ハルソラ配信中:Part.1
────俺は『動画配信』という文化に、あまり馴染まず生きてきた。
概要程度は知っている。現代に生きる若者ならば一度は触れて当然たる嗜みの類ゆえ、中学時代などPCと仲良くしていた頃に数える程度だが視聴したこともある。
だから正直なところ、一般的な空気感というか〝基準〟の設定が曖昧だ。
トークとは、こんなもんでいいのか。リスナー諸君は、これ果たして盛り上がっていると言える状態なのか。盛り上がってるとして、どの程度なもんなのか。
第一回こと【螺旋の紅塔】攻略映像(笑)解説配信から始まって何度か生放送の経験は積んできたが、真実まだまだペーペーもいいとこ。
表には出さないが、不安は尽きない。
言葉遣い、発言内容、ノリの是非、空気読み……トータル、アリかナシか。
ぶっちゃけ技術なんてゼロなのだ。剣だの鈍器だのを握らずとも、空も翔けずとも、それでも俺が他人を楽しませられる生粋の娯楽人などと自惚れるのは不可能。
【曲芸師】として蓄積した果て、今に咲く【星架】としての話題性と人気。
それも『実力』と言えばそうなのかもしれないが、結局のところ俺の対ファンおよび世間衆目への性能はソレ頼り。自前の振る舞いで売る自信などない。
だから、そう────白状すれば、毎度のこと冷や汗をかいているのだ。
今の俺、スベっていやしないか。痛々しくはないだろうか……いや一部から真顔を向けられる程度なら呑み込めるが、それだけだとすれば堪え難し。
自己評価が低いとか自意識不足とか、そんな次元の問題じゃねぇんだわ。
世界を相手取らされているんだもの。当たり前だろ舐めてんのかってな具合。
とまあ、そんなこんなで今まで頑張って来ていたわけだが……。
今日、改めて思い知った。
「────…………うん。ってな感じで」
なんの話かといえば、至極単純この世界の心理────
「攻略前菜部分、開幕強制スクロール限界ホラー鬼ごっこ第一走でしたとさ」
チラッ。
「っ、ぁ、で、でしたっ……!」
『かわいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい』『最高かよ』『ソラかわー!』『てれかわ……!』『緊張してるのお!????????????』『大丈夫だよ怖くないよ!!!』『てぇて死』『冒頭数分で既に無理』『もうぜんぶかわいい』『声かわいい好き』『脳に響く』『ソラちゃんリラックスしてー!』『これは美少女ですわ確実ですわ』『声が立体を成している』『吐息が致死成分を含んでおりますゆえマイク距離に注意されたし』『マイク距離大事よ。音質ぶっ飛んで良きだから少し離れても大丈夫です変態共に餌を与えてはならない』『天使を守れ』『投げ銭できないバグ』『ソラちゃんに課金させろ』『この子が戦闘では魔王と化すってマジ???』『細切れにされても痛くなさそう』『照れ声だけで人を幸せにできるの才能だよ誇らしくないの?』『毎秒浄化案件』『ねぇ立ち絵ずっと困った顔してて可愛過ぎる無理』『無垢な癒し美少女ボイスとミニキャラの相性たるや』『一生懸命やってる感たまらなく愛い』『こんなん無条件で推せてまう助けて』『こーれは供給絞ってたんも頷けますよ世界滅ぶ』『ソラかわー!!!』『なんか涙が出てくるんだよね』『なんで俺のアルカディアにはヒロインが実装されてないんですかねぇ(憤怒)』『これあと三時間あんの?????』『とけちゃう』『いろんな意味で心がもたねんだわ』『♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡』『眩暈してきた』『好き』『負けました』『すこすこ【虹筆操の遁蠍】』『これを推せなきゃ人でなし』『人類愛の集合先』『お年玉せびってくる孫より可愛い』『──────』『──────────』『────────』『────』『────────────』『────』──────……
はい。
つまるところ、コレこの通り────〝かわいい〟は全人類共通の無敵チートであるという、至極単純明快そういう話である。
時は夕刻、場は四條邸。
初の試みとなるペア配信に臨むべく、邸宅内へ新たに用意された専用ブース内。端的に言えば『リアル隣同士で配信している事実がバレないよう配慮された連結配信BOX』の内にて、天使がアワつけば世界はコレご覧の模様といった有様である。
互いの声音の反響や入りなど様々な要因から諸々バレの可能性を叩き潰す、超指向性マイク&限定空間サウンドキャンセリング機器完備の小箱室内型配信部屋。
それを二つ並べれば、小窓を隔てた隣同士。実際には数十センチの距離で好きに会話しようとも、オンライン通信の体で守秘してくれる設計だ。
音量を爆上げしなくては聞き取れないレベルのBGMやダミー環境音のミックスと併せて、まず解析等で配信環境を看破されることはないだろう────とかなんとか『専門の人たちが言ってたよ』と楓と美稀が言っていた。
さっぱり理解は及ばないが、プロがそう言うならそうなのだろう。詳しくない世界の事情は詳しい人たちに任せておいて……俺が意識を向けるべきは、
「ちなみに諸君のコメントを目にしているのは俺だけなんで、そのつもりで」
まさしく隣人のみ。
然して『そんなぁ!!!』とか『御無体ではないですぅ???』とか『俺たちの愛のエールはソラちゃんには届かない申しますかそうですか』とかとか。
宣言通りソラのブースにあるモニターには流れることのない馬鹿げた数のコメントたちを、申し訳ないが適当に視界の端で流しつつ……。
「ソラさん」
「っは、はひゅ、はいっ」
「大丈夫。いい感じに盛り上がってるから安心するといい」
「い、ぅ…………────い、いい感じも、あの、盛り上がってる、も……あの、あれ、ですね……あの、あれで……! ちょ、ちょっと、お待ちを……!!!」
声を通す窓の設けられた隣接ブース、その壁二枚越し。
ガラスのような遮音パネルの向こうでテンパりの極みの向こう側へ駆けて行きそうになっている、愛らしいが過ぎる相棒に思わず笑みを滲ませると────
『はいニヤけてまーす』『しあわせそうでなによりでーす』『爆発城』『なんすかコレ』『これだからカップル配信者はよぉ???』『永遠にやってろ』『おかしいな。俺のニヤけ顔はコレにならないんだけど』『ずっとコレで行く感じですか?????』『マジかよ誰か助けてくれ』────とか、とかとか。
モニター……今のとこ開幕ジャブ的に無限スクロール鬼ごっこ編を提供している配信画面の下方隅。抜群のクオリティを誇る立ち絵が見事に俺の表情をリアルタイムでトレースしてしまい、秒で惚気がバレて馬鹿ほど世界から囃し立てられた。
Presented by ひよりん様。
大きなソファで隣り合うようにして座っている『俺』と『ソラ』のアバターは、元より美少女の相棒は勿論のこと俺までも文句ナシで可愛らしいの一言。
更には事前提示した報酬に追加分を乗せざるを得なかったイカれた差分量&俺は驚かされたものの実際は大した技術では無いらしい表情トレース自動切り替え器材によって、簡易的ではあるがリアルタイム2Dモデルの体を成している。
たとえば『笑顔』だけで十パターンくらい差分があるのだ。絵ではあるが、ここまで来ると普通に分身。弄りは俺に直でクルので割と普通に恥案件……。
しかしまあ、
「なんすか。なんか文句あるんすか」
「へっ、ぇ、ちょ、ハル────?」
「ニヤけて然りだろ俺のパートナーだぞ。可愛かろうて」
『それはそう』『はいはい』『ほな無罪か』『しあわせそうでなによりでーす』『ソラかわー!!!(ヤケクソ)』『今なら奥歯を噛み砕けそう』『貴方を殴るために四柱選抜目指します』──────とか、とか、なんとか。
こういった親愛の滲む弄りであるのなら、多少は蓄積からの慣れがある。
「────はぇっ!? なに、なん、なんのっ、話……!」
それに加えて、
「あー大丈夫大丈夫」
「なにが大丈夫なんですか……! わた、私、コメント見えてないのに……!」
「うん。だから、コメントよ」
「それっ」
「しばらくは、基本なに言っても『ソラさん可愛い』しか返って来ないだろうて」
「…………────っ!!?!??」
隣には、毎秒欠かさず癒しと愛おしさを供給してくれる俺の天使。この俺が守り導かねばと奮起するなら、大言ではなく、この程度────
「まあ、そんなことはさておき視聴者諸君」
「そんなことっ……!?」
「そろっと見せ場その一が来るぞ。俺の相棒ばっか見てないで映像を御覧あれよ」
空を翔けるくらい容易いことよ、なんてな。
システムちゃんの検閲加護とかいう絶対配信安寧化機構。
今日も今日とて賑やかながら健やかな平和を実現中につき。




