遷る樹境
さて。第二の目的地とした【鍵樹街】へ辿り着きはしたものの、勿論のこと周囲バレからの大騒ぎというリスクを冒して街遊びしに来たわけではない。
現環境ならば数時間程度の旅路とはいえ、わざわざ出発地点から五百キロも離れている巨大樹の元まで足を運んだ理由は……他でもない。
これまで通り、その巨大樹様に用があったから。
より正しくは────
「…………ふーむ。特に変わった感じはナシ?」
「そうね、この部分は」
先日の第二幕攻略を経て、変化を来した『鍵樹迷宮』を覗きに来た次第である。
「……ちなみに、緑の巫女様。お友達は呼べたりするのかしら」
「巫女様やめい。臨時だから。一瞬だから。ゆうなればアルバイトでしょアレ」
「神様のアルバイトとは……?」
然らば、基底百層攻略済みの三人娘。最後に此処へ在った時……即ち、第二幕攻略後に送還された百層最奥の大広間にて。周囲を見回しながら、空気を感じ取りながら、それぞれで様子を伺うも過去から今への変化ナシ。
されど、それは攻略済み百層という極めて狭い範囲に視野を限った場合に限る。
「さておき、実際に変わってるんでしょ? いろいろと」
然して薄っすら知識のニアが問えば、
「ええ、いろいろ。────『竝枝界拓』初期化アイテム以外にも取引可能品は増えているようだし、レベルを買うことで今では安全マージンも取れる」
いつもいつとて抜かりなし、情報集積および統合処理能力は今日も万全。最近は基本的に『聞けば教えてくれるから』とニアに辞書扱いされることも珍しくないアイリスが、澄まし顔でスラスラ期待に応えていく。
そして「なによりも」と一拍を挟み、
「連結編成の入場許可が下りたから、ね。中位から上位層のプレイヤーは既に百層踏破している者も少なくないし、一般層からもクリア者は出ているはずよ」
と、最も大きな変更点を挙げた。
以前までは一部の例外枠たちを除いて真実『無理ゲー』と謳われていた鍵樹上層より先も、流石に人数という絶対的な枷が払われたなら全ての前提が覆る。
限界値は三十六人編成ではなく十八人編成だが、それでも単純に三倍の戦力。加えて鍵樹迷宮専用通貨『パール』を用いて一定のレベルを上積み可能となれば、増強幅は莫大。現攻略難度は以前と比較にならないほど下がったと言えよう。
……と、いった具合に。序列持ちなどの一部例外枠に留まらず、続々と百層を踏破するプレイヤーが数を増やしている今日この頃。
アイリスたちが足を運んだのは、他でもなく────
「んじゃ、行ってみるぅ?」
「ええ」
「はいっ」
この先を見に行ってみようかと、誘う好奇心に従ったから。
以前までと変わらぬ様子。鍵樹百層最奥大広間に在るのは、広大な空間と先日に潜った『緑繋』第二幕へ続く床という名の扉────そして二つの転移門。
青が進む、赤が戻る。
鍵樹迷宮の常に則り作用する登るか降るか二択の光輝は、以前まで片方だけしか……九十九層へ戻る側しか機能していなかった。
それが今に至り、足を踏み込めば。
◇基底樹路の完全踏破を確認しました◇
──────……
────……
──……
◇資格認証……accept◇
◇権限認証……accept◇
◇先へ進みますか?◇
Yes / No
……と、このように。如何を問うてくるようになったのならば、
「────ん」
とりあえず『Yes』を押してみるのが、ゲームプレイヤーというものだ。
切るとこなくてメチャ長くなりそうだったので一旦ここまで。
夜に続きますので待たれよ。




