もひとつファンサ
────斯くして、十数分後。
「勝利宣言、よろしいか?」
「「「「「「「「「「お好きにどうぞ…………」」」」」」」」」」
心ゆくまで、身体は伏すまで。限界の果てまで挑み掛かってきた挑戦者総勢が一人残らず、悔い無き死に体で転がる愉快な地獄絵図に至りて。
これも示すべくして息は一抹も乱さぬまま。
自分に課した制限こと『円』から一歩も出ずにファンサを果たした俺は、呟きに対して返された死屍累々の声音たちに苦笑いしつつ……。
「んでは」
適当に拳を突き上げ勝利のスタンディング────然らば、
「「「「「──────────っ!」」」」」
飽きず湧いて降って来るのは、至極こそばゆい黄色い歓声……と。
男性ファンは、言っちゃなんだが対応しやすい。友達感覚で絡みに行けば喜んでくれるし、特に困るようなことはなく俺も俺で楽しめる。
────が、問題は女性。
「…………、……ぁー、さてぇ……?」
どう対応すべきかと、まーじで、無限に困り果てている。野郎共との戯れ観戦 with 至近席を、そのままファンサとして納得いただく……というのは、
まあ、なんだ。
殴りっ交流会への参加挙手はしなかった、残りの七十名程度。決して押しつけがましいほどではないが、確かに『期待』の光が見て取れる女性陣の目を見回しといて、流石に知らんぷりのスルー択は気が引けるというか……なので、
「ぁー、ぇー…………っとぉ……」
なのでー……まあ、そうだなぁ?
腕っぷし披露を除いて、俺がファンの方々に渡せるもの────なんて、
「スゥ────────……よし、では、ハイ殴りっこ不参加だった方々は」
そんなもの、数えられるくらいの僅かばかりしか思いつかなかったので。
「あ、………………………………握手会、とかで、如何────」
スタンディングに付き上げた右手を解き、ヒラヒラと振りながら顔色を窺いつつ提案をしてみた……──刹那。いやもう本当、刹那としか言いようのない一瞬で。
俺は先の暴徒共も斯くやといった勢いで包囲され、人以外一切の景色を失った。
なにこれこわい。助けて……。
◇◆◇◆◇
────斯くして、そんな連鎖地獄絵図を眺める握手会非参加女性陣。
「……やっぱアホね、アイツ」
「あーあー本当に【星架】様は隙だらけだぁ」
「そこが可愛いところ、だから」
「うわぁ……」
即ちファンではなく友人その他に類する非一般勢の紅たちは、異性に囲まれ顔を赤くするどころか青くして慌てふためいている男子を好き放題に言っていた。
────言わずもがな常として、アルカディアのプレイヤーは美男美女揃い。キャラクターメイキングという裏技があって、なお飾らない者は少数派。
勿論のこと少数の例外はあるが……つまるところ、現在アホもとい人気盛況の【星架】を取り囲んでいるのは、仮に現実へ飛び出したとなれば容易に男を魅了して然るべきバリエーション豊かな綺麗カワイイ妖艶のサラダボウル。
…………なのだが、
「……とりあえず、心配は要らなさそうね。お二人さん?」
動揺、困惑、恐々、必死。
重ねて赤よりも青寄り、鼻の下を伸ばして触れ合うどころか女性経験皆無の小学生めいて縮こまっている姿を眺め、まずナツメが揶揄うように言い視線を流す。
然らば、目を向けられた〝お二人さん〟────
「ん……? あぁ、うん」
「へ……? あぁ、それはまあ、別に元々……」
即ち自称妹と恋慕娘は、一瞬『なんのこと?』と同時に首を傾げ、次いで『なんだそんなことか』と再び同時に揶揄いを受け流した。
パッと見ただけで疑う余地もない、完全なるノーダメージの様である。そんな様子を見せ付けられ、意外そうにパチパチと瞬くナツメを他所に……。
「無敵妹はともかくとして、ニアちゃんも全然しないよねぇ、嫉妬」
半分は異に、しかし半分は意見を一致させるノノミが旧友にして生徒でもある藍色娘の脇をつつく。さすればニアは「やめぃっ」と身を捩りつつ、
「や、だって、そんなん……さぁ。なんていう、かー……ぇー…………」
どれにしようかな、と。まるで言い訳を選んでいるかの如く想い人と友人たちとで視線をウロウロと彷徨わせた末に────
「あの、あれです……────『天使』と『姫様』を相手にしてると、こう……」
「あぁー……感覚麻痺っちゃったかー……」
「まあ、そこ二人が基準じゃ大抵の相手は嫉妬の対象にもならないかしらね……」
「妥当」
それっぽく聞こえる冗談半分を以って、見事に三人へ納得を与えて切り抜けた。
その『天使』と『姫様』に自分自身が極限まで絆されており、そっちも逆に嫉妬の対象になり難くなっている……なんて、そこまで白状する必要は無かろうと。
────ついでに、
「…………まあ」
たとえばゲーム内の出来事ではなく、現実かつ目の前で、アルカディアプレイヤーでもない見知らぬ女性に彼が口説かれたりでもしたら……。
流石に、ちょっとは、モヤっとするかもしれないけれど、とか。
決して嫉妬という感情を持っていないわけではないんだぞ、なんて。わざわざ白状してやるものかと、ままならない恋に生きる乙女は澄まし顔で口を噤んだ。
とある誰にも負けない絶対の自負もあることですし。
それはそれとして嫉妬のフリで以って構え甘やかせムーブは迷わずやる。
それが我らのリリアニア・ヴルーベリ嬢。




