はるゆらゆら
「────そしたら、報酬は前払いだ」
「まあ、そんなん無しでも構わんのだけども」
斯くして一応は話が纏まった後。システムウィンドウを呼び出してインベントリを操作し始めたところへ、本心から「別に」と声を掛けるも当然のスルー。
貸し借りとか蛇蝎の如く嫌ってそうだもんなコイツ……と、しつこくはならないよう一言だけで留めておく。そうして『報酬』とやらを待っていると、
「そらよ」
「ぉう、っと」
ゆらは何か小さな物を異次元収納内から摘まみ出し、また当然の如く遠慮なしで放ってきた。間違いなく他人へ報酬を渡すに適した投擲速度ではない。
まあ、丁寧に手渡しとかされても「誰?」って思わんでもないけどさ。
さておき────
「………………なにこれ、石ころ?」
飛来物を受け止めた右手を開いてみれば、そこに在ったのは何の変哲もない……いや、見る角度によって不思議な極彩色の輝きを反射する、不思議な石ころ。
見た目は綺麗ってか、物珍しさがあり多少は目を引かれるっちゃ引かれる。けれども、幻想品の溢れる仮想世界においては地味に分類される外見だ。
「魔工師の端くれなんだろ。鑑てみろ」
「はぁ……では失礼して」
ゆえに一体なんなのか問うたのだが、またまた当然の如く懇切丁寧な解説などしてくれないらしい。はいはい知ってた知ってたと〝眼〟を切り替えつつ……。
ちょいと、石ころの表面をタップ。
『【外星ヨリ来ル物】────来訪者。』
「…………へ?」
タップ、タップ、そしてタップ。何度つつき回そうとも石ころは掌の上をコロコロ転がるだけで、それ以上の詳細な情報を何一つ寄越してこない。
ある程度の素材スペックなどを感覚的に読み取れるはずの魔工師の眼も、効果は発揮せず。つまるところ知識的にもシステム的にも『お手上げ』状態。
「え、あの、なんすかこれ。なにもわかんねぇんすけど」
然らば、再度ゆらへ視線を向ければ「ふん」と鼻で笑われた。
「なにもわかんねぇことが、わかったろ」
笑われて、コレである。いやそんな使い古された頓智みたいな返しが欲しかったわけではなく────と、いったところで遅れて気付く。
魔工師の眼を以ってして、用途が見出せない謎存在。
それこそ単なる石ころ一つ取っても、多少の使い道は必ず浮かぶ魔工師の頭にハテナだけを叩き付けてくる存在……ソレを俺は、よくよく知っているだろうと。
「『残響遺物』……?」
「あぁ。ずっと前の拾いもんだ」
果たして、解答には丸を頂戴。
俺の『Sakura=Memento』やソラの『Ele=Memento』、あるいはカナタの『Rain=Memento』等の魔力喚起具現化武装を造り出す上で必須の素材群。
試作一号と相成った【αtiomart -Sakura=Memento-】がド派手に『結果』を残したことで一躍、特級の貴重品として祭り上げられた〝不明素材〟の総称だ。
とはいえ、まともに作品として形にできる職人は極々少数。俺の専属様や西のトップに続こうと各職人プレイヤーが躍起になって研究しているらしいが、僅かな成功例を除いて現在は失敗と悲鳴を量産しているのが実情だそうで……。
さておき、
「マジか。いいの?」
上手く扱えない者が大多数とはいえ、もしかすれば『例の桜』のような代物を自分でも生み出せるかもしれない。そんな大願を夢見るまま貯め込んだルーナを大放出、過去にゴミと呼んで放ったものを名のある職人たちが買い集めている現状。
つまり、気安く億だのそれ以上だのといった値が付く代物なのだが、
「私は持ってたって使わねぇ。金にも別に困ってねぇ」
「まあ、そうっすよねぇ」
彼あるいは彼女は、他ならぬ古参序列持ち。この程度は渋るようなアレでもなく、まさしく放って寄越せるものに過ぎないのだろう。
然らば有り難く……つっても、どうしよっかな。またカグラさんに……いや、石ってんならニアちゃん行きか? 宝石って感じではないけども────
と、また掌でコロコロしながら思案をしていると。
「お前、魔力関連のセンス取ってんだろ」
飛んできたのは、なにやら断定の声が一つ。また急な話の転換に首を傾げてみせれば……ゆらは細めた銀眼で、俺を馬鹿にするように眺めていた。
なんだコイツ。やんのかコラ。
「取ったんなら操れよ。駄々洩れてんぞ、みっともねぇ」
「え、ぁ、なに、ぇ……」
なんて息巻くのを制するような、まさかの忠告ってか注意勧告。なんだなんの話だと戸惑う俺に、次いで【銀幕】様は面倒くさそうに髪を掻きながら、
「《顕幻》に《現界》それから《幻操》……んで《属醒》がLv.3辺りか? 魔法士でもねぇくせに、また物好きなビルド組みやがって」
「ちょっと待てや何故わかる怖い怖い」
「だから言ってんだろ、見えてんだよ」
それは果たして己が『眼』を示す仕草か、あるいは俺の『頭』を心配する仕草か。こめかみをトンと指でついた後、ゆらが掌を開くと────
「覚えんのは十八番だろ。さっさと覚えろよ【星架】」
「はぁ? なに────おぶっふ……!」
ズアッと、可視化するほど凝縮された魔力が渦を巻いた。
『竝枝界拓』によって開発されたセンス……ではない。これはソラも無意識的に放っているアレと同じ類、仮想世界の魔力概念に対する完全な才能によるものだ。
「センス取得で弁が開いたんだろうぜ。まだ任意受動視覚化の段階まで進めるような奴は極少数だろうから、恥晒しにはなってねぇが……時間の問題だ」
「おいウルトラ格好良いファンタジームーブ見せ付けながら風圧撒き散らすのヤメテくれるか……! なに言ってんのかサッパリわかんねぇし……!」
「雑魚に舐められたくなきゃ、自分のことくらい舵取りしとけって言ってんだよ」
「だから、結局なにしろって話!?」
と、前髪を好き放題に吹き散らす魔の風圧に目を細めながら、なんかイラついていると思しき【銀幕】へ意図および詳細を問う────
「……はぁ。とりあえずはセンス頼りで構わねぇから」
さすれば、ゆらは再び大きな溜息一つ。
「その洪水みてぇな魔力、さっさと引っ込めろ。目障りだ」
まだ俺には見えていない何かを見ながら、心底面倒臭そうに文句を言った。
強者ムーブとチョロムーブどっちも似合い過ぎるのズル過ぎるね。




