。
「……あなたの騎士様は、いつもあんな感じなんですか?」
ただ無言で見守り続ける――そう見える中で、ずっと前からぎゅっと手を握られているままの女性が問いかければ、
「……――いつも、そうですよ」
決して瞳は逸らさずに、少女は想いを湛えて答えを呟く。
「いつだって――誰より楽しそうな笑顔を見せてくれる、相棒ですから」
◇◆◇◆◇
「――やってるねぇ……」
見上げても見下ろしても、上下どちらにも星空が映る奇特なフィールドにて――四柱戦争開始から数時間。
暇を持て余す『彼女』は己が拠点での待機を続け……遠くから木霊する『剣』の音を聴き、自ら持ち込んだソファで寛ぐままに呟きを漏らした。
「――別に、観戦に行ってもいいんだぞ」
無意識に零れた独り言に対して、言葉を投げるのはすぐ隣。同じく暇を持て余す、たった二人でフィールドへと足を運んだもう片方のプレイヤー。
彼女と似た紅――否、更に深い紅蓮の髪を後ろで束ねる男性は、他意もなく純粋に提案をしただけなのだろうが……
「やめとくよ。冷静に観戦なんて、できやしないだろうからね」
「っは、全国ネットでキャラ崩壊は流石に恥ずかしいか」
「喧しい」
文句を返すが、残念ながら彼の――『上司』の言う通り。応援なんかに行った日には、感情を抑えることなど不可能なのは目に見えているから。
聞き覚えのある『剣』が今、響音を奏でている相手が誰かは知る由もないが――
「……頑張りなよ」
もしもそれが、アンタなら。
担い手の活躍を、ただ願いながら――星空を見上げる紡ぎ手は、届かぬ声援を音も無く口にしていた。
それじゃ、駆け抜けましょうか。