喜悦堂々
―――とある大学生たちの集いにて。
『何もさせないくらいの勢いは、覚悟しといてくれ』
『―――いざ参る、ってな』
「「―――Fuuuuuuuuu!!」」
「イイじゃんイイじゃん堂々とふかす感じ嫌いじゃないよー!!」
「こーれは人気出るだろ映えっ映えな戦闘スタイルでこのノリはよぉ!!」
「あ、はは…………美稀ちゃん、どうかした?」
「ん……何でもない。多分、気のせい」
◇◆◇◆◇
―――とある祖父と孫の集いにて。
「この子がねぇ……はは、良いじゃないか。楽しそうに剣を振る子だ」
「ふふ、まだまだこんなものではありません」
「ふむ……あれだな、予感はしていたが―――」
「それ以上は、言わなくて結構です―――師匠馬鹿は、自覚していますから」
◇◆◇◆◇
―――とある親友二人の集いにて。
『赫け―――【赤より紅き灼熱の輝琰】』
「―――……っ!―――、―――!!」
「あーもーはいはい分かったから、人の膝の上でそんなに暴れないのニアちゃ……クッションに潜ってないで、ちゃんと応援してあげないとダメでしょー?」
◇◆◇◆◇
―――とある家族の集いにて。
「そ・れ・で? このとーっても格好良いハルさんとやらは、結局のところ脈はありそうなんですか?」
「私じゃなくて画面を見てください」
「せっかくの家族水入らずなんですから、つれないのは無しですよ? 旦那様だって気になりますよね?」
「画 面 を 見 て く だ さ い !!」
「はは……」
◇◆◇◆◇
―――そして、電脳の大海にて。
『ヤバすんぎ』
『これトラさんがどうこうじゃなくてさぁ……』
『曲芸師が何から何までおかし過ぎる』
『これが人力TASってやつですか???』
『思考加速無しでこれってマ?』
『目元が見えてないから思考加速云々は分からなくね』
『戦闘開始からもう何分も経つけど、このアタおか高速機動は最初っからじゃん。思考加速スキルなんて最長でも十秒持続程度が精々だぞ』
『百歩譲って脚速いだけならまだ分かるけど、攻撃に加えて迎撃も回避もこなしてるのは本当に意味が分からないんですが』
『まさかの刀がメインウェポンとは』
『メインウェポンというか何というか……さっきまでの色んな武器使ってた時と比べてこう、別Verって感じがする』
『分かる。っていうか何か既視感』
『どことなく剣聖様っぽくね?』
『うー……ん、難しいところ』
『今のところ立ち回りも型も全然違うけども……』
『いーや、どういうカラクリで不可視の攻撃を見切ってんの?』
『見切ってるというより、もう分かってるみたいな動き方してるよね』
『……予知、スキル?』
『無いだろ』
『いやそれは……』
『流石にぶっ壊れが過ぎるんじゃ』
『曲芸師のユニークタイトル効果とか?』
『途中から常時炎上してるのは何なの?』
『そもそも足が速いにしたって諸々の法則を無視し過ぎだろ。アクセル踏んだら即トップスピードとか物理に喧嘩売ってんのか』
『どこもかしこも阿鼻叫喚で草も生えない』
『総合掲示板も対人スレも軽戦士スレも、たった数分で地獄の様相だよ』
『考える事を止めた俺氏、ただただカッケェとアホ面を晒すばかり』
『それ』
『マジのガチ』
『結局それが全てなんよ』
『推しが一人増えましたねぇ!!!!!』
―――四柱戦争開幕より、未だ半刻と経っていない序盤も序盤。他に優先して映すべきものなど、そう在りはせず。
発信されている映像の殆どがその一幕を映し……自然、一極化された世界の視線のただ中で殊更に注目を浴びる一人の青年は、ただただ目の前の『夢』を楽しむまま。
―――決着の時は、すぐそこに見えていた。
◇◆◇◆◇
「―――だぁあラァッ!!」
際限知らずに荒々しさを増していく大虎の巨顎は、お世辞でも何でもなく脅威の一言。自傷限界一杯まで身を削り体力を一割しか残していない俺など、牙の端が引っ掛かるだけでも容易く消し飛ばされる事だろう。
しかしながら、だ。大言を宣って勝負を挑んだのは、確たる自信とその根拠となる明確な勝算あってのもの。
北陣営序列第七位、【大虎】は紛う事なき強者だ。戦闘センス、身のこなし、付け焼刃の俺の槍術とは比べ物にならない、卓越した槍捌き。
どれを挙げても超一級。実際、囲炉裏なんかとも真正面から殴り合えるだけの実力があるのは間違い無いだろう。
―――ならば、
「こん畜生がッ……!!」
なぜ俺がこれほどまで一方的に、本来ならば格上と言っていい『強者』を手玉に取れているのか―――単純な話だ。
そもそも軽戦士としての速度で確実に上を行き、
更には水の足場という不利効果を宙を駆る事で一方的に押し付けながら、
何よりも、不可視の剛撃という反則級の武器を前提に練り上げられたその戦術を―――《先理眼》というガンメタスキルによって、封殺してしまえるから。
……さて、残り十秒ってところか。
そんな【大虎】特効こと《先理眼》だが、生憎と「魔力馬鹿食い」と言う極大のデメリットは当然ながら据え置きのままだ。
大将殿も俺のステータスバーを眺めながらヒヤヒヤしている事だろうし―――これ以上は長引かせる訳にもいかない。
「そろそろ―――終幕と行こうか!」
「ぬかせや……!! まだまだやぞぁッ!!」
HPは残り一割―――だが実質、俺にとってはこれが全快状態だ。
対して、奴の体力は度重なる交錯を経て既に二割を切っている。おそらくは何らかの防御系スキルが働いているか、またはステータスが耐久にも厚いのか―――何にせよ、見た目以上にタフだった猛虎は既に後が無い状態。
そして俺の最後の一撃は、もう随分前に用意が済んでいるんだよ。
「オラァッ!!」
接近した俺の視界を塞ぐように、《虎牙操躁》の権能によって目前で爆発の如き水柱が上げられる。
純武闘派と言えど、単なる脳筋ではない。
【大虎】もあの手この手で《先理眼》のカラクリを明かそうと抗ってはいるが―――情報を公開していないユニークスキルの全貌など、そう易々と看破されるものではないだろう。
事実、残念ながら今更視界を潰したところで無駄なこと。
俺の十秒先を見通す『眼』には、踏み切る前から攻撃予測線が表示されており―――そんなものは、既に『記憶』の才能が仮想脳に焼き付けている。
両腕の虎牙による左右からの挟撃、そして一拍遅れて真正面からの槍撃。
避ける先は―――下だ。
身体を投げ出すように水へ飛び込んだ頭上を、トンデモない圧力が薙ぎ払っていくのを感じながら。
鞘を手放した俺の左手が、正確に位置を記憶していたそれを掴み取る。
「―――見えとんぞ、曲芸師ぃッ!!」
勘か、はたまた何らかの気配察知スキルでもあるのか。空振りを認識した【大虎】から伸びる予測線が、正面から俺の潜む水中へと矛先を変えて、
果たして―――槍を走らせたのは、俺の方が速かった。
「ッなん、槍……!!?」
右の翠刀が黒槍を払い、左の紅槍が胸を穿つ。
煌々と輝く大紅布をはためかせるそれは―――【早緑月】を抜いた折、この位置に蓄えておいた必殺技プラン。
「なあ―――タイガー☆ラッキー」
「か、っは…………なんや、ハル」
やはりというか、流石のタフネス。咄嗟に自らの槍を手放し両手で紅蓮奮の刃元を掴み取った【大虎】は、紅刃を胸に埋めながらもギリギリで踏み止まり、
笑みを交わす最中―――その尽きぬ戦意が、振り上げられた巨虎の顎から存分に伝わってくる。
流石は序列称号保持者、最高に天晴だよ。
なればこそコレは、紛う事なき好敵手への敬意の一撃。
出し惜しみ無しの超必フィニッシュを贈らせてもらうぜ【大虎】ァッ!!
「ぶち抜け―――《螺旋輝槍》ッ!!!」
鍵言による起動、輝く槍刃、そして点火するは大紅布。
燃え上がった魔力の具現は、赤熱して眩い輝きを放つ槍身へと宿りて、
「超楽しかった!! また戦ろうぜッ!!」
今度はそう―――初見殺しなんて無しのイーブンでなぁッ!!
「――――――、」
最後の最後、呆れたように口元を緩めた【大虎】のアバターを―――
回旋する紅蓮奮の螺旋刃が、耳を劈く唸りを上げて貫き通した。
刀でズパッと決めると思ったって?
ごめんなさい、この人『剣士』じゃなくて【曲芸師】なんですよ。
《螺旋輝槍》―――【魔煌角槍・紅蓮奮】が保有する三種の特殊効果の一つ。アサルトスキル……というわけではなく、喰らったHPを燃料にして超高速でドリル回転&石突部分から魔力を噴出して飛翔する単なるギミック効果。あとめっちゃ光る。
それっぽい名前が付けられたのは製作者の趣味。専属魔工師殿のネーミングセンスが武器本体ではなく此方で奮われた模様。カラット×カラドボルグの意だが、カラットが意味するところは宝石の重さであって輝きとかそんな意味は無いんですよなんてマジレスは知った事じゃ無いそうです。姐さん……
エゲツない回転力は非スキルと言えども中々の威力ブーストが見込めるため、敵にブッ刺してから起動して残虐超必に興じるも良し、投げ槍運用で何ちゃって投擲スキルとして扱うも良し。ちゃんと手を離してから起動しないと最悪腕を持っていかれるから気を付けろ。