ぶち壊し
「サッパリ表に出てけえへんからシャイな奴なんか思うとったら、イイ性格しとるやないか」
「そりゃどうも。一応、相手を見て振る舞いを決めてはいるけどな」
好戦的かつ直情的。加えてまどろっこしい事が苦手で、理知的な者よりもノリの良い者を好む―――以上、情報サイトの人物紹介欄より抜粋。
要点を挙げれば、なぜイスティア所属ではないのかと首を傾げたくなるような人物である。こちらも遠慮無く好戦的な姿勢を見せた方が気に入るだろうかと思い、思い切って煽るような台詞を宣ってみたが……予想通りというか、まあそういう御仁らしい。
テメェこの野郎みたいな語気で言葉を投げかけてくるものの、その顔には俺に対する悪感情など一片たりとも浮かんでいなかった。
黒のレザースーツに虎柄のブルゾンという何ともド派手な装いの青年は、逆立った茶髪を掻き上げながら片手でグルングルンと黒塗りの長槍を弄ぶ。
「っは、ちゃーんとリサーチはしとるみたいやな―――つまりは」
高速で回され黒い円と化していた槍をカンッと小気味よく掴み取り、【大虎】は犬歯を剝いてギラリとした笑みを向けて来た。
「『勝てる』言うたのは、冗談とちゃうって事やんな?」
瞬間、正面から押し寄せるのは純粋な戦意―――本当に、なんでこの人はノルタリアに入ったの? そこらのイスティア人より余程イスティアしてるんだが……イスティア人って何だよ。
さておき、その問いに対する答えなど一つしか無い。
「まあ、そうだな―――勝つ気で挑ませてもらうよ」
彼我の距離はおよそ五メートルフラット。その人となりに滲んだ苦笑いを押し殺して素直な笑みを返し、音高く抜き放つは【兎短刀・刃螺紅楽群】の紅刃。
刀身の中ほどから鋒にかけて、刺突剣の如く先細りになった異形の短刀。
その様を見て、【大虎】は侮りも疑問も浮かべずにただ視線を鋭くする。
「ええもん持っとんな」
「だろ? やらないぞ」
軽口を叩き合う最中にも、空気が変わっていくのを肌が感じ取っていた。
この場は戦場。相対するは『敵』―――ならば如何に楽しげな相手であろうと、長々と言葉を交わし続ける道理などありはしない。
「仲ようなれそうや。今回のが終わったらまた話そか」
「そいつは光栄、喜んで―――イスティア序列第九位、【曲芸師】ハルだ」
『内』と『外』の出力操作を入念に訓練してきた事で身に付いた瞬発力に加えて、微を小に小を大に変換する《兎疾颯走》などの働きもあり、俺のアバターは基本的に『構え』というものを必要としなくなった。
短刀を逆手に握り込んだ右手もだらりと垂らし、傍目には脱力し切っているように見える様は相手によっては「舐めてんのか」と取られるかもしれないが……
「ノルタリア序列第七位、【大虎】―――タイガー☆ラッキーや」
視線するどく俺を睨め付ける青年―――タイガーラッキーは一寸の隙も無く警戒を……して、見せ…………
「……………………え?」
は、なん、あ、え―――……なんて???
「タイ……なに?」
「なんやねん、興を削ぐなや……もっかい言うたる、ちゃんと聞いとけ」
いや、うん。是非お願いしたい。流石にそんな硬派っぽい本人のイメージをぶち転がしてくるようなプレイヤーネームのはずが―――
「ノルタリア序列第七位、【大虎】―――タ イ ガ ー ☆ ラ ッ キ ー や !!」
「なんでだよッ!!」
「なにがやねんッ!?」
何もかもがだよ!!
「こっちのセリフだよ力抜けるわ!! なんで急に子供向けキャラみたいな方向性に舵を切った!? 虎で幸運ならせめてトラ吉とかで良いだろ!!」
「アカンわドアホ!? タイガーでスターでラッキーやぞ!? メチャメチャ格好良いやんけ!!」
スターって何だよ!? 星どっから出てきた!?
「いやもう知らん……!! デビュー戦で初の山場をギャグで潰されて堪るかよッ―――行くぞこらトラ吉ぃッ!!!」
「タ イ ガ ー ☆ ラ ッ キ ー 言うとるやろがボケコラァッ!!!」
交わす絶叫は、数十秒前までの雰囲気マシマシな文句らとは程遠く。
互いにベクトルの異なる怒りを原動力にエンジンを吹かした俺達は、盛大に水を蹴り飛ばして―――黒塗りの長槍と紅水晶の短刀が、真正面から激突した。
お待たせしました。
ちょっとここで切らざるを得なかったので短め……なので、今日中にもう一本。