出立には茶番を添えて
────ともあれ、ここでいきなり「で、どういう関係で?」なんて直球ストレートを選択するほど俺はデリカシーが欠如した人間ではない。
いや相手が不良単体なら選択肢には上がったが、コレで……アレとかコレとか我ながら失礼なのは今更だが、コレで実際のとこ天使をダメな方向へ極端にしたような善性と無害性の塊であるだけの聖女様相手じゃ気が引ける。
ので、二人の関係性については追々様子見すりゃヨシと棚上げしつつ……。
「ぇー…………だ、大丈夫、です?」
とりあえずのところ、床にペシャッとなっているサヤカさんへ手を差し伸べる。拳骨は推定じゃれ合いと見てスルーしたが、流石に放置は可哀想と思った次第だ。
異性に対して良い顔ばかりを見せるべき立場でないのは理解している。が、難しいかな俺が惚れた女性らは揃って俺に『お人好しで在れ』と言うもんで────
と、屈みつつ無事を問うた瞬間。
「うぉ、っと……!?」
ぶちまけられた柔らかな桃色の髪は、まるで絨毯。そして緑の瞳へは仮想世界特有の過感情表現によるものか否か、涙を滲ませていた聖女様が機敏に動く。
まさしく、この人こんなに素早いアクションを可能としていたのかと驚く身のこなし。それでもって俺の手を取ったサヤカさんは、立ち上がると共に……。
「全く……! もうっ……! あなたも少しは、ハル様を見習ってください!」
「ッハ、このクソガキの一体どこを見習えってんだよ」
法衣を纏う華奢な身体を更に縮こまらせ、俺の背に隠れ俺を盾としながら、
「全部ですっ! 全部! あなたには真心というものが────」
「真心ある奴が目の前の暴力を看過するかねぇ?」
しながら………………なんか、こう、口喧嘩を始めなすった。
なんだこれ。
「そ、…………っ」
ほんで速攻で返しにつまり、再び大丈夫かと背後に目を向ければ困ったような顔で俺を見つめている聖女様。惚れ惚れするくらいの口喧嘩弱者である。
然らば…………あー……然らば。
「……申し訳ない。あれです、あの、呆気に取られまして」
「っ、そ、そうですよねっ……! 突然のことでしたから、仕方ありません!」
言い訳紛いの助け舟を出してみれば、まさしく救世の手を前にしたが如くパッと瞳を輝かせて精神的に飛び付いてくる。斯くして精神年齢が急落してませんか大丈夫ですかと曖昧な笑みを浮かべつつ困っていると、正面からは剣呑な────
いや、アレは違う。
「ッハ、女たらし」
「痴話喧嘩に巻き込まれた上で貶められるの流石に俺が可哀想では……?」
あの銀色は、嬉々として喧嘩に臨む苛めっ子の目だ。
「そうやって、いつもいつも憎まれ口ばかり……!────」
……んで、
「常時お花畑よかマシだろ────」
「穏やかで在ることの何が悪いと────」
「だから〝魔性〟だの何だの有象無象に好き勝手なこと言われ────」
「それは今の話と関係────」
「この男たらしが────」
「なっ……!!? い、いい加減にっ────」
「万年平和ボケ────」
「そん、あ、あなたなんてッ……い、……意地悪な、人っ!────」
「語彙薄弱アホ聖女────」
「わ、……わ、悪口、大魔王っ……!────」
幕を開けるは、小学生のソレと見紛う甚だ居たたまれない低レベルな喧嘩。
なにこれ俺はどうすりゃいいのよ帰ってオーケー? ……と、何故か間に挟まれたまま100:1で傾いている戦局を見守りながら、やはり思うのは一つ。
「………………ふーむ」
曰く本の虫だというのに、おそらく性根が清らか過ぎて口喧嘩には活かせないのだろう。可愛らしい語彙力で以って可哀想なほどボコボコにされている聖女様は……まあ見たところ裏表なく素直に怒っていらっしゃる様子であるとして。
ゆらが普通に楽しそうにしていることについて、俺は驚くばかり。
いや表情諸々の外面は普段通りに違いないのだが、なんというかこう、些細な声音の弾み方やノリが異なっている。俺にはわかってしまう。
コレで隠しているつもりなら申し訳ないが……ほら。仮想世界限定、完全『記憶』能力者なもんでね。常と異の見比べなんざ朝飯前なのだ────と、
「────おい」
「あ?」
声を掛けられ、なんだ貴様も我が心を読むかと警戒の目を向ければ……おそらく杞憂。心做しか清々しい仏頂面で俺を呼んだ不良と目が合い、
「────……………………………………」
であればと振り返れば、背後には完全なる涙目で沈黙した聖女様。愉快な推定痴話喧嘩(?)の決着は完膚なきまでのワンサイドゲームで了となったらしい。
可哀想に。
なんて、心中合掌で済ませる俺も割かし薄情者かと思いつつ。
「行くぞ。いつまでも馬鹿やってる暇なんざねぇ」
「どちらかといえば、お前が始めた茶番劇だったけどな???」
見慣れたものよりも、ほんの僅かなり柔らかい不機嫌顔を翻して。
パーティ申請を送ると共に颯爽と転移の光に包まれ空間を跳んだ我が友を追い、俺もパーティメンバー追従設定で空間転移のシステムを喚んだ。
……然して、二人まとめて青い光に囲まれながら。
「ん? ってか……」
この聖女様。普通に連れてく感じで良きなのか?
なんて疑問の確認は間に合わず。いつの間にか半泣きで俺の袖を摘まんでいるサヤカさんを連れるまま、二人分のアバターが光に呑まれ空間を渡り始めた。
かわいい。




