赤と青と白
「……見たことの無い点差になってる」
「なんかもう、いっそ気持ち悪いよね」
おそらくは暇なのだろう、帰還する度に小っこいのが寄ってくるのは別に悪い気分ではない。ダウナー系に見せかけた真面目系イイ子なリィナは普通に労ってくれるしな。
休憩している周りでのんびり雑談に興じるのも好きにしてくれていい。本人がいるところで失礼な評価を下している点もまぁ見逃してやってもいいだろう。
だだし赤色、やはりテメェはダメだ。
「三秒以内に退かなかったら沈めてやるから覚悟しとけよ」
戦時拠点である城の周囲、水に呑まれていない僅かばかりの台地にて。
人をダメにする類の巨大なクッションにグデーっと呑まれながら、俺は放っておけば際限無く調子に乗っていく不埒者へとドスを利かせた脅しを投げ付ける。
さすれば、うつ伏せでいる俺の腰に我がもの顔で座っていたミィナは即座に逃げ出していく。なぜ防御力が皆無なのに一々ちょっかいを掛けてくるのか、コレが分からない。
「なんだよもうノリ悪いなー。美少女の椅子になるとかご褒美でしょ? つまりこれだって立派な労い―――」
「ッハ」
「ちょっとなにそのイロリンみたいな笑い方ぁ!! 世間でも評判の『ミナリナの元気な方』ことミィナちゃんが可愛くないと申すか!!」
元気な方て……いや、別にそれもネガティブな評価では無いのは分かるが。
「ちなみにリィナは何て呼ばれてるんだ」
と、他称『元気な方』に半眼を送りつつもう片割れに問うてみれば……青色がトレードマークの少女は、少しだけ躊躇した素振りを見せて、
「……………………かわいい、方」
「……まあ、引き立て役がいるもんな」
「―――はい戦争。どういう意味だこらぁ!!!」
残念ながら、俺に顔の良さだけで丁重な扱いを求めるのは分が悪いぞ。自慢だが、いまは身近に顔良し性格良しカッコ良しの相棒がいるんでな。
「……身体、動く?」
襲い掛かってきたアホンダラを片手で鎮圧していると、相も変わらず隙あらば「さわさわ」してくるリィナが首を傾げて此方を見ていた。
「あぁ、問題無いぞ。定期的に休憩を取って、いつでも動けるようにしとけ……って、ゴッサンに言われたから一応な」
陣中見舞いに来た時に、ピクリとも動けなくなっていた有様を見られているからだろう。微かばかり心配の色を宿す青い瞳に笑い返して、俺はクッション―――というか、ソファサイズの謎物質から身体を起こした。
言葉にするのが難しいが、極上の包容力を秘めた低反発素材的な……まあよく分からんが、二人が『能力』を使って用意してくれた簡易休憩所である。
現実でこれ売ってないかな、癖になりそう。
「修行、完璧?」
「流石に完璧とまではいかないけど……まあ、四柱の開催時間程度なら大丈夫だろ」
単に二種の出力を使い分ける程度ならばまだしも、『纏移』まで用いたりすれば疲労は避けられない―――しかし、それでもかつてのようにアバターを動かせなくなる程ではない。
お師匠様との修行の成果は、単純な戦闘力以外にもしっかりと現れて……あの、ちょ、ちょっ……と、リィナさん? くすぐったい、くすぐったいっす……!!
「いや、分かった分かった……! 応援してくれてるのは分かったから、ありがとな……!」
フードの上から延々とさわさわさわさわさわさわさわさわ―――好きにさせておけば無限にそうしていそうなリィナの細っこい手を捕まえて止めれば、少女はパチパチと無表情に瞬いてから大人しく手を引っ込めた。
何だろうな……一応しっかりしている部分はあるんだが、無垢というか子供感が強いというか……いやまあ、実際年下ではあるらしいんだけども。
相手方の序列持ちを調べた際に身内の事もさらっと情報を集めてみたところ、この二人に関するデータは真っ先に出てきたから―――それにしても、現実の二人からはこうまで子供っぽい印象は受けなかったものだが。
「ほーらリィナちゃん、メッ」
と、いつの間にやら拘束から擦り抜けた赤色が、俺から引き離すように相方を抱き寄せる。その絵面だけは、仲良し姉妹めいて微笑ましい―――当のリィナは、奴のスキンシップに毎度の事ながら憮然とした態度ではあるものの、だ。
これが対『お姫様』最終兵器だというのだから、分からないものである。
「お?」
「およ」
「ん……」
と、三度目の休憩に入ってから暫く。彼方で立ち昇った光の柱を見とめて、順番に反応を示すのも既に毎度の事。
『柱』の再出現―――お仕事の時間だ。
「ほらほら出番だよお兄さん、気張って行ってきなぁ!!」
「なにキャラだよお前は」
計四度目……そこら中で数多のプレイヤーから追い回される鬼ごっこの様相となってからは、三度目の出陣。
正直な所、ソラとの組み手で追尾弾幕に慣れていなければ即死のオンパレードだったであろう、中々の地獄絵図ではあるのだが、
「頑張って」
「おう、任せなさい」
赤色の軽口を適当に流しながら、何かと年下レベルの高い青色の頭を撫でそうになるのを堪えつつ……俺は再び迷路へと向かう。
弱音を吐くつもりは無いし、そんなものはそもそも存在しない。
なんと言ったって―――『鬼ごっこ』は、もう俺の特技の一つであるからして。
ほぼ閑話だコレ。
可愛いだけでは甘くならないの凡例。
ちなみに小っこいの×2がジャレつきにかかるのは主人公限定ではないので
周囲はいつもの事と見守っております、父性。