とある一般プレイヤーの配信にて
半分番外編くらいのノリで見ていただければ。
「―――はーい今週も皆おつかれさまー土日もお仕事の人はこの放送を励みに頑張ってくださーい! 金曜午後九時『ひより日和』のお時間ですよー!」
『 待 っ て た 』
『この為に生きてる』
『嗚呼……今週も推しの声が聴けた……』
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―――
「はい皆ありがとー。週一ラジオ気取りの本企画、パーソナリティは今日も変わらずイラストレーター兼Archiverの三枝ひよりでお送りいたしまーす」
『キャーひよりーん!!』
『兼声優が抜けてるぞ』
『兼アイドルも抜けてるぞ』
『兼現役女子大生も抜けてるぞ』
『本業は画家定期』
「あーうるさいうるさーい。声優になった覚えもアイドルになった覚えもありませーん。現役女子大生に至ってはどこから出てきたのかなー?」
『声と演技でヒロイン食ったせいで存在を消された女生徒Cが何か言ってる』
『登場時間三分で総合人気投票四位に入った女生徒Cさんじゃん!』
『ガチファンの作者に拝まれて出演したゲスト枠で伝説を残した女』
『画家兼アイドル声優兼イラストレーターArchiver(20歳女子大生)……?』
「それでは告知の通りサクサク参りましょうー。毎度恒例、四柱戦争の簡単解説&質問コーナーでございまーす」
『スルーで草』
『相変わらず都合の悪いコメントは見えない目を持っていらっしゃる』
「皆とイチャイチャしてたらいつまで経ってもお話が進まないの。いい子だから大人しく概要欄に置いてあるファイルを開いてお付き合いするよーに」
『ひよりんとイチャイチャしてお付き合いが出来る配信……?』
『ほう……いくら払えば良い?』
『投げ銭OFFとかいう極大のバグ』
『相変わらずの無欲配信』
『流石は何かデッカい美術館に絵画が飾られてる画家様だぜ』
『懐具合に余裕を感じる』
『ひよりんの懐に住みたいだけの人生だった』
「はい本当に進まないからちゃっちゃ行くよー? 四柱戦争概要のテンプレートを開いてね―――開いてくれたかな? さてここで大事なお知らせがあります。気付く人はすぐに気付いたと思うけどー……わたくし三枝ひより、前回まで使っておりましたファイルを紛失していた事に、配信直前で気が付きましたー」
『出ました』
『いつもの』
『ひと月に一回は何かやらかさないと気が済まない性質?』
『逆に狙ってるまである』
『あざとい』
『流石ひよりんあざとい。好き』
「これに関しては本当にごめんなさい。急造でサラッと作った新しい概要だけど……思い出せない部分も多々あるので、修復を手伝ってもらえると助かります」
『しっかり謝れて偉い』
『むしろ良いおさらいになるんじゃない』
『継ぎ接ぎ極まれりだったし、前のより良くすりゃええんよ』
「こういう時だけ優しいフリするよね? 数秒後には詫びイラストだの詫びボイスだの言うくせにね?」
『何のことかなぁ……とりあえずイラストは全裸待機しておきますね?』
『言いがかりも甚だしい……そろそろASMRとか恵んでくれて良いのよ?』
『詫びひよりん』
『詫びひよはよ』
「詫びひよ……なにそれ、私自身を要求されてるの……?」
―――――――――
――――――
―――
「っはぁー……皆ありがとう、助かりました―――と、いう事で。テンプレートの修復も済みましたところで、遅れを取り戻す勢いで参りましょうー質問解答コーナーのお時間でーす」
『教えてひよりんのコーナー』
『一般底辺プレイヤーひよりん先生によるお勉強タイム』
『現実世界つよつよで仮想世界よわよわなの好き』
『積極的に難しい質問をしていけ』
『答えられなくてオロオロするの毎度かわいいんよ』
「………………はい。それじゃメッセージ機能ONにするので、何かありましたら気軽にどうぞ」
『急にローテンションになるじゃん』
『ダウナーボイスも素敵なので無問題なんだよなぁ』
『そして唐突に始まるお絵描き配信』
『精神安定剤みたいにイラストに走る』
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――――――
―――
「さて、それでは質問の方を次々返していきたいと思いまーす。まーずーはー……え? あ……」
―――逸般人で草。
「スゥー―――……誤字、です。失礼しました」
『一発目から質問じゃなくて大草原』
『草』
『こんなん笑うわ』
『コメント見る限り視聴者も大半気付いてなくて草』
『逸般人……まあ序列持ちじゃ無くとも、四柱に選抜されてる時点で間違ってはいないよなぁ?』
『まあ選抜メンバーの面々が一般人かと言われたら……』
『北のメンツは辛うじて……ギリギリ……アウ……』
『南は女王の軍隊だし東は頭イスティアだし……』
「あ、はは……えー気を取り直して、一つ目の質問に参りまーす」
―――序列持ち以外のプレイヤーを倒した時にはポイント以外の得点は無いの? 連続撃破ボーナスみたいなものとか。
「ありませーん。何人倒しても、どれだけ連続で倒しても一人につき1ポイントが手に入るだけだよー」
『連続撃破ボーナスとかあったら、砲撃特化の魔法士がとんでもねえ事になるぞ』
『東の双翼が全てを無に帰しそう』
『というかイスティア連中がマジで止められなくなるよ、範囲殲滅特化に限らず』
「あとは『お姫様』も益々手が付けられなくなっちゃうだろうねー……さて、お次ですよー」
―――複数陣営のプレイヤーがそれぞれ攻撃を与えて一人を倒した場合、獲得ポイントはどうなる?
「これは貢献度……与えたダメージの量で決まります。一般プレイヤー相手ならダメージをより多く与えた陣営が1ポイント獲得。これが序列持ちや大将なんかだった場合は、貢献度の多寡でポイントが分配される感じだね」
―――『柱』は破壊してもポイント獲得だけ? 何かしらの効果を受けたり与えたりはしない?
「一般プレイヤー撃破と同じく、何もありませーん。……あー、いや、システム的には何も無いけど、破壊された側の士気とかが……」
『ピラーは基本的に折られたらアカン』
『最近は柱を攻めるか守るかの戦いになりがちだからなぁ』
『大体ピラー周りが戦域になるからね』
『一本100Pはわりとエグみ』
「……と、言う感じで。三年が経って四柱戦争もそれなりにセオリーみたいなものが出来つつあるんだけど、如何に敵陣営の守りを出し抜いて柱を倒していくかが重要なので……そうだね、プレイヤーの士気に大きく関わるって言うのが、効果と言えば効果かな?」
―――『柱』ってどれくらいの耐久力があるの? 個人で破壊できる?
「出来まーす。思ったより頑丈だけど思ったより脆い―――みたいな絶妙な硬さ。流石にポキポキとは折れないけど……んー、パワータイプの戦士がバフ特盛で全力アタックすれば、まあ一撃……くらいじゃないかなー?」
『大体そんなイメージ』
『魔法だと折るのしんどいけどね』
『障壁の事も説明した方が良くない?』
「あ、そうだそうだ障壁。『柱』は大体半径二十メートルくらいの範囲で相互不通の障壁が張られているので、遠距離から狙撃や砲撃で攻撃する事は出来ません。なので近付かないといけないんだけど、当然ピラーの下には防衛の為に該当陣営のプレイヤーが大勢いるので……」
『紙装甲の遠距離ビルドが近付こうものなら死よ』
『障壁の内部に辿り着く事すら出来ないのが常』
『柱の攻略では遠距離型は支援に徹する形になるね、例外は除いて』
『例外……熱視線……ウィンクひとつで爆発四散する守備隊一同…………』
『(雛世様を崇めよ……)』
『(二丁拳銃スタイルで抜群のプロポーションの美女とかいう激強属性)』
『(ドレス姿が毎度麗し過ぎてもう本当にありがとうございます)』
『(ひよひよ言ってるよわよわヒヨコとつよつよ雛世様……一体どこで差が付いたのか)』
「よわよわヒヨコっていうのは私の事かなぁ? ん~?」
『ひよひよひよりん』
『ひよこが圧を発したところでなぁ?』
『ひよこかわよ。かわよこ』
『川横……?』
『増水したらヒヨコ流されちゃう』
「…………あーもう、何の話なの? うるさいうるさいハイお次ー」
―――出現した『柱』の位置って分かるの?
「目視出来る範囲なら。迷路の外壁が十メートルくらいで、柱は三十メートルくらいあるからね、レーダーとかに映ったりはしないよー」
―――迷路の壁って破壊とか出来る?
「無理だねー」
―――壁越しに支援魔法とか、壁を挟んで魔法で爆撃とかできる?
「無理だよー。そもそも迷路の壁ってかなり分厚いから、壁越しだとほぼ別エリア判定で支援魔法とかはターゲティングすら出来ない。爆撃に関しては……壁越しに山なりで撃てば~みたいな事だよね? 概要にも書いてある力場がプレイヤー以外にも影響するのでダメです。武器を投げても叩き落されるし、魔法は掻き消されちゃうよー」
―――拠点の占領って、何をどうしたら占領したことになるの?
「戦時拠点の占領に関しては、エントランスホールの一番奥にあるでっかい水晶に他陣営のプレイヤーが触れた瞬間にゲームセット。普段は序列称号保持者の名前が刻まれてる石碑のある場所で、戦争中だけオブジェクトが置き換わります」
―――序列持ちの《交戦解除》って《強制交戦》を仕掛けた側でも出来るの?
「でき―――……えっ…………とぉ」
『でき?』
『でき……?』
『でき…………ま』
『できま……???』
「で、き………………い、イラスト、一枚で……」
『できませええええええええん!!!』
『Yeah!!』
『 や っ た ぜ 』
「むぅ……えと、そういう事で、《交戦解除》は仕掛けられた側しか出来ないそう、です」
―――序列持ちが序列持ちを弱らせておいて、一般プレイヤーにトドメを刺させたりとかは可能?
「わぁ、中々アレなご質問が……出来るか出来ないかで言えば出来るけど、やる意味が無いかな。特典スキルが目当てなら、あれは『一般プレイヤーのみで序列持ちを倒した場合』限定なので……」
『そんな事したらブーイングやばそう』
『スポーツマンシップというかアルカディアンシップに則りだねぇ……』
―――《交戦割込》は『中』のプレイヤー側から発動できる?
「《強制交戦》を仕掛けられた人が外に向けてって事かな? これは出来ない、だね。あくまでも外側から同陣営の仲間を助けるためのスキルだから」
―――《交戦解除》を発動した相手にすぐまた《強制交戦》は仕掛けられる?
「これもダメです。《交戦解除》は発動後しばらく《強制交戦》を弾く効果が得られるので……確か五分くらい、だったかな?」
―――戦争って途中参加とか出来るの?
「へっ? 途中参加……は、出来ないです。事前エントリーした三百人 しかフィールドには入れないからね。例えば定員に空きを作っておいても、その分のプレイヤーを後から召喚したりは出来ないよ」
―――ひなりんは戦争出ないの?
「ひ よ り ん だ よ ? 皆が大好きで皆の大好きな三枝ひよりちゃんですよー?」
―――――――――
――――――
―――
「さてさてー……質問解答も大体おしまいという所で、本日はお開きの時間ですよー」
『おつひよー』
『おつひよひよー』
『今日も良い声だった』
『ひよりん成分補給助かった』
『いつもより喋りっぱなしだったし、お喉様を労わったげてね』
「はーい皆もありがとー!―――それでは、本日の『ひより日和』でした。これからすやすやおやすみの人も、これからまだまだ頑張るぞの人も、お付き合いいただきありがとうございましたー!」
「―――…………ふぅぁ」
配信の締め括り。最後に描き上げたイラストを画面に映し出して、三年前から続けているウィークリーラジオは本日も恙無く終了。
トークはコメントのノリにも助けられ変わらず好調、お絵描きの方もいつも通りに好評で―――サイレントモードで脇に置いていたスマホが音も無く点灯して着信を知らせるのも、またいつも通りの事。
「はいもしも―――しぃっ……!?」
見知った名前の通知を見て迷いなく通話を繋げば―――スピーカから響いてくるのは声ではなく、何か柔らかいものにでもスマホを叩き付けているかのような「バフバフ!!」という鈍い音だった。
「あーもー分かった分かったから。バンバンしないのゴメンってば」
苦笑いしつつ再びPCへ向き直り、これまたいつもの如くチャットルームを立ち上げる。
電話の向こうで『彼女』がお怒りなのは知れた事だし、その原因だって分かっていた。それというのも先程アップしたばかりのイラスト……とある女の子をモデルとした少女と、話しに聴いただけの想像で描き上げた男の子の絵。
二人のキャラクターを並べて、『初恋』と銘打ったこの作品を見られてしまったからだろう―――他ならぬ、モデルの女の子その人に。
「―――流石、よく分かったねニアちゃ。目元くらいしか似せてないよ?」
悪びれもせずに笑えば、次々とモニターに表示されていく文句の数々。
些細な喧嘩など慣れっこである事を差し引いても、通話の向こう側で照れまくっているのが手に取るように分かるため何にも怖くない。
「あーはいはい。私の親友は本当に可愛いんだからもう」
揶揄えば、スピーカーの向こう側で再びスマホがやわっこい暴虐に晒されている気配が伝わってくる。
ここ最近、新たな出会いを経て今までにない魅力に溢れつつある友人にほっこりしつつ……三枝ひより―――仮想世界では【ひよどり】という名のプレイヤーである彼女は、イベントを目前に控えた金曜の夜を和やかに過ごしていた。
四月二十八日、金曜日。
世界中が待ちわびる仮想世界の大舞台―――四柱戦争本番まで、あと二日。
サッパリまとめるつもりが長くなってしまった。
ほぼ会話で五千文字って大丈夫かこれ……