一撃
結局、三日掛かった。
まあ道理。如何な音速を蹴飛ばせる我が脚と言えども、無理のない航行もとい行進を努めるのであれば精々時速千キロ程度が関の山。
数万キロの旅路とかいう果てない道が相手となれば、ヒトの一歩のなんと小さなことか。どうしたって時間は掛かるし、これが人力の限界ってやつだろう。
とはいえ、行くだけなら一日半で済んだんだよ。飛ばして飛ばして飛ばして飛ばして、空を駆けて翔けて架けて目的地を繋いでいくのは、大体な。
そんでまあ、そっから先の話については……。
────あ? 死に戻り? …………いいか、小僧。
俺が舐めていたというか、
────死んで帰りゃいいなんて甘ったれは、クソダセぇド三流だ。
旅人ガチ勢が、イカれていたというか。
いや、言ったよ。自分ド三流で構わねぇっすハイって、言ったよ。横を見りゃガチ勢の沸いた戯言を不思議にも思っていなさそうな顔で首を傾げたサヤカさんから目を逸らしつつ、今回はド三流ムーブにしときませんかって言ったよ。
ダメだったよ。
◇スキルを獲得しました◇
・《瞑走》
《瞑走》:Passive
非戦闘時、継続走行距離に応じてHPおよびMPの自動回復速度が向上。
いや軽快な獲得音じゃねぇのよ。割に合ってねぇのよ。システム的なステータス云々ではなくリアル精神的な補助が欲しいのよとか言いたいことは山盛り雪崩。
────ともあれ、もう【銀幕】の超長距離遠征依頼とか絶対に引き受けねぇ……なんて思う俺に『アルカディアの旅人は大体こんな感じですよ』と少々申し訳なさそうなサヤカさんが告げるに至り絶望しつつ、帰って来たのが数分前。
もうなんというか無我の境地で《疾風迅雷》切ったろかソレでも焼け石に水ですよねハハハとか狂いながら、どうにかこうにか辿り着いたマイホーム……もとい、
幾つかある俺の心が落ち着く場の内、大体は賑やかが常の場所。
とりあえず報告せにゃならんよなと足を運んだ、他ならぬ東の円卓にて────
「────やりやがったなオイ色男がよぉッ‼︎「そこになおれ成敗してやる正座正座ぁッ!!!「キミという奴は……腹を割って話したのは俺だけだったということか……?「ちょーっと、ごめんなさいね。暫く逃がしてあげられないかも「おめでと先輩。頑張って?「なにも聞かされてなかった。兄としての職務怠慢、改めて」
まさしく、まさしく。
「…………………………帰っていいかな?」
と、そんな状況に遭っていた。
帰って来た、はずなんだけどなぁ。
◇◆◇◆◇
当然の如く「世話になった。また連絡する」とかなんとか言って勝手に颯爽と去って行った銀色たわけは諦観の極みとして、奴を除けば全員集合。
我帰ル────皆待ツ────と事前に連絡を取り合っていたので覚悟はできていたが……まあしかしあまりの歓迎っぷりにドン引き、もとい驚かされて暫し。
「とまあ、そんなわけで」
「「「「「「「…………………………」」」」」」」
遠征のアレコレについては、ひとまず後回し。
逃げられないと悟る前から逃げるつもりなど持ち合わせていなかった俺は全てを白状し、それに際して全てを白状された者たちの沈黙が場を満たした。
計七名。つまり俺本人と、以前に先んじて諸々を告げていた剣聖様、そして不在の旅狂いを除いた同僚こと序列持ちの面々。個性豊かな各々が今に限って綺麗に表情を揃えている様を……まあ、笑えるほどの余裕は流石にないが。
「祝福してくれ、なんて言わないし」
それでも、大切な先輩方にして仲間たち宛て。
「見守ってくれ、とも言わないけど」
とうに言葉くらいは、用意していたから。
「この道を死ぬ気で走ると決めたので、何があっても脚は止めない所存です」
人生賭けた覚悟を示す。撤回する気など更々ない決意を曝け出す。これが俺にできる精一杯であり、今へ至り代え難い友人たちへ渡せる限界の誠意だ。
伝わるか否かは別として、だけどな────と。
キッパリ、言い切って数秒。
「「「「「「「「「………………」」」」」」」」」
怖さはある。が、後ろめたさや怯えは無い。そんなものはとっくに捨てたというか、在ったとしても見て見ぬフリをしなければ、こんな馬鹿などやってられない。
そうして無敵を気取る俺を含め、無言が数えて九人分。
おそらくは一人だけ事前に知らされていた、知っていたことに後ろめたさを感じてしまっているのだろう。そわそわと落ち着かない様子で皆の反応を窺っている我が師の姿より、ほんのり場にそぐわぬ癒しを頂戴……────していた、折に。
ズダンッ。
正座させられていた俺。その正面へ扇状に居並ぶ面々。然らば後者の列より一足が出でて、響き渡るは小さくも力の籠もった迫力ある足音。
そうして、顔を上げる……までもなく。俯く気などないと示さんがため真正面から目を晒し続けていた俺の視界、迫り来るのは────赤。
斯くして『東の双翼』の片割れことミィナは、止まる気など微塵も見せぬまま。
「ッ……!」
俺の正面へ踏み込むと同時、勢いよく右手を振り上げると……──
「────────んぃよくやったぁあッッッ!!!!!!!」
「ふべっ……‼︎」
喝采と共に、小さな掌で思い切り俺の頬を張り飛ばした。
然して、乾いた快音。口から叩き出された無様な声音。背中から倒れ伏す盛大な戯音……そして、呆気に取られた他全員が絶句する相変わらずの無音。
幾つもの音が共演を奏でる最中、堂々と仁王立つはチビッ子一名。
「はぁっ、たく……! ──────するけどねッ!!!!!」
誰なりに叱られるか、あるいは最悪こうして頬を張られたりといった想定はしていた。けれども諸々、こういう形は楽観的が過ぎるだろうと、
「あたしは! 応援‼︎ するけどねぇッ!!!!!」
無意識に思考から排していた未来に、呆ける俺を、
「いいじゃん。頑張りなよ。あたしはソレ、かっこいいと思ったから」
「お、おぅ……?」
「ただし途中でヘタれたら覚悟したまえ。あたしが直々に殺すよ、社会的に」
「………………お、おぅ……」
歓喜してんだか、激怒してんだか……けれども、確かに────
「なんだそのヘタれた返事はぁッ‼︎」
「ッ────ん頑張りまァすッ!!!」
「ならばよーしッ!!!!!」
至極満足げな顔で、見下ろしていた。
主人公の味方ではない。あくまで恋する乙女の味方。
困った後輩の望みを汲み取った結果、ね。




