凸凹トリオ空を往く
斯くして、空の上。
「────あぁ? 私がコイツを呼ぶわけねぇだろ、ボケが」
今日ゆらと待ち合わせをしていたのは他でもない、先日に依頼された『脚』としての役目を果たすため。遥か彼方に点在するダンジョンを巡るためだ。
然らば早速の出発と相成り、神創庭園第一主街区【セーフエリア】を発ったのが十数秒前。そして快速飛竜便こと我が僕サファイアの機嫌に任せるまま、既に街並みを遥か後方の彼方へと置き去りにしつつ……ようやく問うてみれば、この通り。
並の猛者であれば動体視力が追い付かず線一色不可避な景色を眺めながら、ゆらは毒舌絶好調にて『何故サヤカさんを呼んだのか』という質問自体を否定した。
「こ、コイツ……ボケ…………!!!」
と、空の上、サファイアの背上、俺の後ろ。
コイツ呼ばわりされた聖女様が行儀よく乙女座りするまま、か細い声音で信じがたいとばかり暴言をリピートしながら不満を訴えようとしているが……。
言わずもがな、どこ吹く風とばかり────そのもの高空の暴風に煌めく銀髪を預け揺らしながら、ゆらチョロ【銀幕】は情けも容赦も慈悲もない無視。
「私が呼んだのはルクスの奴だ。こんなん呼んでねぇ」
「こん、なん……っ…………! せ、せっかく、来たのに……!」
「ま、まあまあ、落ち着いて……」
総合的に、どうしたもんかなぁってな感じ。
ゆらの容赦がなさ過ぎる苛めっ子ムーブも確かにアレだが、ぶっちゃけサヤカさんもサヤカさん。どうにも普段どころではなく感情が強めというか?
旧友かつ推定親友にして、彼女が持つ語手武装の『紡ぎ手』こと【灼腕】殿の前でも……なんというか、ここまでの態度は示さなかった。
さりとて、嫌っているという感じでもない。そう、彼女は先刻からずっと怒ってはいるが、どうしたことか嫌っているようには見えない。
おそらく両人とも否定するだろうが……やはり、じゃれているようにしか見えないのだ────と、重ねて人間関係の把握は追々に回すとして。
「ぁー、つまり、あれか。まず、ゆらがルクスに協力を要請して……」
「…………私が、代役を任されたんです。今は心を離せない冒険があるからと」
「うーわ適当この上ない断り文句」
「いえ、まあ、その……いつものこと、ではありますから」
飄々と憎まれ口しか返してこない天邪鬼は一時放置。相変わらず俺を盾にしながら仇敵を睨むサヤカさんへ顔と声を向ければ、秒でコレこの通り。
うん、会話が通じるって素晴らしいね。
見てるか限界チョロチョロ天邪鬼、これが人同士のコミュニケーションというものだぞ。見て学んで、ゆっくりとでも構わないから人の心を取り戻すん────
「おいハル」
「あ?」
「コイツは、いいな。自慢の従者ってやつか」
「だッッッろぉう? 流石は天下の【銀幕】様お目が高いぜ!」
心中とて失言を許し給え我が心の友よ。他ならぬ俺のサフィーの良さが理解できるやつに、鬼も悪魔も天邪鬼もいやしねぇってのは事実だよなぁ!!!
なんか背後から裏切りに遭った人間のソレ的な悲しく切なく不満を訴える視線を感じないでもないが、まあトータル仲良しで結論とさせていただく方向に……。
「……んで、まあ、なんだ。つまりあれか?」
まとめるにしても、ゆうて俺は関係を知らぬ第三者であるからして。
「お師匠様にフラれたから拗ねてるって話────っとぉ‼︎」
「ぶっ殺すぞクソガキ」
ゆらがサヤカさんを弄るのであれば、俺が貴様を弄ることでバランスを取れば万事解決だなと戯れに乗り出した瞬間。俺の頬を撫でる距離を岩石弾が突き抜けた。
流石の無詠唱、気配も何もなく即時にてコレである。勘が半分と反射が半分で首を傾げたから風圧拝受だけで済んだものを、完全なる殺人未遂で草も生えない。
ともあれ……。
「チッ……囲うべきだな」
「おい殺害の算段を立てんな。やめろよ全包囲砲撃とかサヤカさんが危ねぇだろ」
「テメェは無傷前提なのがクソ忌々しいんだよ曲芸馬鹿が」
「なんだ喧嘩か? この環境から『よーいドン』で俺に勝てると思うなよ」
「ッハ、試してみるかよ? 高空を地上にも変えられんだぜ地属性魔法士は」
……とかなんとか、慣れ親しんだ戯れを挟むことで背後の切なげなチクチクを軽減。ゆらにも馬鹿友達との会話による楽しみを提供したことで────
「……………………ふん、まあいい」
「はぁ……ったーく、世話が焼ける先輩方だこって」
「……あの、ハル様。それは、私も含まれているのでしょうか……?」
「9:1ってとこでしょうかね。普段のサヤカさんは、もちっと理性ありますよ」
「ぅ………………す、すみません。お恥ずかしい限りです……」
無理くりにでも、ようやく一旦は落ち着いたかなと。
然らば、
「ゆらがルクスに如何なる助力を求めたかは知らんですけども……ルクスはルクスとはいえギリ北の頭ですし、代役を任せたってんなら問題はないんでしょう?」
「……はい。私でも、お力になれる領分の話だと思います」
「なら全然いいじゃないすか。────おいチョロゆら。お前『依頼』だのと理由つけて俺にも頼むって言えたんだから、サヤカさんにばっか意地悪すんなよ」
「あぁ?」
「少なくとも後輩の前でギスんな。ギスるならもっと盛大に、仲良く、わかりやすく戯れろ。じゃなけりゃ早々に関係性を共有しろ気ぃ遣うの面倒くせぇから」
「……、………………」
この機に一気果敢と、突発トリオ旅を不必要な喧嘩満載にしないため僭越ながら調整役を攫わせてもらう。……いや、いいんだけどね?
別に、見てる分には正直なとこ愉快成分のが強いし……────と、
俺が主に自陣営の先輩殿を嗜めていたら、ちょいと服の背中を引っ張られた。振り返ると、なにやら顔を赤らめた……それはなにも照れているとかではなく、
おそらく俺の知らない何かしらの事情を以って、羞恥を浮かべた聖女様が。
「っ……、…………、……………………」
何事か、言いづらそうに口を小さく開けたり閉じたり。そんで結局、ふしゅーっと萎んでいくようにして何も言えないまま黙ってしまう様子を見せて────
「……ったく」
それを見ていた俺以外の口から、ぽつりと音が零れた。
「────道理だな。確かに〝訳〟を知らなきゃ私が一方的なクソ野郎か」
「いや、そこまでは言ってねぇけど」
然して、間もなく。
「サヤカ」
「……、…………はい」
「アイツより適任なのは、まあ事実だ。来ちまったもんは仕方ねぇから手ぇ貸せ」
頼むと一言で済むものを迂遠に言葉を付け足した上で至極乱暴かつ上から目線。俺様キャラもここまでくれば芸術的だと、傍から見て関心半分の溜息半分。
また聖女様のフォローをすべく、振り向いてみれば────あら不思議。
「っ…………は、はい。勿論です……!」
先程の羞恥とは色味の異なる、普通の照れ顔。
恋焦がれる乙女のソレとは似て非なるもの。そう、それは例えるのであれば…………うん、例えるのであれば、恥ずかしながら、俺の知る────
サヤカさんが、彼女の言う〝主人公〟として俺を見つめるような顔で。
「…………………………んん……???」
斯くして加速する謎、そして展開する妙な雰囲気を置き去りに……背上での一幕などには関せずして。悠々と舞う星空の竜は、機嫌良く空を裂いていった。
大体の関係性を予想できるだけの材料は既に揃えてあるので、詳しく語られる日が来るか否かは謎。どうしても知りたい人は天邪鬼に聞いてください。




