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十席 1/2

 東の序列持ちが五人。世間一般の常識に照らし合わせれば、よくよく考えればとんでもない絵面と言えるのだろう。


 まだ顔が広まっていない俺は省くとしても、他の四人は紛れもない有名人……それこそ、世界的に名の知れたスターと言っても過言ではないほどの者達であるはずなのだが―――


「ハル君、調子はいかがですか?」


「いやぁハハ……すいません、もう少し―――」


「っハ」


「いやもうぜんッッッぜん平気です無問題です再開しましょうかぁ!!」


「わっかりやすー」


「やる気があるのは、良い事」


 とか、


「というか、わざわざ様子見に来る暇はあるのか?」


「選抜戦も終わったからね。元々、俺達の方に回ってくる雑務はそれほど多くも無い」


「お抱えの事務員さん達もいるからねー」


「ゲームプレイで事務員やってる人いんの……?」


「ちゃんとお給料が出るそうですよ」


「えぇ……」


 とか、


「で、で、でぇ~? おに~いさんはぁ、デートしてたんですってぇ~???」


「パートナーと冒険してただけです」


「っはぁー!! ネタは上がってるんだからねキリキリ白状しなよほらほらぁ!!」


「パートナーです」


「……可愛い子って聴いた」


「お前もこういう話にはノるのか……」


「ソラちゃんのお話でしょうか。本当に、とても可愛らしい子でしたよ」


「ソラちゃん、へぇ?」


「ソラちゃん、ほぉ~ん?」


「ソラちゃん?」


「ええい絡むな! 俺は何も言わんぞ!!」


 とか、


「パートナーとも怪しい・・・感じだって言うなら君、結局【藍玉の妖精ミルマリナス】とはどうなんだ?」


「おまっ……このタイミングで……!」


「ミル―――は? はぁあ~!? ナンデそこでニアちゃんが出てくんの!?」


「こっちも知り合いかよ……! なんでも何も、少し一緒に行動してただけ―――」


「仲良さそうにじゃれ合ってるように見えたけど」


「お前ぇ!! じゃれ合って・・・はねぇよ!!」


「合っては……一方通行?」


「はぁ~!? お兄さん、はぁ~!!??」


「あー喧しい喧しい!! 別に意味深な関係じゃ無いっての!!」


 とか、


「ハル君?」


「は、はい……?」


「不誠実だけは、いけませんよ?」


「―――ちょっと待ってください今から本気の弁解をしますので真剣に聞いていただいても宜しいでしょうか」


「ねぇ、ういちゃんとその他で態度違い過ぎない?」


「当たり前だろ」


「妥当」


「リィナちゃん? なんでピンポイントであたしだけ見て呟いたの?」


「先生>その他>お前の順だからだよ」


「っはぁー!!??」


 とか、とか、とか。


 何というか、こう……何? 浮世離れした雰囲気も緊張感も皆無というか、特別なことなど何一つない日常感。


 ダウンしていた俺を囲んで始まった談笑は延々と続いて―――


「その内ちゃんと紹介してよねー」


「分かった分かった……どうせ会う機会なんて幾らでもあるだろうよ」


 グイグイ来る赤色をぞんざいに押し退けてリィナに突っ返せば、相方であるはずの少女からは迷惑そうな顔を向けられる。


 お前がわりと常識人だって事は分かったんだ、皆の幸せのために責任持って手綱は握っておいてくれ。


「―――おい、誰のためにやる・・と思ってるんだ。ちゃんと見ておけよ」


「俺が悪いの???」


 呆れたような声に振り向けば、小高くせり上がった舞台の上から囲炉裏が此方を見下ろしている。その対面にはういさんが立っており―――


「言われなくとも、しっかり見学させてもらうよ」


 雑談の行き着いた先で、ういさんからの提案により―――まあつまりは、彼女を捕まえられる実績を持つ【護刀】が手本・・を見せてくれるという事で。


 囲炉裏相手に何かを教わるのは癪―――と、流石に俺もそこまでプライドを拗らせてはいない。コイツがいまの俺にとって明確な格上である事は理解しているんだ、素直に学ばせてもらおうと思う。


「よろしいですか?」


「OKです」


「いつでもどうぞ」


 俺と囲炉裏、それぞれに対して声を掛けたういさんに二人で答える。俺は舞台の縁に足を掛けて観戦の体勢を取り、囲炉裏は―――特に構えもせず、ただ自然体で立っていた。


 ういさんは当然のこと、囲炉裏の顔にも緊張らしきものは感じ取れない。


「攻守はどうしますか?」


「一度ずつにしましょうか。囲炉裏君、お先にどうぞ」


「承知しました―――では」


 先攻は囲炉裏。穏やかに佇む【剣聖】に対して、そこでようやく【護刀】は集中するように目を細めて―――


「はい。では―――始め」


 初めの一歩は、二人同時に右足。


 舞台の両端から大きく前へ踏み出したそれぞれが、もう一歩で呆気無く手が届くだろう距離まで近づいて、


「……んえ?」


 ピタリと静止した両者に思わず、口の中で声が漏れる。


 ……いや、よくよく見れば『動き』はあるのか。膝から上―――制限の歩数に関与しない範囲で、二人は極々微かな動きを続けていた。


 膝の曲がり、指先の動き、肩の傾き、視線の向き……それはまるで、僅かな予備動作それ自体で駆け引きの応酬を続けているようで、


「―――……ッ!」


 十秒近くが経過して、囲炉裏が二歩目、そして三歩目を踏む。


 前、ではなく後ろ。半歩右足を追い掛けた二歩目と、初めの一歩を帳消しにする後退の三歩目。対して、一瞬だけ先に動いていた剣聖の二歩目は……前進だった。


 結果的に攻守逆の形でほぼ距離を維持した両者。囲炉裏は視線鋭くういさんを見据えたまま、対する彼女は微かに眉を下げて―――どこか嬉しそうに、微笑んだ。


「―――……四手先、七歩です」


「―――そうですね、お見事です」


「…………あ、えっ?」


 と、突然の幕切れ。困惑する俺を他所に『言葉』で勝敗を決した二人が、当然のように納得し合い開始地点へと身体を戻す。


「え、あの……?」


 手本を見せると言って、それ・・はないのでは?


 いや分かるよ? アレだろ達人特有の「やるまでもなく」ってやつだろ?


 格好良いけどさ!? 何それカッケェ俺もやりたいって反射的に思ったけどさ!?


「『四手先、七歩です』キリッ―――だってさぁ! プークスクスういちゃんに触るのビビってるだけの癖にぃ!」


「喧しいぞ外野……!―――君も、なに呆けてるんだ。別に意地悪をしてるわけじゃないぞ」


 柵に張り付く俺にほど近い開始位置まで戻った囲炉裏が、茶々を入れた赤色を睨みつけた後に至極真面目な顔でそんな事を言う。


「いいからしっかり見て、全部覚えておけよ。()()()()()()()()()()()()()


 いま理解出来なくても良いから―――それだけ言って、視線を正面に戻した彼は攻守を入れ替えて二戦目に臨む。


 俺達のやり取りを待っていたういさんから、すぐに二度目の「始め」が言い渡されて……今度は両者、打って変わって動きを止めない能動的な試合運びに。


 開幕の一歩は先と変わらず前への一歩。そしてそこからは、円を描くように逃げる囲炉裏をういさんが追う形になる。


 どちらが優勢なのかについては、


「―――……っ、く」


 苦し気な逃げ側の表情が物語っていた。


 そして最後。至近距離ですれ違っても手を動かそうとしなかった剣聖が片手を持ち上げて―――反射的にだろう、数歩の余裕を残して一歩退いた囲炉裏が、残念そうに息を吐いた。


「……参りました」


「いいえ、お見事です。良い立ち回りでしたよ」


 またしても、手を触れないままに攻め手の勝利で決着―――


「………………」


 それぞれの歩数は、しっかり数えていた。ういさんが九歩、囲炉裏が十五歩……つまり、残り一歩で制限となる彼女に、まだ五歩逃げられる囲炉裏が自ら負けを認めた形。


 別に端へ追い詰められていたとか、詰んでいるようには見えなかったが……


 ………………い、や……ちょっ……と、分かんないっすね……


「さて……まあ大体予想通りの顔してるけど」


 困惑を深めて間抜け顔を晒しているだろう俺を見て、『手本』を披露し終えた囲炉裏が悪びれもせずに鼻を鳴らす。


「しっかり見て、覚えたか?」


「まあ、それは……うん」


「なら良い。()()()()()()()()()、後輩君」


 やはり「いま理解出来なくても良い」と繰り返し言って、囲炉裏はういさんに一礼した後に舞台を降りる。


 次いで、嬉しそうにその背中を見送っていたういさんと目が合って、


「という事ですので―――励むとしましょうか、ハル君」


「ぁ……はい」


 修行の再開を言い渡された俺はと言えば、首を傾げるままに柵を跨ぐのだった。






なんか気取った風にしてるけど、お触り日和っただけですよ彼。

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― 新着の感想 ―
ん〜、ターンのない金将一騎討ちって感じかな?
[一言] 囲炉裏はヘタレ はっきりわか以下略 ついでにハルは天然タラシ(+七方美人) はつきり以下略
[良い点] なるほどこれは詰め将棋。 ・囲炉裏がういに触る →男が(見た目)少女を追い詰め身体に触る事案発生! 通報や! ・囲炉裏がういに触らない →Yes □リコン、No タッチ! つまり触らない…
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