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東の十席

 見慣れた転移の光に誘われ、もう慣れ切った一瞬の浮遊感に身を任せる。


 会場の喧騒と熱気が一息に遠のき、周囲の空気が一斉に切り替わるこれまたお馴染みの感覚を経て―――目を開ければ、そこは見知らぬ場所だった。


 真っ先に目に付くのは、十の席が並ぶ大きな円卓。広々とした一室の間取りを大胆に占拠するそれらは、分かり易く豪奢な造りで白黒の色調に統一されている。


 雰囲気からして城―――地底城ことルヴァレストの中ではあるのだろう。装飾品や調度品などの方向性は似通ったものだ。


「―――平気か坊主?」


 と、スローペースで辺りを見回す俺の隣。伴って転移してきたゴルドウが、腰に手を当てながらこちらを覗き込んでくる。


 ……いや、今更ながらにデケェ。二メートル以上身長がありそうだ。


「あぁ、ええと……すみません、助かりま―――」


「おっとストップだ」


 未だにノロマを継続する思考力をもどかしく思いながら礼を言いかければ、俺の頭と同じくらい大きな掌を突き付けられて遮られる。


「俺ら序列持ちはな、順位に限らず対等で通ってるんだ。堅っ苦しい言葉はいらねぇ、楽に話せよ」


 えぇ……? 流石にここまで分かり易く年上感の強い相手に、敬語を省くのは気が引けるんだが―――いやメッチャ見てくる。折れる以外に無さそうだな……?


「あー……助かった、ありがとう。……これで良いか?」


「結構結構。話の分かるやつは嫌いじゃねぇ」


 圧に屈して口調を調整すれば、上機嫌にバッシバシ肩を叩かれる。


「名前も、俺のことぁ好きに呼べ。ゴルドウでもオッサンでもゴッサンでも」


「……じゃあゴッサンで」


「カッカ! 良いぜ? 迷いなく愛称を選んだのは、雛世に続いて二人目だ」


 遠慮無しが好まれるのかと思い突っ込んでみたが、愉快そうに笑う様子を見るにどうやら正しかった様子―――OK、親戚のおっちゃんくらいの距離感で行くとしよう。


 俺には交流のある親戚のおっちゃんとか存在しないけど。


「さて―――ようこそ新たなNinthよ。我らがイスティア十席の『円卓』へ」


「円卓ね……そのまんまだな」


「いや、だってなぁ……他にどう言や良いって感じだろ?」


 そう言って髭を擦るゴルドウの様子を見るに、この部屋は彼らプレイヤーが誂えたものではなく元から存在していたものらしい。


「成程ね……んで、俺がここへ連れて来られた理由は?」


 正直色々とキツいんだけど、とりあえず座って良いか? というか、それより何より―――


「あと悪い、ちょっと連れ・・の様子が気になるから顔を見せに行きたいんだけど」


 転移の目前、目にしたソラの表情が頭から離れない。


 そこまで深刻そうな何かは感じられなかったが、あのタイミングであんな顔をしていた理由がどうにも気になってだな……


 そんな訳で一度合流させて貰えないか。そう意思を示すと、ゴルドウは「心配いらねえよ」と言って笑った。


「お前さんのパートナーなら、今はロッタが付いて待機してもらってる。顔合わせが終わったらすぐに会わせてやるから、安心しろ」


「はぁ……―――顔会わせ・・・・?」


 気遣いはありがたいが……オイなんだその悪い顔は。段々分かってきたぞ、アンタわりと悪戯好き―――



「―――ドッカーンっ!!!」



「―――どっかーん」



 ドッカ――――――――――――ンッッッ!!!



「うぉおおいッ!!!??」


 と、俺がゴルドウことゴッサンの様子に不穏を覚えた次の瞬間の事だった。


 突如として響き渡ったハイテンション、ローテンション二つの声音。


 そして()()()()()()()()()()()()()()()


 隣に立つゴッサン諸共その荒れ狂う炎に呑み込まれた俺は、素っ頓狂な声を上げて思わず尻餅をつきそうになり―――触れども熱を与えない、その紅蓮の違和感に気付く。


「―――………………ま、まぼろし……?」


 どこにも燃え移ることなく、ただ視覚のみに脅威を訴えてくる炎の正体を呆然と呟く。


 俺のリアクションがお気に召したのか「カッカ」と隣で愉快そうに笑うゴッサンを他所に―――気が付けば、部屋には新たに二つの人影が現れていた。


 円卓を挟んで左右に一つずつ。ソラよりも小柄な、やや幼げな少女の姿。


 どちらもお揃いの制服チックなシャツ&スカートの装いに、魔法使い然としたローブを羽織る妙に様になったスタイル。


 左は赤、右は青。


 衣装のデザインは同一だが色調が違っていたり、丈の違うソックスの履き方が鏡写しであったり。


 揃ってライトベージュの髪も赤色の方はミドルヘア、青色の方はロングヘアと異なる点は所々にあるが―――表情こそ違えど、可愛らしく整った二つの顔は同じもの。


「やぁやぁどうも【曲芸師】のおにーぃさんっ!」


 赤色の左、ハイテンションの声音が騒ぐ。


「はじめましてNinthのお兄さん」


 青色の右、ローテンションの声音が呟く。


「イスティア序列第四位!【左翼】ミィナっ!」


 ノリノリで謎のポーズをキメる赤。


「イスティア序列第五位、【右翼】リィナ」


 ぽつんと立つままの青。


 ―――と、いつしか幻の爆炎が消え去っていた部屋の中。赤が棒立ちでいる青の側へトテトテ駆け寄っていき、その手を取って無理矢理ポーズを決めさせる。


 おいめっちゃ嫌がってるぞ、やめてあげて。


「イスティア序列第五位!【右翼】リィナっ!」


 口上までリテイクすんのかよ、声そっくりですね。


「―――二人合わせて東の双翼!呼ばれて飛び出てここに見参っ!!」


 ドッカ――――――――――――ンッッッ!!!


「………………」


 再び巻き起こった爆炎に呑まれるも、此度の俺はノーリアクション。


 ドヤ顔で目をキラッキラさせている赤と、至極迷惑そうに目を細めている青から視線を外して―――


「帰って良いか?」


 と、そんな俺の反応まで含めて今の一幕をお気に召したらしい。ツボが浅いのだろう金色のオッサンが身体をくの字に曲げる中―――あぁ、うん。知ってた・・・・


 そうと構えていれば察知するのは容易な転移の気配……ん、え? いや、これ近―――



「―――はぁい。は じ め ま し て」



「ひゅっ……!?」


 俺の真後ろというか背後というか、ピタリとくっ付くほどの、ほぼゼロ距離。


 耳元で妖艶な声音に囁きかけられると同時。白いレースのロンググローブに包まれた細腕が、スルリと首に絡みついてきた。


「ちょ、なんっ!?」


「うふふ……思ったより可愛らしい反応するのね、【曲芸師】君?」


 慌てふためく俺の反応を楽しむように、女性の声が首元を撫でて―――おいコラ何してんの!? 変な手つきで胸元撫でないでくださーいッ!!


 あわや《瞬間転速イグニッション》を起動しての超速離脱に踏み切りかけた俺に先んじて、クスリと微笑みを一つ残してアッサリと細腕が離れていく。


 警戒心を露わに二、三歩と距離を取ってから振り向けば―――そこには梔子くちなし色のフレアドレスを身に纏う美女が立っていた。


 頬に掛かる一房を残して、シニョンにまとめられた艶やかな黒髪。そして大人の女性らしい色気を湛えた、穏やかなヘーゼルの瞳。


 身長は女性にしてはやや高めで、俺の目線の少し上。メリハリの利いた見事なプロポーションで、所々やや露出のあるドレスデザインのせいで少々目のやり場に困る。


 ―――何より目立つのは、腰元に備え付けられたホルスター・・・・・


 もう一周回って、華やかなドレスに似つかわしくないからこそ似合っている。無骨な革造りのそれには、左右一丁ずつ朱色の大型拳銃・・・・が収められていた。


「驚かせてごめんなさい?―――序列第六位【熱視線】雛世ひなよです。よろしくね」


 スカートを摘まんで、実に様になったカーテシーを披露した女性―――雛世はニコリと微笑みながらウィンクを寄越して見せた。



「―――俺の挨拶は、不要だとは思うんだけど」



「びっ……くりしたぁ」


 優美な仕草に不覚にも見惚れていた俺の横から―――先刻まで、散々耳にしていた声音が挙がる。


 ギョッとしてそちらを向けば、思った通り。記憶に新しい激戦を交えたばかりの、裃姿の青年の姿。


 背の高い椅子の背もたれに身体を預けて立つ彼は、舞台上での凶悪さが嘘のような爽やかな笑みを浮かべていた。


「改めて―――序列第七位【護刀】囲炉裏。キミを歓迎するよ、心から」


 サッパリとした挨拶と共に、右手が差し出される。


 正直なところ、コイツ・・・に対しては色々と物申したい所があるんだが……


「…………」


 サラリとそんな爽やか対応をされてしまえば、一方的に突っかかる形になってしまうため何も言いだせない。


 我ながら微妙な顔で握手を返せば―――おそらく、俺の胸の内は理解しているのだろう。何とも言えない笑みを浮かべてから、囲炉裏は俺の手を離した。


 そして転移してくる、次なる者。



「―――お前が【曲芸師】か」



 目前に現れた男は、堂々とドストレートに突っ込んできた。


「ハル……だ。よ、よろしく」


 序列持ちは対等。ゴッサンの言葉を思い出しながら口調を修正して……正面から真直ぐに向けられる鈍色の瞳に、右手を差し出して応える。


 …………………………と、十秒。物言わずジッと俺を見つめる男の視線に耐えかねて、俺が顔を背けそうになる寸前。


「―――序列八位【双拳】ゲンコツだ。よろしくな、ハル」


 頷いた男―――ゲンコツがガッと勢いよく俺の手を取り、ブンブンと振る……うん、悪い人じゃなさそうだ。


 どこか一癖ある今までの連中とは異なり、彼のアバターはかなりシンプルなもの。


 刈り上げられた短い白髪に、中肉中背のがっしりした身体。襟元や袖口などに黒のラインが入っている事を除けば、現実で使われている空手の道着と相違無い装いに武器の類は見受けられない。


 雰囲気的にも、総じて「厳しそうな人」という印象を受けるが―――


「機会があれば、そのうち試合おう。楽しみにしてる」


 不器用に口の端で笑って見せるその様子を見るに、うん。


 間違いなく、感じの悪い人じゃない。



「―――じゃ、僕の番で良いのかな」



「あ……?」


 スッと耳に届く、やや高い少年の声。


 正直、ここまでで一番驚いた。何がって―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 先日ニアに勧められて色味を変えた、俺の灰黒の髪とほぼ同色。首元で一つ結びにされた髪は背中まで伸びているが、中性的に整った容姿にはよく似合っている。


 髪と同色の瞳に、やや猫目気味の目元。男子をこう形容して良いのか分からないが、総じて猫っぽい印象を受ける少年だ。


 その装いもまた、黒一色。こちらも俺と似たような上下黒のアンダーウェアに……いや、ていうか全体的に似てんな???


 デザイン性は全く別のものではあるのだが、衣服としての形的には俺の纏う【蒼天の揃えシリーズ・エルグラン】にかなり近い。


 大きなフードが特徴的な丈を切り詰めた上衣、そしてややゆったりとした下衣。うむ、お揃いとまではいかないが……ちょっとした親近感。


 彼もゲンコツと同じく、武装は見当たらない。使わないのか、今は仕舞っているだけなのか、果たして。


「恥ずかしいから、アピールタイムは無しで。序列九……じゃないや―――序列十位【不死】テトラ。よろしくね、先輩」


 いや待て、Why 先輩?


「先輩はそっちでは……?」


「確実に僕が年下だから。年上相手に偉ぶりたくない」


 あと呼びやすいし、と少年―――テトラは、いつからそうしていたのか椅子に座ったまま、軽い調子で言いつつ頬杖をつく。


「はぁ……」


 いやまぁ……細かい事に一々ツッコミ入れてる場合でもないしスルーで良いか……


 ともあれ、これで引退済みと隠居済みのトップ二名を除いた、イスティアの序列称号保持者タイトルホルダーが揃った訳だ。


 何というか……壮観。


 揃いも揃ってオーラが半端ないというか……あり方は違えどそれぞれの自信に満ちた立ち居振る舞いから、ひしひしと違い・・を感じさせられる。


 そしてそこに混ざりかけている、一般人代表『俺』とかいう極大の不具合。


 あの、やっぱ帰って良いですかね?


 ダメ? そうですか……







ずっとずっと描きたかったキャラクターがこんなに沢山。

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― 新着の感想 ―
初見の方に向けて、ここに予言しましょう。 871話を読んでこの話に舞い戻って来ることを。 最高。
今日の分を読んで舞い戻ってきましたが…目を細めた理由って…フフフ。口角が上がってくるなぁ
今日の分読んで戻ってみました 最高かよ(辞世の句)
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