表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
170/975

得てしてギャップは目を惹くもの

蒼空の天衣ドレス・オブ・エルクリア】―――俺の【蒼天の揃えシリーズ・エルグラン】とは異なり単体で完結しているこの衣服装備は、当初予定していた単純なステータスアップという方向性から大きく行く先を変えたらしい。


 というのも、要請があった追加素材を受け渡す際のこと。改めてソラのビルドの詳細を問われたので答えてやれば「やっぱただ幸運補正載せるだけだと微妙では?」となり、そのまま微妙な品・・・・を仕上げるのを渋ったニアに「もう好きにやってくれて良いぞ」と俺がGOサインを出した為だ。


 結果―――この衣装は【幸運を運ぶ白輝鳥スティラック・エルブルド】の羽根の他に、()()()()()()()()()()()()()()()を用いて制作されるに至った。


 宝石を織り込むってどういう事? と俺は無限に首を傾げたが、仕立屋殿に訊いても理屈なんぞ問われても分からんとの事で……難しい事は考えず、ファンタジー技術すげーと納得するのが吉なのだろう。


 ともあれそういう事で、【蒼空の天衣ドレス・オブ・エルクリア】は布装備カテゴリでありながらアクセサリーの性質も備えるという『特別仕様』に仕上げられたとのこと。


 正確に言えばそれ自体がアクセサリーというわけではなく、付属するアクセサリーの効果を増幅する下地としての機能を備えるといった感じらしいが―――


「むーん…………」


 ニアが唸り声を上げながらソラの周囲をグルグル回り始めて、既に数分が経過している。どうにもこの仕立屋殿、俺に【藍玉の御守アガファンセス】を授けてくれた時のように「受け渡しの際に完成させる」というスタイルらしい。


 仕上げのワンポイントがあるとかで、モデルを観察してそれがバッチリ嵌まり込む形を模索していらっしゃるようだ。


 「自然に立っていて」と言われてから緊張した面持ちで直立不動を貫いていたソラさんだが、ずっとそうしているものだから徐々に気が抜けてきたのだろう。


 ソファに陣取って新たな装いを眺めている俺に、ジトッとした視線を飛ばしてくる。


「……あの質問・・・・、この為だったんですね」


 いつぞや、唐突にスカート派云々を訊ねた事を言っているのだろう。悪びれもせずグッと親指を立てて見せれば、ソラは不服そうに僅かばかり頬を膨らませた。


 超可愛い。


「もう、なんで内緒にするんですか……! ビックリしすぎて上手に喜ぶ事も出来―――っひゃぁう!?」


 と、俺達のやり取りなど我関せずで好き勝手動いていたニアが()()()()()()()()を起こし、ソラは悲鳴を上げ俺は咄嗟に目を逸らした。


 そりゃまあ、いきなり胸元を強調するように脇腹でグッと服を絞られたらビックリもするだろうよ。俺も此の場にいるんですが、男の目がある事を忘れていらっしゃるのかな?


「うむむ……ソラちゃん意外と……」


「ニアさんなにして―――!!」


 あ、OK。耳も塞いだ方が良さそうですね。


 ソラの抗議の声、その半ば辺りで両耳を塞いで音声をシャットアウト。


 俺は何も見ていないし何も聞いていない、断じて。



 思えばもう一度部屋を出ていれば良かっただけなのだが、そうして固まっていること更に数分。膝をちょいちょいと突かれて目を開ければ、ソラの傍を離れたニアが目の前に立っていた。


「……終わったか? お前、熱中するのは良いけど俺の目がある事も考えろ?」


「あーはいはいごめんごめん。いいからちょっと来てほら早く」


 相も変わらず、仕事に限っては真面目というかどこかストイックな奴である。グイと手を引かれるままに立ち上がれば、未だ微かに頬を赤くしているソラの隣へと連れて行かれる。


「ん-……ん、う……バランスは、悪くない、けど………………うん」


 まるでセットのモデルのように立たせた俺達を様々な角から見回して、最後に一つ納得したように頷いたニアは何やらシステムウィンドウを展開する。


 目線は俺達……というか再びソラに固定したまま、超速タイピングの如き速度で細っこい指が光板の上を走り回り―――


「おぉ……」


「わぁ……」


 思えば、直接見るのは初めてとなる―――しかも最上位クラスである職人プレイヤーの作業の一端を目にした俺とソラは、揃って感嘆の声を上げた。


 ニアの手元に現れたのは、由来の分からぬ一抱えほどの黒い皮素材。宙に浮くそれを左右から挟むように彼女が手を翳せば、素材を中心に複雑な魔法陣が多重展開。


 微動だにせず、ただ一心に素材を見据える職人の手の中。立体パズルを思わせる挙動でカシャカシャと陣が何事かを刻むようにそれぞれ独立して回り始め―――複数の段階を経て、瞬く間に『皮』が『革』へと姿を変えていく。


 すっかり綺麗になり、素材から生地へと変貌したレザー表面をニアの指先が走れば、魔法のように―――というかそのものなんだろうが、細く裁断された生地が次々と加工されていき……あっという間に出来上がったのは一本のベルト。


「ちょっと失礼、腕上げてもらえる?」


「は、はいっ……!」


 疑う余地もない、見事なプロの手際に気圧されたのだろう。緊張を取り戻した声音を零しながら、ソラはピシッと直立不動でニアを受け入れた。


 促されて両腕を軽く持ち上げた少女の胸の下―――鳩尾の下あたりでグルリと一周、ニアの指がドレスの生地をなぞる。


 くすぐったかったのだろう。ピクリと反応したソラを他所に、指が走ったライン上には幾つかの通し穴が姿を現していた。


 そこへ、フヨフヨと彼女の片手の上で浮いていた細いベルトがスルリと通っていく。胴を巡って帰ってきた先端の余分をピッと指先で切り飛ばして繋ぎ合わせたかと思えば、ニアはまた暫しの思案顔。


「んん……違う」


 と、否定を一つ。意外に様になっている仕草で指をパチンと鳴らすと、光を呑むような黒だった革がその色を変える。


 パチン、パチン、パチン。立て続けに指を鳴らすたび、ベルトは次々と彩色を変遷させていき―――ニアが指を止めたのは紅。ソラの首元で煌めくチョーカーと同じ色だ。


「ソラちゃん」


「はいっ」


「キツくない? 硬さは平気?」


「大丈夫ですっ……!」


「ん、そしたら―――」


 もはや完全に従順というか、為されるがままに従うソラ。それを隣で見ている俺も俺で、普段とは全く違うニアの様子に目を奪われていた。


 何だコイツ、格好良いじゃねえか。


 こうして実際なにかを造るところ、実は俺も見た事なかったんだよな。彼女には【紅玉兎の髪飾り】をまさしくこの場で作って貰ったことがあるものの、あの時はずっと後頭部を向けさせられていたし作業に関する会話も無かったもので。


 見直した、というのは違うな。上手く言葉に出来ないが……


「喧嘩するかなぁ……でも差し色……や、髪色が明るいからこっちで……」


 まあ、とにかく―――職人として真剣にモデルに向き合っているその姿を、魅力的に思えてしまった事は認めざるをえないだろう。



 ◇◆◇◆◇



「ふはぁー……!! ど う で す か ぁ !!!」


 ―――そしてこの落差。


 衣装の手直しと仕上げを終えて、満足げな息を吐き出したニアが迫真のドヤ顔で評価を迫ってくる。


 呑まれていた……というか、もうぶっちゃけ見惚れてしまっていた事実が悔しくてぞんざいな態度が出そうになるが、ここは流石にグッと堪えた。


 自信満々な彼女は果たして、確かに見事な仕事を披露して見せたのだから。


「もう本当に、すげえとしか言えんな……最高が最高を越えて最高になったわ」


「た、確かに凄いです、けど……うぅ……!」


 調整個所は二箇所だけなのだが、それだけでこうも変わるものかと驚くばかり。ジッと見られて恥ずかしそうにしているが、ソラさんとて何だかんだ満更でもない様子。


 ふわりとした全体の印象は残しつつ、一部をベルトで絞った事でメリハリが出たというか……その、明言は避けるが、色々と魅力的になったのは確かだ。


 ほんのり健康的な色気と少女のあどけなさが相まって、中々絶妙なラインを攻めた感じに仕上がったと言えるだろう。


 で、残る一箇所はドレスの腰元。こちらに追加されたのはワンポイントの装飾で、俺が贈られた【藍玉の御守アガファンセス】と同じような宝玉のアクセサリーだ。


 深い黄色に輝くのはゴールデンサファイアという稀少な宝石。本職たる宝石細工師の手によって見事に研磨されたそれは、ソラの髪と瞳の色とマッチして上手く衣装に溶け込んでいる。


 このアクセサリーが核となり、衣装が増幅装置の役割を果たす事で特殊な効果を発揮出来るわけだが……なんか思ったよりピーキーというか、全体的に尖った性能をしていらっしゃってソラさんが少々戸惑っていた。


 また暇を見つけて練習が必要かな―――さておき、評価の結論を待ち受ける仕立屋殿に向ける言葉など一つしかないだろう。


「ニアちゃん天才」


「ふっふん……! あったりまえじゃん!」


 総評を下して手を掲げれば、殊更に機嫌を良くしたニアが勢いよく両手をぶつけてくる。次いで、まだ僅かばかり戸惑いを残している様子のソラが、お礼を言おうとしたのか声を掛ければ……


「あの、ニアさん。突然でビックリはしましたが、ありがとうござ―――ふぎゅっ……!?」


「っはぁー! まあでもアタシの衣装がってよりソラちゃんだよソラちゃん! モデルが可愛いからこそというかもう本当に可愛い写真撮って良いかなぁっ!」


 今度はそっちへ飛んで行った彼女は遠慮無しに、すっかりお気に入りのモデルへと満面の笑みで抱きつきにかかった。


「なんっ、にゃ、えうっ……!?―――は、ハルっ……ハル! 助けて下さ……!!」


 さすれば、パタパタともがくソラさんから助けを求める声がひとつ。大事なパートナー殿からの救難要請だ、もちろん最終的には・・・・・応える他に選択肢は無いが……


「ハル……? ハルっ……!? あの、助けて……! 助けて下さいってばぁ!」

 

 思わず頬が緩むこの光景を、もう少し眺めていたいと思う俺は間違いなく正常。


 後のお説教程度は安いものだ―――なんて他人事みたいに考えつつ、聞こえないフリをしながらソファへと舞い戻る。



 それから数分後。当然の如く正座させられた俺が、爆速で後悔しながら平謝りするはめになったのは言うまでもない事だ。





予約が一段ズレて来週投稿になってましたよハハ。ドジめ……!

そしてサラッと性能解説だけ入れて解散するはずだった本編が暴走してる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] オリジナルの衣装を作れるのも凄いですが、作成済み衣装を手直しできるのがさらに凄い。クラフト面のVR技術ももっと見てみたいと思いました。 [気になる点] ずっと気になっているのですが、このゲ…
[一言] ニアちゃんのカッコいい職人姿を堪能しました やはりニアニウムは必須栄養素、なければ人は死ぬ…
[良い点] 久々のニアチャンでニアチウムを補充出来ました(ほっくり
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ