向かう走躯を見つめるは
「―――あぁ……マズいな」
共闘によって瞬く間に南北の足止め部隊を片付けた、ちょうどそのタイミング。
俺と囲炉裏が弾かれたように一方向へと顔を向けたのは同時のことで、またブロンド侍の口から零れた呟きはひどく苦々しいものであった。
「……あー、なにこれ?」
それは、轟音とも衝撃ともつかない言い知れぬ『圧』―――まるで腹に響く大太鼓の連鳴りの如く、彼方からアバターへと伝わってくるソレに自然と頬が引き攣るのを感じる。
「もう猶予はゼロってことだよ―――すぐに拠点へ向かえ、後から追い付く」
説明になっていない言葉だけを返し、俺の行動を断じる囲炉裏の様子から見るに……OK、説明してる暇すらもう無いってことだな?
「分かった、それじゃお先に」
「ハル」
っと、猶予は無いんじゃなかったのか?
手中に小兎刀を喚び出して一歩を踏み出す直前、背中へ投げられた声に小さく振り返れば―――……あぁ、はいはい。
そういうの、俺も嫌いじゃないよ。
突き出された拳を「さっさと追い付いて来いよ」と雑に打ち返してから、俺は踵を返し今度こそ勢いよく宙へと踏み切った。
「ッやべ、抜けられ―――」
「余所見たぁ余裕だなッ!!」
「目移りしてんなよ!!」
「ハイ通行止めぇ!」
「Ninthゥッ! お通りなすってぇ!!」
「ッ! ありあざーッス!!!」
走りながら道を敷くのはもう慣れたもの。投じる小兎刀と切り替え跳躍によって空を駆ける最中……頭上を通過する俺へと向けられかけたヘイトに、味方部隊がすかさずカットを入れてくれる。
応援交じりのGOの声へ我ながら律儀に礼を返しつつ―――アバターを蹴飛ばすような勢いで過加速へと移行した俺は、乱戦の真上を瞬く間に駆け抜けて……
身を揺さぶる震動が鳴り続ける拠点の元へと、目一杯に足を急がせた。
◇◆◇◆◇
「動くねぇ【ハル】君……」
「マグロかってくらいずっっっと飛び回ってんなぁ」
―――とある大学生たちの集まりにて。
長時間に及ぶ配信につき、比較的落ち着いた場面ではテンションを落ち着かせて休憩タイムに入るのが四柱戦争観戦の常。
その際には慣れもあってか、互いの相方と適当に言葉を交わすのが自然となっていた―――のだが……
一緒になって散々盛り上がりを爆発させて少々疲れたのか、ぼーっと画面を眺めている翔子と俊樹のペアを他所に。
「……………………あの、さぁ、美稀ちゃん」
「……分からない。似てるだけかもしれない」
「よく考えれば、名前も……」
「…………似てるだけかもしれない」
幼馴染らしく遠慮の無い距離感で身を寄せる楓と美稀の二人は―――画面の中で相変わらず、理屈の分からぬ手法により宙を駆ける白蒼の影をジッと見つめていた。
喋り方……というよりは、テンションが違い過ぎるが故に。
数時間に渡って何度も何度も耳にすることで、ようやく「おや?」と疑問を抱けたのはその『声』。
知り合って間もない『友人』のそれに、どこか似ている声音を意識してしまえば……そのままなプレイヤーネームも相まって、疑いは次々と積み重なっていく。
―――悪い、今日の夜だけは本当にマジで無理だ。
半日前、そう言って今夜の集まりを断った『彼』の姿が脳裏を過ぎる。
連想が、止められない―――しかしながら。
「さ、流石に、だよね……?」
「まぁ、うん。流石に……」
世の中、そんなに狭い訳が無いと。
【Arcadia】のプレイヤーであるというだけで一般人基準からすれば『特別』だというのに……知り合ったばかりの友人が、まさかそれだけに止まらず天上の存在である序列称号保持者であるなどと。
それは、流石に―――
「「オタクの妄想が過ぎる……」」
と、困惑気味に顔を見合わせる彼女たちは、いつまでも自分の予感を信じることが出来ないままで。
戸惑いのままに視線を向ける先では―――自分たちだけではなく、今まさに全世界の視線をその身に集める【曲芸師】が。
まるで飛ぶように、霞むような速度で……自在に宙を駆けながら、『大物』待ち受ける拠点への道を踏み潰していく。
楓が『彼』へと送ったメッセージに、未だ既読の文字はつかないままだった。
短め、つまりは近付いてきているゾ。
ストック作れるのか私……???
※なんか予測変換が悪さをしたのか主人公の語手武装の表記がブレてます。
〇【序説:永朽を謡う楔片】
×【叙説:永朽を謡う楔片】
×【徐説:永朽を謡う楔片】
見つけ次第で順次修正していきますが、正直いまそんな事をしている暇が無いので暫く放置予定。
どうぞ見逃してくださいませ。