お叱り
────そして後日、土曜の昼下がり。
『馬鹿なの?』
「なにしてるんですか?」
「救いようがない。いろんな意味で」
俺は久々の押し掛け女子会占拠案件発生中の自室にて、三人娘それぞれから馬鹿を見る目で呆れと困惑……そんで僅かばかりの怒りを浴びていた。
言わずもがな。先日一人で確かめたトラウマについての一幕を、軽い気持ちで話した結果の惨状である。まあ、流石に正座も止む無しというか。
「いや、あの、違くて……」
俺だって自分で馬鹿なことをしたと思っているし、思っているからこそ馬鹿話として打ち明けたわけで、ゆえに反論する気など湧いたりもしない。
とはいえ、なんだろうな。馬鹿は馬鹿らしく浅慮というか、ぶっちゃけ話して二秒で一人残らず説教モードの表情に転じるとまでは思っておらず……。
『なにが?』
「なにがです?」
「なにが、かしら」
「美女美少女の包囲網こっわ……」
『今そういうのじゃない』
「今そういうのいいです」
「今そういうのいらない」
「ごめんなさい……」
総括、ダメそう。おそらく今日が俺の命日となることだろう────と、
『なんか、なんだろ』
姿勢正しく正座を維持しながら人生の終局に震えていると、声なき溜息を吐息で示しながら文字と共にニアの顔が隣へと降ってきた。
至近。しゃがみ込んで馬鹿の顔を観察するキャラメルブロンドグリーンアイズは、今日も今日とて異国情緒満点の全俺が平伏して然りな七億点フェイス。
して、あぁ今日も可愛いなぁとかなんとか現実逃避をしていると。
『これまでで一番キミのこと馬鹿だなって思ったよ。物凄い馬鹿だね。バーカ』
「男心に〝好きな子からの罵倒〟は効くんよ……」
女子のジト目は可愛いと思うが、そこに含まれているのが純度百パーセントの呆れのみである場合は話が別。男を容易に殺すこと可能な殺戮兵器と化す。
然して、普ッッッ通にダメージを受ける俺へ追撃の手は止むことなく。
「…………………………」
「むふぉんほそえもふらいはぁ……」
逆サイド。
同じく膝を折って屈んだ相棒には割と容赦のない力で頬を抓られる────いや抓るというか結構ガッツリ掴まれてる。細指で頬肉ゴリゴリされてる。
普通に少し痛い。ソラにしては相当に珍しい純粋攻撃。
……そんでもって、
「ハル」
「ふぁい」
「私のデコピンは凄く痛い」
「宣言で恐怖を煽────るヴぁッ……痛ッッッッッッてぇ……!!?」
容赦ナシも愛ゆえと喜ぶべきか、愛する女性が自身よりも物理的に強いことを情けなく思うべきか。シパーン! と冗談のような快音が響くと同時。額に奔った痛みというよりも甚大な衝撃に抗えず、俺は勢いよく背後へと倒れ伏した。
然らば、頭をソファに受け止められつつ……。
「あ、あの、本当、違うんよ。別に自分を適当に扱ったとか、そんなつもりは毛頭なくてですね。本当に、はい、心に誓って、そういうアレではなく……」
遅ればせ、迫真の言い訳タイム開始。
情けないやら気まずいやらで本気を出せば泣けそうだが、今は恥など呑み込んで誠意を見せる時────当然だ。ありがたいことに、こんだけ愛されてんだから。
しっかり怒るくらい俺のことを心配してくれているのだから、もうそれは義務。
「今までは、なに? こう、ちゃんと避けてきたからさ。ぶっちゃけ現状トラウマが〝どの程度の大きさか〟っての、自分でも曖昧になってた部分があって」
ゆえに、嘘はつかず正直に。
「水 with 魚とか見ると普通に一瞬ビビるし、湖とか海とか近付くと若干なり緊張するしで、まあそこそこだよな程度には把握してたんだけども」
じとぉーっ……とした三色の瞳に気圧されつつも、逃げぬよう。
「まさかシステム的か無意識的か、強制ログアウト事案が発生するほどとは……」
「…………思って、なかったんです?」
「はい」
『舐めてたんだ』
「……はい」
「お馬鹿さんね」
「…………はい」
締め括れば────はたして、呆れの気配までは去らなかったが。
「………………………………はぁ」
『まあ、わかった上で自分を粗末にしたとかじゃないなら……?』
「このくらいに、してあげるべきかしら」
少なくとも、険は去った。
ダメじゃなさそう。どうやら今日が俺の命日ではなかったらしい。
隣から再び細指が伸びてくるが、今度は優しい力加減。そっと摘ままれた頬の側へ目を向ければ、ジト目は継続中なれど天使は心配の色合いへシフトしていた。
かわいい。まあ、こんな顔させた俺が悪いよなと百割反省するばかり。
「大丈夫……とは言えないんだろうけども、大丈夫だよ。俺的には『ビックリした』って感情がメインで、酷く傷心しましたみたいな感じではないから」
「……そうですか」
愛らしい頬摘まみの返礼として、チョイチョイと指先で頭を撫でるフリ。
この三人が相手だと、もう俺の強がりや誤魔化しは機能しないし出番もない。元より嘘を言う性質ではないのも相まって、正面から言えば大抵の言葉は信じてもらえるのが嬉しい限り……まあ、だからこそ。
こうしてたまに……たまに?
まあ、うん。ここまで酷いのを稀にやらかすと、余計に重く反省するのだが。
『キミ、釣りとかしてなかった? 例の犯罪的な漁とかも』
「あぁ、うん。だからアレよ、切り離されると別に平気なんよ。所詮は水棲生物、水揚げされたら基本は無力な連中だって理解してるからな」
「……水の中だと?」
「あぁ、うん。だから無理よ。あっちの領域じゃ俺なんぞ所詮は陸棲生物、不自由な二足歩行動物が足搔いたところで単なるエサだと理解してるからな」
「その極端な理解は、どうなのかしら……」
『わかんなくはないけども……』
フリじゃなくて触れて撫でろと言わんばかり、不満気な顔をして旋毛を俺の手に押し付けてきたソラをあやしつつ。改めて当然の疑問といった具合、ニアから始まった問いに答えていけば漂うのは先程までとは別種の呆れた空気。
俺に対するソレというよりは、俺のトラウマの大きさに対する『どうしようもなさそう』といった類の……つまりは、諦めに近い呆れと言えよう。
然り。即ち────
「ということで……まあ、そもそもの話なにが言いたかったのかってのは」
「……大丈夫。わかってる」
おそらく、流石に、今回ばかりは『不参加』を表明すべきだろうという話。
先日の遠征について云々。ゆらの考察やら何やらを含めて【青源の深域】の件は各陣営に周知済み。さすれば当然のこと計画管理の指揮を執り始めている【剣ノ女王】様は、皆まで言わずともヨシとばかり俺の言葉を遮る。
遮って、赤くなっているであろう俺の額を優しく撫でた。
クリティカルヒットご本人様とか言いっこなしである。幸福は堂々享受すべしと大人しく受け入れ……たのだが、約三秒で姫君の手は妖精に攫われ即没収。
なんでだよ。あと五秒くらい良かっただろ。
「元々、無理させる気ない。私たちが攻略するから────」
なんて、状況に懲りず惚気る俺の額を再び。
「ハルは今回、いい子で留守番していて」
「…………かっこいい。好きになりそう」
アーシェは攫われたのと逆の手で、やんちゃな子を嗜めるように小突いた。
愛されてんねぇ!!!!!




