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高らかな狼煙

 最高速度で跳び出した瞬間、周囲全てが線と化し視界がその意味をほぼ失うのはいつもの事―――今になって思えばそれをいつもの事・・・・・で済ませてしまえるのも、『記憶』という才能ギフトあってこそだったのだろう。


 見て、敷いて、辿る。


 成程、そのどれもが確かに記憶力を前提としたものだ―――まさしく今この瞬間も、視覚に頼らず事前に敷いた短剣みちを駆け抜けられているように。


 今更ながら、納得しかない。高速機動のノウハウ然り、《クイックチェンジ》系スキルの運用然り……【Haruおれ】と言うプレイヤーの戦闘スタイルは須らく、その才能によって支えられていたのだ。


 いつだか思った事がある。


 仮想世界を謳歌する上で、降って湧いた才能も大歓迎だと。


 果たして、その思いは今も変わらず―――才能? ギフト? 上等だよ。堂々と「俺の力だ」と胸を張れるくらい、徹底的に乗りこなしてやるからよぉッ!!


「先 行 っ て る ぜ 囲 炉 裏 ィ ア ッ !!!」


 視界の両端が黒に変わる寸前……即ち、迷路の入口へと突っ込む直前のこと。その傍らに待機していたブロンド侍に一声かけつつ―――


 拠点から迷路へと伸びる長い通路を文字通り()()()()()()()()()、勢いそのまま眼下の水を全て無視して宙を征く。


 明確な能力として認識し、またその確度が信頼に足るものだと検証が済んだ以上、もはや俺に視覚など必要無い。


 いや盛ったわ、視覚などあんまり・・・・必要無い!!


 ほぼほぼ色味くらいしかまともな情報の入って来ない視界を参考程度に、己の記憶九割で宙をカッ飛ぶアバターを操作。


 先ほど見た光柱の距離と方角的に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ―――ならば、やる事などただ一つ。


 南北同盟が本格的に動き出す前に、手当たり次第に『ピラー』を薙ぎ倒すのみッ!!


 正面に迫った黒に激突する寸前で《浮葉》を起動。直角に進路を左へ曲げ、更に二歩で数十メートルを踏み潰し右へ。


 迷路内部に入ってしまえば、十分な壁面あしばが在るため小兎刀の飛翔速度や切り替え跳躍スイッチジャンプのクールタイムに縛られる事も無い。


 左、右、右、左、左、左、右左右右左ィッ!!


「ッシャオラ脳内マッピング完璧だぜ!! さ す が 俺 ぇ ! !」


 一角でも記憶に誤りがあれば既に壁のシミになっていてもおかしくはない―――つまり『記憶』の才能は、もう疑いようも無く十全に機能している。


 おうコラ見てるか世界。顔出しはアレがアレするので今のとこNGだが、期待には応える所存だから存分に楽しんでくれ―――まずは取り急ぎ、長い直線の先に現れた赤い柱テメェを記念すべき初トロフィーにしてくれるわ。


 全世界に向けた【曲芸師】の産声にして、今戦いの開戦の狼煙となる一幕―――折角の見せ場だ、演出過多かつド派手に行こうぜッ!!


 《ブリンクスイッチ》からの切り替え跳躍で真上へ身体を跳ね上げ、回転で勢いを散らしつつ……力場てんじょうギリギリの高さ十メートルにて、真っ逆さまになりながら右手へ【白欠の直剣】を召喚。


「『目覚める白の眼』―――!!」


 瞬間、鋒の『白』が魂依器の剣身を染め上げて、


「『映す世界、移る世界、遍くからを、ただ結べ』!!」


 この手に宿るは、その身で空を駆ける白雷の剣矢。


「《エクレール》ゥアッ!!」


 放たれた刃は白光を散らして宙を駆け―――そして俺自身も、着水寸前に身を捻り切り替え跳躍からの全力疾走。余波で派手に水を爆散させながら愛剣を追う。


 忘れちゃいないぜ。『柱』の周囲には、遠距離からの攻撃を遮断する障壁が存在していると……ならばぁッ!!


「《ウェアールウィンド》!!」


 《ガスティ・リム》の進化スキルを起動。徒手空拳のみから武器にまで範囲を広げた風域のエンチャントを宿して宙を駆け……加速を続ける投擲物に追い付いた瞬間、躊躇い無く『必殺技』へと踏み切る。


 単なる投擲では障壁に阻まれる―――ならば、蹴りこれ融合こうだッ!!


 唸りを上げて空をぶち抜いた右の足裏が飛翔する【白欠の直剣】の柄頭を捉え、アバターに宿る風域が『得物』と見做した魂依器へと絡み付く。


 オマケに後方へ向けて、水平に剣と一体となったアバターの頭上へ伸ばした両腕に宿る風域をリリース。追加で獲得した四肢それぞれ一発限りの『暴発』効果を更なる推進力に変えて―――



「一本目ェッ!!!」



 ザワリと感覚を撫でる何か、恐らくは障壁を無事擦り抜けた真白の直剣は……担い手から、容赦無く足蹴にされるまま。


 高らかな撃音を打ち鳴らし―――真紅の装飾がなされる『柱』を、見事に半ばから貫き砕いて見せた。



 ◇◆◇◆◇



「―――……っは、本当に君は、全く」


 馬鹿みたいな速度で横を通り過ぎる折、ドップラーがキツ過ぎて何を言っているんだか全く分からない叫び声に首を傾げている間に―――コレである。


 数十秒前に出現の光柱が上がったばかりだというのに、再び立ち昇った一際派手な光の塔……『柱』の破壊を意味するその輝きに、囲炉裏は滲む笑みを隠せなかった。


「…………アイツは、羽でも生えてるのか?」


 瞬きしていれば見逃すような速度で宙を奔り抜けていった青年の姿を思い返してか、珍しく素直に驚いた様子でゲンコツが目を瞬かせている。


「そうだよ。それはもう、自由で無邪気で常識外れな、馬鹿みたいに大きな翼がね―――俺達も行こうか、後輩にばかり良い格好はさせられないだろ?」


「……そうだな。行くか」


 そうして『一番槍』に次いで戦場へと繰り出す二人の後方。拠点で足を止めている―――否、驚きや困惑から身を固めているプレイヤーの集団は、一様に言葉を失っていた。


 辛うじて「はっや」とか「見えねぇ」とか「えぇ……」などといった呟きが散発される中、多少なりともかの青年の『異常』の方向性を知り得ていた者達はと言えば。


「…………ゴッサンが『度肝を抜かれる』なんて言うはずね」


 参りました、とでも言うように雛世が脱力した笑みを零し、


「…………何あれアホなの……? え、見えた?」


「…………宙を走ってる事だけは分かった」


「言っただろう? 彼なら心配いらないって」


 呆れたように呆けていたミィナが相方に問い、リィナが首を横に振って、傍に立つロッタが自慢げに顔を綻ばせた。


「………………あのさぁ」


「く、クク……お、おう、なんだ?」


 ドン引きの様を隠さずに状況を見ていたテトラがジトッとした視線を向ければ―――滅茶苦茶を体現した青年と周囲の反応を見て、至極愉快とばかり笑っていたゴルドウが応える。


アレ・・、天敵の排除とか要る? 相性不利でも薙ぎ倒しそうな勢い―――なん、だけ……ど…………」


 そんな最中に、()()()()()()()()()()()()


 言葉を失った少年が遂にはポカンと口を開けて見やる先で……そのまた十秒後、当たり前と言わんばかりに三本目が天へと伸びる。


「ぐくっ……! ―――カァッカッカ!! あぁ、ったく堪んねえなぁ……!! 期待の方がちっぽけだったみてえで申し訳ねえってもんだぜ!!」


 堪え切れずにゴルドウがその喝采を溢れさせれば―――大舞台でただでさえ気持ちが盛り上がり易くなっているプレイヤー達に、そのテンションは容易く伝播する。


 そうすれば勿論―――それを見逃す【総大将】ではない。


「おらテメェら、なにボケッとしてやがる!!」


 金の偉丈夫が声を張り上げれば、続く『号令』を予期した彼らの足は一斉に同じ方向へと向けられて、



「我らが【曲芸師】が馬鹿デカい狼煙を上げたぞ!!―――続 け 野 郎 ど も ァ ッ ! ! !」



 さすれば、大地を揺るがす鬨の声は上がり―――戦闘狂イスティアの軍勢は動き始める。







 ……なお、そんな盛り上がりの裏で。


「―――ちょ、待っ!? こらーッ!! 防衛班まで突撃するなーッ!!!」


 戦意爆盛りで水を蹴散らし迷路の入口へと駆け始めた全軍・・を、ミィナが怒り混じりに慌てて追いかけるという―――後にネタにされるであろう、そんな一幕もあったとか。






周りがボケだらけだとツッコミに強制ジョブチェンジさせられる赤色。

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― 新着の感想 ―
[一言] この回めっちゃ好きです!w
[一言] 君ゲームの電脳でもジャックしとんか? そして意外に常識的な赤色娘
[良い点] これは良い、新手のライダーキック。
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