検証終了
詳しい仕様調査を始めてから暫く。
王冠 on the フツメンとかいう誰得ビジュアル強要による精神的ダメージ。そして数多の【ドラップル・エルゲータ】の犠牲の下に、特殊称号二つの特性は大体把握できた。
まずは『比翼連理』―――総評、思いのほか微妙。
いや微妙は流石に語弊があるが……何というかこう、活用し辛いと言うのが正しいだろうか。
書いてある事が全部強いのは間違い無いし、各効果それぞれは確かに『守り』に於いて破格の性能ではある―――が、コンセプトが守りに寄り過ぎている。
そもそも二人が揃っていないと発動する余地が無い点がまず一つ、そしてどちらかが瀕死にならなければ起動条件を満たせないという点で二つ。
で、それらを満たして効果が発動する状況=俺とソラが共闘状態でもなお瀕死に追いこまれるような、力の隔絶した者を相手にしている場合の可能性が高い。
そしてそこまでの強敵が相手となると、如何な比翼モードでも延命くらいにしかならないのでは? というのが互いの見解だった。
戦力が拮抗している相手ならば、間違いなく切り札に数えられるだけのポテンシャルはある。しかし言い換えれば、それは「相手を選ぶ」という事でもある。
加えて残念なのが、効果時間及び効果維持可能範囲の絶妙な短さ、そして狭さだ。
《比翼の献身》の効果時間は二十秒。更に被ダメージ半減と蘇生効果を得るために満たす必要がある『守護』とやらの判定が限定対象者―――つまり俺ならば「瀕死状態のソラ」との距離でその可否が決まるのだが……これがかなり狭い。
大体二メートルほどだろうか? 更には「対象者を背中に庇う形」といった具合に状況まで限定されるため、効果を十全に発揮しようとするとほとんど自由に動けなくなってしまう。
全ステータス+50、六種合計で+300と実に三十レベル分ものブーストはインチキじみて強力だが、それだけを活かすにしても効果時間は二十秒。
範囲制限のせいで無敵発動を頼りにした特攻も不可能。無敵効果を発動させてから突っ込むにしても、効果時間はたったの十秒だ。
そんな短時間のヒーロータイムで、果たして《比翼の献身》を切らされるような相手に対して逆襲を仕掛けられるかどうか―――この特殊称号の今後の評価は、その辺に掛かってくる事だろう。
あ、ちなみに自傷ダメージによるマッチポンプでは発動しなかったよ。あくまでも戦闘相手からのダメージで瀕死にならないとダメだってさ、残念。
ハイ続いては『曲芸師』―――総評、ぶっ壊れ。以上。
コイツはもう本当に意味が分からん。
自傷ダメージでHPが減らなくなるって、それ《瞬間転速》の起動条件も満たせないのでは? と思ったんだが、何か普通に発動するし。
で、それよりも何よりも―――全スキルの再使用待機時間短縮効果がマッッッッッッッッッッジで頭おかしい効果量だったんだよ。
とりあえず【愚者の牙剥刀】をワントリガー、ジャスト10%の自傷蓄積で一割減になった時点でヤベェ予感はした。
そのままトリガーごとに一割ずつ……とまでは流石に行かなかったものの、上限一杯―――自傷蓄積90%の状態で、短縮効果は脅威の五割。
いやおかしいおかしい。半分、半分だぞ? 全てのスキルが、常にクールタイム半減だ。ただでさえ軽い《トレンプル・スライド》なんか十秒程度で再使用可能になってしまう。
そりゃ常に体力一割の瀕死状態で立ち回るのは、ヘルス的にもメンタル的にもキツかろうが……いやぁ俺、もともと強攻撃一発もらえば即死の身でありましてね?
結論、開幕《瞬間転速》連打からの背水ムーブが今後のマストになる可能性すらある―――それほどの革命的な強化と言えるだろう。
…………あぁ、頭の上に訳の分からん王冠が浮かびさえしなけりゃなぁ……
「流石に似合わないっての……」
「王冠が似合う人……というのも、よく分かりませんけど……」
いや別にね、ゲーム的なファッションで言えばありふれてるとは思うよ。王冠、良いと思うよ。
ただそれを、現実準拠の顔を引っ提げた野郎の頭の上に浮かべないで頂きたい。イベント事ではしゃいでる奴にしか見えないんだが???
「あ、あの、言うほどおかしくはありませんでしたよ? 冠と言っても、そこまで派手な形ではありませんでしたし……」
と、気遣いのパートナー殿にあたふたとフォローされてしまう。
そう言われたらそうなんだが…………いや、うん、そうだな。こんな事でいつまでもグダグダやっているのもアホらしいか。
「ちなみにソラさんはメチャクチャ似合うと思います」
「えっ? え、あの…………ありがとう、ございます……?」
小っちゃい王冠とかちょこんと乗っければ、まあ確実に優勝。間違いない。
「さて……それじゃいい加減、何かしら設定しますかねぇ」
唐突に褒められて困惑気味のソラと並んで、思えば長らく空っぽだったのだろう称号欄を弄る―――これ、囲炉裏には言えないな……「そっちこそ舐めてたのか?」などと怒られかねない。
爽やかな笑顔で半ギレフェイスの【護刀】を思い浮かべながら空欄のボックスをタップすれば、設定可能な称号一覧がリストとなって表示される。
事あるごとに取得通知があった通り、改めて見るとそれなりの量だ。
中でも目ぼしいものは、やはり取得日時の新しい―――
「まあ、この辺りか」
『螺旋の紅塔を攻略せし者』―――【螺旋の紅塔】踏破の証である装飾品を身に着けている間、MIDステータスの数値に応じてAGIに追加補正。
『弾丸走破』―――走行アクションにスタミナ回復効果を得る。跳躍アクションにより消費されるスタミナが増加する。
『無限機動』―――跳躍アクションにスタミナ回復効果を得る。走行アクションにより消費されるスタミナが増加する。
『輝運の抱翼』―――LUCステータスの数値に応じて、MIDに追加補正。【幸運を運ぶ白輝鳥】に関する装備品を身に着けている間、補正値が上昇。
最後のやつに関しては、今夜あたり再び乱獲の予定を立てている白輝鳥由来のモノ。素材集めの折に情け容赦無しのリスキルをループしていたら、ポロっと転がり込んできた。
他にも【神楔の王剣】戦で手に入った『表裏一身』という称号も面白い効果なのだが、残念ながら俺のビルドには噛み合わない。
ソラには合いそうかな? さておき―――
【螺旋の紅塔】を攻略した際に手に入った三つは、機動力に特化した俺のビルドと分かり易く相性が良い。
ステータス補正を与えてくれる攻略者称号に関しても流石超高難易度ダンジョンの報酬と言うべきか、似たような効果の他称号と比べて補正効果が高い。
上昇値がというよりも、補正の仕様がやや特殊なのが強いな。まさしく他ステータス参照の強化称号である『輝運の抱翼』なんかはLUCをどれだけ積もうと限界値が存在するが、こちらにはその上限がないらしく……。
悪いことが思いつく、面白い称号ではある。
他の二つは言うまでもなく。走ったり跳んだりする事で逆にスタミナが回復するようになる、下手すればゲーム性を変えるレベルのトンデモ効果。
それぞれ逆のアクションに消費スタミナ増加のデバフが付くものの、マイナスの効果量に関してはそこまで大袈裟なものでもない。
上手く使えば、スタミナ切れとは永遠にオサラバできる事だろう。
……と、まあ、なんだ。紅塔セットは確かにどれも優秀。優秀なんだが―――
「いやぁ……一択なんだよなぁ」
選ばれたのは『輝運の抱翼』―――MIDステータスの強化称号だ。
何故ってほら、俺の場合【紅玉兎の髪飾り】という化物アクセサリーがいらっしゃいましてですね……
効果発動時限定ではあるものの、だ。MIDの強化がAGI&DEXの強化にイコールとなる現状、俺のステータスでまず何を引き上げるべきかと言われたらそりゃね。
ついでに【兎短刀・刃螺紅楽群】の小兎刀召喚や《先理眼》のコストなど、消費元が増えてきた事もあってMPの重要性も増している。
と、いうわけで―――
――――――――――――――――――
◇Status◇
Title:曲芸師
Name:Haru
Lv:100
STR(筋力):300
AGI(敏捷):350
DEX(器用):100
VIT(頑強):0(+50)
MID(精神):0(+250)⇒(+350)
LUC(幸運):300
◇Skill◇
・全武器適性
《ブリンクスイッチ》
《フリップストローク》
《ガスティ・リム》
《エクスチェンジ・ボルテート》
欲張りの心得
・《リフレクト・ブロワール》
・《トレンプル・スライド》
・《瞬間転速》
・《浮葉》
・《先理眼》
・体現想護
・コンボアクセラレート
・アウェイクニングブロウ
・過重撃の操手
・剛身天駆
・兎疾颯走
・フェイタレスジャンパー
・ライノスハート
・奇術の心得
・守護者の揺籠
・以心伝心
――――――――――――――――――
『輝運の抱翼』をセットしてと……ハハ、100も上がってら。
イイね―――というか俺のステータスもいつの間にか、追加補正分含めてLv.145相当とかいう意味不明具合である。
更に【紅玉兎の髪飾り】の《決死紅》が発動すればLv.180相当。事前にソラから《天秤の詠歌》をMIDに全ぶっぱしてもらおうものなら、実にLv.240相当の怪物ステータスに……
何というか、そうなった後の未来がハッキリ見えるわ。
異常なステータスを操り切れず、壁に激突して即死する自分の姿がなぁ!!
……でもまあ、そのうち試してみよう。
「ソラはどう? 決まった?」
「ん……と…………―――はい、決まりましたっ」
設定を終えたウィンドウを閉じつつ声を掛ければ、むーむー唸りながら実に有意義な時間を過ごしていたのだろうソラもまた顔を上げる。
思いのほか長らく時間を取られた称号問題も、これにてとりあえずは解決だ―――と、そうしたならば。
「っし、ならそろそろ行きますかねぇ!」
「はい! どんどん行きましょう!」
休憩は終了、ツアーは続行―――まだまだ始まったばかりの本日の予定は、この先もギッチリ詰まっているのだ。