一方そのころ藍色娘
何とは言わないけど、書き溜めてます。
ゆえに短め、お許し下さいませ……
「………………」
我ながらやたらとアレコレやらかしながら、『彼』を送り出して二時間ほど。
【セーフエリア】支部に宛がわれた自らのアトリエに引っ込んだあたしは、ただただ無言で時間を潰していた。
流石に一人きりの時でも騒がしく振舞っているわけではないし、自室で無言など何らおかしな事では無いのだが―――それはあくまで、一人きりの場合。
「ニアちゃ、黙ってても動きがひたすら五月蠅いよ」
「うっ……」
机に並べたティーカップを、持ち上げたり降ろしたり。
意味も無くパタパタと足を揺らしたり。
三十秒に一回のペースでウィンドウを開き、メッセージなり何なりを確認してみたり―――とにかく落ち着きが無い現状を自覚している身に、ドストレートな友人の苦言を受けて動きを止める。
「し、仕方ないじゃん……もう暫く経つのに、連絡一つも寄越して来ないし……」
「イスティアの選抜戦ってめちゃめちゃハイペースでしょ。そこまで余裕ないんじゃないの?で、余裕がないってことは無事に勝ってるって事でしょ?」
相も変わらず、同性の自分でも聞き惚れてしまう蕩けるような甘い声。
そんな声音で諭されるように言われて、反論を封殺されたあたしは不貞腐れたようにカップを口元にくっ付けて顔を隠す。
「何というか、ほんとにビックリ。まさかニアちゃがド直球で恋に溺れるとは思わなかった」
「ち、ちがっ、まだそこまで本気じゃないんだってば……!」
「それ、もう認めてはいるって事でしょ?」
「ふぐぅ……!!」
からかうような言葉に、何も言い返すことが出来ない。
言い返せないということは、それ即ちそういう事で―――自覚はしてるけどさぁ……!
「面食いのニアちゃが一目惚れとは本当にまあ。いったいどれほどの美少年なのやら」
「誰が面食いかな!? そんな振る舞いした事、一度も無いんですけど!!」
あと別に美少年ってタイプでは無いし!!
「じゃあどこが良かったの?」
「それ、は―――!………………………………か、顔」
「むふ」
「むふじゃないよ!ひよちゃんの意地悪!!」
仕方ないじゃん!何がどうとか知らないけど意味分かんないくらい好みだったんだから!!
どうしようもなく熱い頬を隠すように机に突っ伏せば、ひよちゃん―――職人仲間であり親友でもある【ひよどり】が、やたら楽しそうに頭を撫でてくる。
「……卑怯者めぇ」
「何のことかなぁ」
それやられるとあたしが抵抗出来なくなることを知ってるんだ、この子は。
ソラちゃんの綺麗な金色によく似た色味の、フワフワしたロングウェーブ。
サファイアのような綺麗な青い瞳を湛えた、アルカディアプレイヤーのデフォルトである整った顔立ち―――リアルとは全然違うその顔でも、浮かべられる柔らかな表情は見知ったもので……やはり、妙に安心してしまうのだ。
ちなみに、微妙に胸を盛っている事を弄るとイジける。なんだよリアルでも私よりあるくせに!!
「それで? そこまでお熱ってことは、顔だけじゃないんでしょ?」
「なに、待って。どうして自然にそゆこと話す流れになってるの」
「忙しいところを落ち着かないからって理由で呼び出された私としては、それくらいのお茶請けは要求しても良いかなって」
「人の初恋をお茶請け扱い……!!」
なにが性質悪いって、あたしとしても誰かに聞いてほしい気持ちが無いではない事を見抜いた上での発言なのが……
「……………………こ」
「こ?」
「声、も…………わりと、好きだったり……」
「どんな声なのかなぁ」
「高くはないけど、ザラついてないというか……話し方も、ぶっきらぼうな口調の時でもなんか絶妙に優しいし…………」
やばい、無理なんだけど。頬っぺた熱過ぎて爆発しそう。
「っ……あと笑い方がぁッ!!」
「何だかんだで素直に話しちゃうニアちゃ好きだよ」
しょうがないじゃん!アレもコレも初めてなんだよこちとらさぁ!!
結局あたしの方から洗いざらい話してしまい、山ほどの弱みを握られたお昼前。
昔から姉のような顔を見せる親友は、終始ころころと楽しそうに笑っていた。
かわいい(かわいい)