旅は道連れ(仮想)世(界)は情け
────そして、おおよそ一時間程度。
騒がしい旅路は無事に尽き果て、両者の目的地および帰還場所である【鍵樹街】……の、外れの外れ。街の活気を遠くに眺められる地点へ辿り着いた後。
「っでは、あの、重ね重ね……!」
「気にしなくていい。────研究、頑張ってね。更なる発展を期待してる」
「ひぃえぇ……ッが、がが頑張ります……ぅ……‼︎」
最後の最後まで恐縮するまま……というより、劇的なアレコレに延々と感動を引き摺っていたものと思しきネネを筆頭に、潔さと名残惜しさ相反する色を絶妙にミックスした顔で手を振るパーティ全員と別れの時。
ダバダバ駆ける大トカゲに引かれて、軽快に回る車輪が颯爽と運んでいく従車。
その荷台より、千切れんばかりの勢いで手を振る男性陣。苦労人の風格を漂わせつつ、御者台からヒラヒラと挨拶を投げるリーダー。そして、
自分は大きく手を振るべきか小さく手を振るべきか迷ったのだろう、暫し挙動不審な動きをした末にペコペコと無限に頭を上下へ降り始めたネネを見送る……。
「ん…………なんていうのも、アルカディアの一般層で『よくある話』よ」
「出会いの流れ部分とか激しくツッコミ入れたいところはあるけど、まあね?」
「あぁ、はい……やっぱり、そういう意図でしたよね」
スンと無表情────とはいえ、それなりに古来から伝わることわざを楽しんだのだろう、どちらかと言えば機嫌が良さそうなアイリス。
特に親しい者たちへ見せるような懐っこさは露わにしなかったものの、普通に笑顔を見せて親友仕込みのコミュニケーション能力を披露していたニア。
そして、その二人……主に前者。薄っすらとだが察していた年上先輩プレイヤーの思惑に確信を抱き、困ったような照れくさいような何とも言えない顔のソラ。
三者三様で見守ったり手を振ったりしていれば、視線の先。爆走する従車は街端へと辿り着き、一期一会となるかもしれない者たちは賑いの中へ溶けていった。
……然らば、
「ふふ……────感想は?」
「え、と…………その、まあ、はい」
普通であれば、常であれば、今回は捨てた択である『辻勇者』がアイリスのスタンダード。己が気を遣う手間、相手が気を乱す負担。いくつもの理由から愛想の無い救済の手を差し伸べる【剣ノ女王】の基本スタイルは周知の事実。
【Iris】を知る者は、仮想世界最高位のプレイヤーである彼女が正しく一人のプレイヤーとして扱われるのを好むことも知っている。
本人が放つ常人とは異次元の空気感、誇るスペック、語るに事欠かない実績功績逸話伝説の数々を理由に、本当に正しく実行できている者は極少数だが……。
認知はされている。ゆえに、無口を気取るアイリスの『表』を咎める者など今に至りいない────だというのに、今回こうして〝交流〟を選んだのは、
「……ちょっと、わくわくしました」
「それは何より」
ゲームを始めてから今日へ至るまで、早々まともな冒険の機会が無いまま遥かな高みへ来てしまっている後輩への、経験の提供こそが理由に他ならない。
勿論インベントリから溢れた【渦に棲まう竜喰蟲】素材群の処理に困ったというのも理由にはなるが、それも結局ネネたちパーティに丸ごと捨て値で売り払ってしまったのだから割合としては極僅か。取引だけしてサヨナラでも良かったゆえに。
────プレイヤーの数だけ、それぞれの道程が、在っていい。
今では偽りなく『そう』と言えるアイリスも、今の自分の心が〝今〟に辿り着けたからこそのものであるという自覚を間違えてはいない。
そう、だからこそ、
「お喋り。頑張った甲斐があった」
「いや姫、無表情ハチャメチャに極まってたし普段の五倍は素っ気なかったけど」
自身には訪れなかった類の物語というものが、誰にとっても尊く貴重なものであると誰より理解している。────ゆえに、機会に遭ったというのならば。
「わざと。あれは、そういうファンサービス」
「ぇーうっそだぁ慣れてないカチコチ笑顔スクショしといたけど見る?」
「見ない。……やっぱり撮ってた、消しておいて」
「えー、そんな勿体ない……──ほらかわいいー!!!」
「見ないって言ってる……!」
今回のように先輩風を吹かせてみる程度の余裕も、持ち合わせているから。
「あ、はは…………ふふ」
大切な人の大切な人……なんて回りくどい名付けをせずとも、既に自分にとっても大切な────大切な、何であるかは言葉の形容が難しいが。
ともかく、
「……結構。悪い子は置いていくから」
「へへーん、そしたらソラちゃんに抱っこしてもら────」
「ソラは私が抱いていく。元気でね」
「はい消去ウソうそ冗談じゃんねニアちゃんの限界走行距離なんて一キロ、二キロが精々なんだから置き去りなんてダメ絶対。二十歳にもなって泣いちゃうぞ」
これまでの常やら不慣れやら面倒やら、些事は捨てても良いものとして。
らしくない不合理な判断を『身内贔屓』で躊躇わなくなる程度まで、永遠のように感じた三年と刹那の一年を経て晴れた【剣ノ女王】は……今に至り。
「じゃあ、行きましょうかソラ」
「ぇ、あの、えっ」
「ちょっと待ちたまえよ。抱っこの相手を間違えてるよ姫ねぇ姫こっち見て姫」
「ニア」
「はい」
「たまには歩いた方が健康にいい」
「それは現実で頑張るのでぇッ……‼︎」
日増しに、元来の性格を取り戻しつつ。
真なる『お姫様』に成りつつ、今日も仮想世界を楽しんでいるというわけだ。
なお写真は消してないし後になって主人公に見せたしニアちゃんが現実世界で足つぼマッサージ(姫)を執行される最中に「今となっては硬い笑顔も俺的にはレアで無限に可愛い」と無敵の恋ボケに口説かれたアーシェは秒で赦して頭を撫でた。
半泣きで大暴れしていたであろうニアちゃん可愛いね。




