留守番中
さて、といったところで目的地は主街区より遥か彼方。
北陣営の祖となった国、遥かな過去『空と水と自由の国』と呼ばれていたらしいノルタリア跡の大窪地……を、埋め尽くす真っ黒な極大湖────
を、五つある内の一として正五角形、あるいは五芒星形の頂点の如く並ぶ同名ダンジョン群。その名も【青源の深域】全箇所に他ならない。
ノルタリア跡地については既に調査済みとのことで省くものの、残る四箇所が遠いこと遠いこと。位置関係としては俺たちが神創庭園の『中心』と認識している【セーフエリア】の大鐘楼から見て、最大限対極の並びとなっている。
更に言えば等間隔で置かれた五点の内、近い方の二点ですら仮想世界的一般常識で言う攻略不能領域……つまりは『アウトサイド』に余裕で突入している有様。
距離的にも当然のように第二開拓拠点【フロンティア】より向こう側だ。近い方でソレなのだから、遠い方の二点に関しては冗談抜きでアホの領域。
アホというのは、そのもの【旅人】あるいは【銀幕】という意味である。
事実上の仮想世界現最速にして、ほぼ唯一の空中機動自在者。加えて今や仮想世界有数の馬鹿スタミナを自認するからこそ言わせてもらうが、完全にアホ。
いざ往かんとなれば正直なところ俺だって「お、おう……」となる距離感を、アイツら普通に〝旅〟して歩いたってことだからな。アホというか、馬鹿げてる。
そりゃ現実とは比にならない超人スペックを抱えているとはいえ、代わりに仮想世界には現実では有り得ない超化物その他ヒト殺し超環境が溢れかえっている魔境異世界。単身で長期間の旅路を謳歌するとか端的に言って正気ではない。
わかりやすい例を上げれば、あの【剣ノ女王】でさえ過去に俺が「アーシェは円外一人旅とかしたことあんの?」と軽く聞いてみた際……。
────絶対に、嫌。
と、ノータイムかつ迫真の無表情で首を横に振ったくらいだ。
まあ「無理」でも「できない」でもなく「やりたくない」な辺りが実にアーシェで愛らしいが、そんくらいアルカディアの『一人旅』というのはガチで非推奨。地獄を見たければ行ってヨシ(序列持ちとて例外でナシ)というのが現状の結論。
つまるところ、ソロ旅人勢は偉大ということ。
ルクスたち名の知れた旅人を省いたとして、他にも確実に存在する名の知れない旅人たち……即ち粛々と己が冒険心に従うまま、表舞台とは縁遠い位置で仮想世界を満喫している連中を集めれば五柱戦争が成立するとまで囁かれるほどである。
実際、それは大言でも妄言でもないと俺も思っている。
根拠は何かと問われたら『カナタ君を見たまえ』としか言いようがない。潜在的にアレが何人も何人も存在すると仮定すれば、在野も底知れぬと震えるばかり。
仮にグワッと連中が一斉に表へ湧き出して来ることがあれば、冗談ではなく各陣営の序列が激動する可能性も決してゼロではないだろう────
──────……
────……
──……
つまり、なにが言いたいかといえば。
「……………………………………………………うーん」
とても、とても、暇。これに尽きる。
とりあえずは慣らしのジョギングがてらとばかり、サファイアの機嫌に任せて早朝からの空旅を満喫すること暫く。現在地は目的地その一点目。
即ち【青源の深域】一つ目……否、ノルタリア跡地を一つ目とするならば二つ目、その目前。相も変わらず天気が悪……い、というか天気が無いのは現在もアルカディアから〝空〟を攫い続けている『青点』の仕業として、この虚無虚無湖よ。
周辺環境も巨大湖自体も、俺が知るノルタリア跡地のソレと全く同一。
巨大な真円、不自然極まる水溜まり。どこからか流れてくるでもなく、どこへなり流れていくでもなく、ただそこに在り続ける膨大量……そして中央。
真円の深淵への入口。
音もなく姿成す〝渦〟が抱える光────異空間への門。どちらに関しても絶対に入りたくない、仮想世界に在る俺不可侵領域その不気味な威容である。
……ともあれ、風景のスケールに反して【青源の深域】周辺環境は静謐の一言。エネミーは疎か動物やら虫やらの気配すらなく、風さえも死んでいる有様。
動くものといえば湖中央の大渦と、その更に中心部で輝きを放つ転移門。あるいは見上げれば在る〝青〟を失くした宙を飛び交う星くらいなもの。
留守番の暇を誤魔化すものなど何一つない、寂しく退屈な空間だ。
…………………………まあ、なかったんですけどね?
調査についていく────つまり、ゆらたちと共にアレあの大渦もとい水底への入口に飛び込むなんてセルフメンタルクラッシュインポッシブルな択なんざ。
ほんとゴメン御免ごめんだけど無理。
許せ友よ、許し給え聖女様よ……────ってな具合に。
無理なもんは無理と割り切って特に申し訳なさなどは感じぬまま、十分ほど前に臆することなく湖へ突入していった二人の帰還を大人しくボケっと待っていた折。
「…………………………………………………………おっ」
無音の世界に訪れるサウンドエフェクト。彩のない風景を些細に賑やかす青の光。それらを伴い、二人分のアバターが俺の傍……つまり湖の縁に現れ
「ッぃ……、……」
ドシャァッ。
「ぁぅっ……!」
ベシャァッ。
…………現れた。
かと思えば、即時展開されるは流石に〝お労しい姿〟が二人分。
揃ってズブ濡れを超越したドシャ濡れ状態。二人ともに方向性は違うが着重ねているスタイルであるため、より悲惨めいて見えるグッシャグシャの惨状であった。
「お、おおぅ…………」
斯くして、俺は暫しのこと見るからに不機嫌全開な顔で地に転がっている【銀幕】殿。次いで切なそうな顔で地に伏している【玉法】様を見比べて……。
「………………焚火でも、用意します……?」
懐から火起こし短剣──もとい【欠首の冥牙剣】のカードを取り出しつつ、特に迷う理由もなく可哀想な後者の方へ手を差し伸べておいた。
誰だってそうする。前者に同じことやったら噛み付かれそうだし。
どちらも着込んでいるので透けません。諦めてください。
あと焚火に当たらずともシステムの加護で暫くしたら勝手に乾きます。
諦めてください。




