懐事情
────で、結局は一時間程度の交流になったか。
「それじゃあな。……予定については、また私から連絡する」
「あいよ。いつでも」
用件を伝え、依頼を提示し、報酬を渡し、ついで親切に世話を焼いてと充実の時間を俺に与えてくれた後、ゆらはサラッとした挨拶を残して去って行った。
相変わらずの余韻ナシ颯爽。
素っ気ないと見るか、サッパリ気持ちの良い振る舞いと見るか……個人的には後者というか、似合っている点も含めて格好良いと思ってしまう。
なんか、ツボなんだろうな俺。どんだけキツく当たられようと自業自得を差し引いても全くもって嫌な気がしない。末永く仲良くしていただきたいものだ。
「……さて」
そしたら、どうするか。一人残された訓練所の只中で腕を組み思案。
重ねて、積み上がったタスクは多岐に亘る。東陣営序列持ち常からの義務としてベストコンディションを保つべく、アレコレと成長やら進化やら開拓やらと新要素を放り込まれた我が身を慣らすだとか。入院中にメッセージを貰っていて昨日は会えなかった者たちへ顔を見せに行くだとか。それに際して直近に迫る星空イベントの諸々、ノノさんら関係者各位と相談やら共有やらが必要だろうとか。あとは個人的にNPC関連の調査云々、気休め程度でも手を出すだけ出しておきたいような気がしないでもないだとか。NPCと言えば『緑繋』第二幕攻略後から様子が変わったらしい鍵樹街も気になるだとか、それと併せて同じく様子が変わったらしい鍵樹内もチラッと確認しときたいだとか……────本当に、挙げればキリがない。
ので。迷うくらいなら、とりあえずは流れに乗っておけばヨシと。
「あの人も大概、どんなリアルしてんだか謎な活動リズムだよなぁ……」
適当にスクロールしていたフレンドリストの一覧にて。
慣れ親しんだプレイヤーネームがログイン表示になっていることを確認して、俺は訓練所から退室するための転移システムを起動した。
◇◆◇◆◇
「────お、格好が付いたね」
然して、押しかけた俺を出迎えての開口一番。
朝でも昼でも夜でも変わらず太陽みたいに輝いている紅髪の魔工師様は、ニヤニヤを隠そうともしない顔で以って早速のこと揶揄いを投げ付けてきた。
「誰も彼も、俺を玩具にするのは罪に問われない案件だと思ってんだろ」
なんのことか、つい先ほど制御を身に付けた魔力関連に他ならないはず。竜巻洪水から安静状態への劇的ビフォーアフターだ、そりゃ面白いだろうよ。
と、半眼を向けるも赤銅色の瞳は笑み一つでサラリと躱す。
「日頃から振り回されてんだ、仕返しの悪戯程度で目くじら立てるんじゃないよ」
「ゆうて、俺も俺とて結構な頻度で振り回される側だと思うんだけどな……」
斯くも仮想世界は癖つよ人間ばかり。我が専属魔工師殿こと【遊火人】様も例に漏れず……────とはいえ、カグラさんは比較的まともな方か。
「で? 昨日の今日で来たってことは、なんか面白いもんでも拾ったかい?」
いつもいつとて、この人は娯楽最優先のガチエンジョイ勢。世間話も雑談も要らんから依頼を寄越せというスタンス、全くもって嫌いじゃない。
然らば、ポケットから〝石ころ〟を取り出して……。
「これなんすけど」
「ほーん……? 『残響遺物』か」
卓上にコトリと置いた瞬間。彼女は触れて識りもしない傍から、その正体を看破して楽しげに呟いた。ひよっこ魔工師の俺は理解が早過ぎて慄くばかりだ。
いや、真面目な話────
「あの、どうやって見抜いた感じなんすかね? 秒ってか瞬だったよね今? 魔工師のパッシブ鑑定眼って『よし視るぞ』って素材に注目してから結果が出るまで数秒のラグがあるはずだし、触ってないから脳内インストールも起きてない……」
「んなもんシステムに頼らずとも自分の目だけ見りゃわかる。舐めんじゃないよ」
────はずなのだが……と、そうか。聞いた俺が馬鹿だったようだ。
「俺は一生その高みには行けそうにないな……」
「来なくていいさね。アンタはアタシらの作品を振るってりゃいいんだ」
「男前の高みにも行けそうにねぇわ……」
今日も俺の専属魔工師殿は格好ヨシ、ってことで。
「そんで、御所望は?」
といったところで、石ころ────ゆらから頂戴した【外星ヨリ来ル物】を摘まみ上げたカグラさんが、改めて品を見分しつつ『依頼』を問う。
然して、問われた俺はと言えば……。
「う────────…………ん」
これといった、答えを返せず。
「ちなみにソレの詳細なんすけど」
「大体わかったから、それはいい」
思考の暇を確保するための解説も、不要と言われ。
「姐さん、今日も着物が決まってますね」
「美少女姿じゃなけりゃ張っ倒してるよ」
苦しい時間稼ぎの戯言も、ドスの利いた声音と微笑で踏み潰され。
「…………………………………………………………」
「……なんも浮かばないなら、なんも浮かばないと素直に言やいいだけだろうに」
結局のところ、最終的に。俺は『依頼』を持って来といて『依頼』を告げられないという失礼を、苦笑いするカグラさんに認めさせられた。
「いやー、あのー、こうー、面白いもんだとは思うんすけどー……」
「うん」
「面白いもんができるだろうなーとは、思うんすけどー……」
「うん」
「いろいろと、案を、考えれば、考えるほどー……」
「うん。────まあ、わかるさね」
とまあ、俺が何に困っているのかと言えば。
「アンタ、もう、なんでもできるもんね」
「………………まぁ、なんでもは、わからないですけど」
つまるところ、そういうことで。
アレやコレやと成長を遂げて、進化を重ねて、開拓を進めて、そして様々な武装に恵まれて。此処に至って俺は、ぶっちゃけ『できないこと』を探す方が難しくなっている状態。自惚れではなく客観的に見た事実として、だ。
速度は言わずもがな現状仮想世界最速、力に関してもメチャクチャ頑張れば【剣ノ女王】の『剣』に匹敵する一撃を出力可能。近距離中距離遠距離なんでもござれ、接触も間接も遠隔も各種様々な手札を以って基本あらゆる状況に対応可能。
それら全部、物理も魔法も両方いける。となれば────まあ、はい。
「ほぼ完成してるよね。アンタ」
「……まだまだ、深みは古参に追い付けてないと自認してるんだけども」
「それはそう。でもスタイルは完成してる」
と、いうことだ。正直なところ、ここから更に足していくってなると『強化』ではなく『蛇足』になる可能性が極めて高い。即ち……。
「現状でさえ、こころの奴から貰った短剣なんかも死蔵してる有様だし?」
「いやアレは違うんですあのアレです、アレはこうアレ完全に性能が『切り札』してるもんだから切り時が難しいというか、いざという時の正しく『切り札』として温存してるだけで別にそんな死蔵してるとかそんなわけでは────」
「常々思ってたんだけど、アンタ切り札を切るの下手だよね。トランプ弱そう」
「ふぉっうぐぅ……」
……重ねて重ねて、そういうわけだ。
これ以上は、ってか現在の武器プールでも完全にキャパオーバー。鍵樹産のカード武装なんか実は十数枚ほど懐に仕込んでいるものの、まともに使っているのは契鎧解放形態こと双腕用の極大剣くらい。これ以上はマジで本当に扱い切れん。
ゲームなのだからと次から次へ新しい武装を欲する気持ちが止むことはないのだが、実際問題スタートから職人様に恵まれ過ぎた結果。俺の手持ちは大体がハイエンド品ばかりであるからして、基本的に『更新』という概念が無いのだ。
新武装=『蓄積』となるのだから、そりゃパンクもするわというもの。
「まあ、コイツが面白そうってのは同意だ。アンタ好みでアンタに似合いの品に仕上がるってな確信も在る……から、どうする? 入れ替えも手だろう?」
「入れ……いや、う──────────…………ん」
ゆえに、カグラさんの提案も最善というか択ナシの消去法。もっと俺が【星架】ってか真に【曲芸師】足れば……と思うところもあって踏ん切りがつかない。
そんでもって、
「手斧とか、もう流石に引退でもいいんじゃないかい?」
「いやぁ、使ってるし……」
「使ってるってアンタ、例の馬鹿デカ剣やら契鎧の廻剣で幾らでも代用でき」
「【巨人の手斧】にはアレの取り回しの良さというか妙があってですね……!」
こう、なんだ。
すっかり愛着が湧いてしまっているから、どれもこれも別れ難いと、いうかで。
「【巨人の手斧】のどこに取り回しの良さが…………いや、まあ、うん。気に入ってくれてるのは、職人冥利に尽きるんだけどもさ。それはね」
「…………………………」
「……なんだかなぁ。────……こういうとこ可愛いよね、ハル君は」
「……はい? 後ろの方ちょっと聞こえなかっ」
「なんでもないさね」
とはいえ、いつまでも悩んではいられないし『依頼』として持ってきた以上は結局のところ俺も意志の方向だけは決めている。……ので、
「ぇー、っとー…………カグラさんや」
「うん?」
反応を見る限り、持って来た案を口にしても怒られないだろうと踏み……いざ。
「新規じゃなく、コレを使ってアレンジ……とか…………」
それはそのもの、無茶を頼んでみれば。
「……、………………、…………、………………………………」
もしかすると、先んじて読まれていたのかもしれない。カグラさんは驚くことはなく、けれども悩まし気に目を瞑り天井を仰いで数秒、十数秒。
────黙してから、
「………………『残響遺物』を、既存品に、途中から、組み込めと」
「……………………で、できたら……」
「出来上がってるクッキーの内側に、ケーキを仕込めみたいな、ことなんだけど」
「む、無理、なのかなぁ…………」
「…………………………………………………………────ッハ」
カグラさんは俺の無茶か、或いは常識が説く無理のどちらかを鼻で笑った後。
「全部が砕け散って、何も残らなくても、文句は聞かないからね」
紅の髪を勢いよく揺らし、負け戦に臨む者とは到底思えない顔で以って、卓上の〝石ころ〟を拾い上げると共に────颯爽と、椅子から立ち上がった。
マジ格好良い。一生ついてくっす姐さん。
主人公の功績の何割かはカグラさんに起因するという事実はあまりにも有名。
むしろ四柱デビューを唆したという点から百割カグラさんの功績。




