幕間
『―――さあさあ遂にやって参りました!! 仮想世界アルカディアに於ける、記念すべき第十回! 四 柱 戦 争 のお時間です!!』
『開幕まで残り三十分を切りました! 存分に盛り上げていきましょう、毎回恒例の直前番組【クアッドウォー・ビフォアー】!!』
『進行はお馴染み、ワタクシ野々宮蜜柑こと―――西陣営第三席、【彩色絢美】ノノミでお送りいたしまーす!!』
『さあさあ残りは二十七分! CMやら何やらを除けばニ十分もありません! 今回も毎度の事ながら、巻きの巻きで行きますよー!』
『まずは基本情報から! このあと開幕の四柱戦争ですが、開催時間は現実時間の午後八時から十二時まで計四時間!』
『現実世界と仮想世界では時間の流れが違いますが、そこは心配ご無用! 【Arcadia・Archive】―――通称AAから発信される無数のオリジナル視点映像は、相も変わらずの謎超技術によって、リアルタイムで編集&公開される疑似生中継となっております!!』
『何を言っているのか分からないと思いますが、私も何を言っているのかサッパリ分かりません! 技術的なことを深く考えても無駄だという事は世界中の有識者様たちが証明していらっしゃいますので、そういうものだと思ってスルーしていきましょうねー!』
『数十に及ぶ各映像は、インターネット上で完全無料公開! AAのサイトで直接見るも良し! 様々な動画サイトで配信を共有するも良し! お茶の間で実況番組を見るも良し!』
『色んな視点を並行して追うのは超楽しいけど超大変なので、覚悟を持って臨みましょー!! 私は毎回二十視点くらいを同時に表示して頭パンクしてまーす!!』
『さて、細かいルールなど戦争に関しての説明はQWB番組公式サイトを要チェック! こちらでは、今回の四柱戦争の注目所をピックアップしていきたいと―――』
◇◆◇◆◇
「相変わらずテンションたけぇな」
「あたしノノミちゃん好きー」
「一昨日公開してた振袖、相変わらず凄かった。流石は三期連続三席」
広々としたホームシアターに集まった大学生の三人組が、大画面に映し出された情報番組を前にして口々に言葉を交わしている。
「はいお待たせー」
そこへグラスの載ったお盆を手に家主―――では無いが、客人を招いた住人が加わる。礼を言う友人たちに飲み物を配り、楓も親友の隣の席へと納まった。
『注目は何と言っても、東陣営イスティアで新たに台頭した序列九位―――』
「【曲芸師】なぁ」
「囲炉裏君が負けたって噂、ほんとなのかなー?」
「本当だったら七位より上になってそうなもんだけどよ」
「外見情報すら無し。時期もあって、過去最高クラスで秘匿されてる」
俊樹と翔子が喋り倒し、美稀が時たま言葉を挟む。いつもはそこに、楓もちょこちょこ絡んでいくのだが―――
「……にひ―――かーえーでー?」
「わっ、わ……!? な、何々、翔子ちゃん、なにっ!?」
大人しく座ったまま、抱いたクッションの上でスマホを叩いていた楓が、ニヤリと笑みを浮かべた翔子に背後から絡まれて悲鳴を上げる。
「春日君に連絡でもしてた?」
「な、ちがっ……もう! 本当にそればっかり!」
「春日君ばっかりなのは楓でしょー?」
「怒るよ!?」
対して効果など無いのは分かった上で、精一杯に睨んで見せる。「ビックリするぐらい迫力が無い」と評判の怒りアピールは、果たしてやはり威力不足。
翔子はカラカラと笑って楓を解放した後、何故か「よしよし」と頭を撫でてから元居た席へ戻っていく―――この謎の子供扱い、いつかは改めて頂かねばなるまい。
「―――でも連絡してたのは本当のこと」
「なんでそこで親友を裏切るの!?」
ポソッと呟いた美稀の言葉に、全く同じ動作で此方に向いた二つの顔が、全く同じ色味のニヤ付きに染まる。
「ち、違くて……連絡したのは結構前で、ずっと既読すら付かないから」
端末の画面を見れば、表示されているのはトークアプリのチャット履歴。なんともなしに他愛ない一言を送ったのは三時間ほど前の事だ。
「本当に忙しいんだなーって、思ってただけだもん」
「あー、まあ、それなあ。何してんのか知らんけど、大変そうだよなアイツ」
「謎に悟った顔で瞑想してる時あるよね、春日君」
四柱戦争から話題が逸れて、新たな話題で二人は盛り上がり出す。時折飛び火して揶揄われる度に、楓も律儀に応戦して―――
『全くと言っていいほど情報の無い彼、或いは彼女ですが、二ヶ月ほど前から度々アルカディア界隈を騒がせている幾つかの事件と関係があるのではないかと―――』
「………………」
そんな三人を他所に、一人静かに番組を見ている美稀が首を傾げる。
「…………二ヶ月」
―――あっちの情報に触れるようになってから、まだ二ヶ月ちょっとしか―――
同日の事だから、だろうか。ふと思い出した『彼』の言葉と共に、頭に浮かぶのは余りにも馬鹿馬鹿しい考え。
荒唐無稽にも程がある、そんな与太話めいた発想を―――
「……オタクの妄想が過ぎる」
自ら、そんな風に笑い飛ばして。
気まぐれで意地悪をしてしまった罪滅ぼしにと、美稀は劣勢を極めている親友のフォローに入るのだった。
リアルタイム編集&公開×数十視点ってなんだよ。