適材適所
──────────で、
「…………その様子を見るに」
「難航、したみたいですねぇ……」
やるべきをやるべく真面目に取り組めば、あっという間に時は過ぎ去り。
毎回仮想時間的な意味で正午辺りから始まる星空イベントだが、既に闇夜の帳が下りた頃合い。つまりは夕飯時にて、俺は協力者と共に死んでいた。
場所は食事処。案内された卓は特別席という名の画一席。
集う面子は、常の顔ぶれ……つまり並んで卓上へ突っ伏している俺とリィナ他、俺たちに比べりゃ全くの無事で済んだニアおよびノノ鉄ペア&なっちゃん先輩。
然らば集合してから三十秒。早速のこと先輩殿と相談役から苦笑い色濃い反応の声が飛んでくるも、いろいろと尽き果てた俺は微動だにせず。
「「…………………………」」
隣のリィナも、また同じく。
「あららぁ……ニアちゃん?」
「んー、ぁー、えー、まあ……うん」
ゆえに、つついても詮無しと認めたのだろう。慈悲無き追撃は早々に諦めたのだろうノノさんが俺の隣、リィナとは逆サイドに収まった無事人員へ問いをシフト。
対する訳知りニアちゃんの反応は────
「難航というか、単に頑張り過ぎというか」
おそらくは、場に居合わせても見ているだけしかできなかったことを気にしているのだろう。ほんのり申し訳なさげな声と共に、遠慮がちな感触が後頭部へ着地。
もとい着頭した後、衆目環境への羞恥よりも慮りが勝ったと見える。ぎこちなくだが、華奢な手が優しく俺の頭を撫で始めた。
そして普段であればいざ知らず、今ここに在るは極度疲労の俺。
これを、やめさせるなど、とんでもない。
「休憩もナシで没頭するもんだから、この人たち……────やっぱあれ、序列持ちって皆どっかおかしいよ。戦闘に限らずブレーキが無いというかなんというか」
「甚だ不本意だから『序列持ち』で一括りにしないでくれる?」
「そんであなたも今は同類『序列持ち』でしょうにニアちゃんや」
「……五時間以上は籠もってただろう。流石に休憩くらいは取れ」
ともあれ、ニアの説明を聞いては一斉に飛んでくるツッコミの雨霰。
ノノさんのソレは旧友兼生徒に向けてのものだったが、言葉はともかく視線の方はバッチリ俺とリィナに刺さっている。感知系スキルが無くてもバッチバチだ。
さて、そしたら────
「あはは…………。ん、と……大丈夫?」
「………………………………………………、……んぉう」
いつまでも呆れと心配を浴び続けているのもアレなので、頭を撫でつつ向けらえたニアの声に応じて「よっこらせ」と身体を持ち上げる。
逆隣りのリィナ……は、まだ瀕死継続。頭の位置が上がったことにより自然と下りたニアの手に代わり、順番めいて今度は俺の手を後頭部に降らせておいた。
ゆっくり休め妹分よ。お前は実によく働いてくれた。
「だいじょぶです?」
ので、心配に対する報告の義務は俺が受け持つとしよう。
「大丈夫。────まぁ、難航はしてない。順調だよ。今日の内どうにかこうにかコレっていう雛形? 映像再現形式の方向性は大体まとまったから、明日から『要所』ピックアップでガンガン録画してけば間に合うんじゃねぇかな……と」
「おー」
「ご苦労様ね」
誇張はしていないし強がりもない、言葉通りだ。
根底を担うのは俺の『記憶』だが……やはりというか他全部、とにかくリィナこと【右翼】様の《夢幻ノ天権》が万能ぶっ壊れ便利魔法過ぎたがため。
操作性というかイメージ具現性の感度良好抜群具合が、わかっちゃいたけど俺の『才能』との親和性が高過ぎる。全く褪せることなく仮想脳に刻み込まれている思い出を浮かべるだけで、それを容易く〝スクリーン〟に映してしまうのだから
その投影窓さえも、幻術によって創り出せてしまう無法っぷり。そっちはリィナのコントロールによって俺の部屋は丸ごと『邪魔物』の存在しない真っ暗で完璧な虚空となり、言わずもがな記憶投影が捗ること捗ること……。
おかげで、極限まで集中して作業に没頭できた────とまあ、没頭できてしまったがゆえの今この状況グロッキー兄妹(?)ではあるのだが。
────ともあれ、ともあれ、だ。
「ま、そういうわけなんで」
「無理はしなくて大丈夫ですよー?」
「無理じゃないから、頑張るわ。いや『頑張る』ってのも違うな」
結論、思っていたよりも順調に成すべきことは進みそうなので……。
「楽しむべきとこは、俺も楽しませてもらうよ」
「そですか。まあまあ、了解でっす」
グループ行動は欠席せず、基本どれも参加させてもらうという方針で。そう伝えれば、仄めかすでもなくストレートな笑顔でノノさんは歓迎の意を示した。
こういうところは実に光属性っぽい。好意を伝えるのを躊躇わないということが如何に難しいか、最近になって俺も死ぬほど学んでいるので素直に尊敬である。
────と、そんなこんな、まとまったところで。
「しっかし…………こう見ると、見事に観光地っぽくなったなぁ」
「お、そうでしょうとも! ノノミちゃんも制服デザイン頑張りました!!!」
「声でっか。いや、流石だとは思うけども……」
目線を今にシフト。つまるところ、身を置いている現在地……──かつての床宴会スタイルから比較にならない進歩を遂げた、青空大衆酒場へと移す。
いや青空ってか見上げりゃ大地だけども。まあ屋外ってな意味合いでさ。
最大収容人数は三百名余り。お抱えシェフは総料理長役を預けている鉄さんも含めて十名体制────そして、従業員は変動制で数名から五十名超を右往左往。
簡単な話だ。戦闘云々やらでイベントに関われないタイプのゲスト勢に対して、用意された仕事。それがこの干支森大衆酒場【Zoodiac】というわけだ。
メインの『客』となっているのは、男性陣を主として昼間は森で狩り夜は『夜襲』に対応と戦力に数えられるプレイヤーたち。そして接客メインで『従業員』となっているのは、女性陣を主とした非戦系プレイヤーたち。
それ即ち、ウェイトレス……ノノさんが頑張ったという『制服』を身に纏い、忙しなくも楽しげにホールを飛び交っている華やかな働き者たちである。
勿論〝招待客〟なのだから、別に働く必要はない────けれども、おそれながら俺も含めた首脳陣で協議した結果『義務』とさせていただいた。
なぜならば、そうでないと気持ちよく報酬を受け取ってもらえないから。
【干支森】招待がプレイヤー間で特大コンテンツのように扱われているのは理解しているが、そも【干支森】の存在自体が【星空の棲まう楽園】という現状アルカディア唯一のワールドイベントその一要素であることを忘れてはいけない。
ゲームのイベントに参加する遍くプレイヤーには、報酬が用意されているのが世の常だ。そして実際に現物を握れてこそ、楽しみには達成感が付属する。
早い話が、ウチへ招待されるからと【星屑の遺石】の獲得機会を損失させたくなかったのである。ゆえに、酒場での従事を建前とすることで参加者全員に報酬分配の権利を押し付ける形を取らせてもらった────まあ、言わずもがな。
ほぼほぼ、ノノさんから打ち出された案なんだけどな。
だからまあ、結果として……。
「ノノさん」
「ぇ、ハイなんでしょう」
「お酌しようか?」
「ぇ、ぇ、ぇ、なんですか何が目的ですか。お疲れの殿方にイヤそんなそんな謎に唐突に媚びを売られてもノノミちゃん困っちゃうといいますかいえいえ別に全然お断りなんかしませんけどもねグッヘヘぇーいいんですかぁ照れちゃうなぁ!」
「貧弱AGIの癖に肺活量どうなってんの」
結局のところ、干支森へ集ったグループメンバー初期面子。中でも群を抜いた『大当たり』が誰あろう、この参謀相談役様であることは……。
「ぁ、お返しはノノミちゃんウィンクで良きです? ファンサだファンサぁ!」
「鉄さんパス」
「いらん。俺に振らないでくれ」
「元アイドルにコレこの仕打ちっ!!!」
……まあ、こんな扱いでも仲間内では周知の事実ということで。
可愛くて有能な柑橘類。
でもグヘヘとか言う。
だがそれがいい。
つまりノノミちゃんは素敵ということ。




