メイドとメイドとメイドとメイドと
さて。然らば……斯くなる上は、すべからくして────
「……、…………」
こうしよう、それ以外の選択肢など俺の頭に存在しなかった。
「っ、はぇ、ぁ、えっ……な、なんで正座……!」
その場にストン。
我ながら迷いも淀みもなく綺麗に膝を抜いて正しき座を成した俺を見て、加速度的に顔を朱に染めていくソラさんが至極当然の戸惑いを散らす。
────由緒正しきヴィクトリアン(午後)スタイル。黒地に重なる純白のエプロンドレスと共に流るるは、清楚の象徴ロングスカート。
手本のようなド真ん中ベーシックにて、面白みは皆無。
しかし裏を返して讃えるのであれば、それは覇道を往く王の貫禄。
そんなものを身に纏う天使が目の前に降臨したとなれば、対する人間が如何様な振る舞いをすべきかなど決まっている。即ち、矮小なる身を以って……。
「ありがたき幸せ……」
「拝っ!? なんで拝むんですかっ……‼︎」
平身低頭、地に伏して手を合わせるのみ。────という建前の元、
動揺困惑とち狂ったフリをしつつ、この光景を『見るな』という甚だ従い難い殺俺オーダーを有耶無耶にするまま極致眼福を記憶領域に焼き付け
「ふふ……とても冷静な立ち回り。中々お見事ですね」
まあ傍らのガチ自称メイド(?)に一瞬で思惑が看破されるなど想定通り。
然して重ねて諸悪の根源はコレこの人であらせられるからして、傍らでニッコニコな彼女が俺を咎めるつもりがないことなどわかっていハイ強制視界断絶。
「も、もうっ……! 全く……!」
事前モーションなど見えなかったし、ソラさんの声は遠いまま。
然らば犯人……俺の顔面にタオルか何かを投げ付けた後、その上からベッシベシ頭頂を叩き戒めている正当防衛執行官はニアちゃんに違いない。
わたわた慌てふためくまま顔を真っ赤にするだけのソラと違い、意外な機敏さを発揮し速攻で俺の視界から消えたからな。割かし見事な身のこなしだった。
そうしてバカが二兎を追わず、とりあえず目前に留まった相棒へ視線を集中させた結果の視界外攻撃成功の流れ。さぞ容易かったことだろう────
とまあ、欲望に素直に展開した冗談おふざけは一旦この辺りに。
「いや、なんでメイド服?」
「ぅ……」
「…………」
ベシベシベシベシを甘んじて受け入れつつタオル越し冷静に問うてみれば、返ってきたのは答えに詰まったような吐息が二人分。
いや別に答えがなくとも今しがた脳に刻み込んだ記憶だけで俺は幸せになれるが、普通に可笑しな状況であることは間違いない。そりゃ問うだろと……。
問うてみた。結果、
「『なんで』と言われましても、ただのメイドごっこですが」
「『ただのメイドごっこ』とは……???」
答えは傍ら。至極当然なにが可笑しいのかと言わんばかりの澄ました声音を以って、この場における筆頭メイド(?)から齎された。成程────
「そんなことしてませんっ……!!!」
────……成程わからんと首を傾げようとしたところ、即座に飛んできた否定の言葉 by ソラさん&加速するベシベシベシベシ by ニアちゃん。
成程、どうやら今のは自由メイドの与太らしい。
どちらを信じるべきかなど日頃の行いを理由として一考の余地さえない。然らば暫しの間、MVPメイドの楽しげな声音は聞き入れないものとして……と。
バサリ、目前を塞ぐ布が掃われる。斯くして盲目の最中でも感じ取れる気配で把握しちゃいたが、残念ながら既にメイド服姿の天使は視界内に非ず。
代わりに背後。ニアの気配と並んだソレからニュッと両手が伸ばされ、この場における要拘束対象と認定されてしまったらしき俺の首を固定した。
嗚呼、なんたる無体な仕打ちだろうか。
ノリで打ちひしがれる……フリをして、体勢を崩すまま後ろを振り向こうと画策するも腕四本に阻まれる懲りない馬鹿一匹を他所に────
「……────斎?」
「なんでしょう」
「私の分は?」
「勿論、ございますよ?」
なんとも平和。
とはいえ俺ばかり幸せになって大丈夫か? と、惚気たくなる会話が聞こえる。そしたらそんなもの、なにが『勿論』なのかはサッパリわからないが……。
「ぃてっ」
首を動かせぬまま不可避のサムズアップ。その瞬間、追撃のニアちゃんに割と容赦ナシな勢いでド突かれたのは言うまでもないことだ。
◇◆◇◆◇
────と、いうことで。
「なんだコレ」
「なんなんですかコレ……」
『いや、あたしが発端だけどさ……なぁにコレ』
「みんな可愛い」
「アイリスさんも、お似合いですよ? えぇ、それはもう、空恐ろしく……」
メイド×4+野郎一匹 in 四谷邸リビング。
胸中では天および『なぜか全員分のメイド服を用意していた』という意味合いで確たる諸悪の根源こと斎さんに感謝の念を捧げつつ、辛うじて真顔を整えた俺。
諦めの境地で疲れたように溜息を零しているソラ。
文字通り、実のところコレこの状況の発端だというニア。
当たり前のように装いを替え、四人目のメイドと化したアーシェ。
そして、自分で着せといて『アリシア・ホワイト with メイド服』の激光と称す他ない威力威光に眼を瞬かせている愉快なオリジン自称メイド。
なんと言うべきか、アレ。
俺は、正直に申し上げさせていただくと嬉しい状況なわけだが……。
「…………え? なんのために集まったんだっけ?」
端から端まで混沌が過ぎて、考えてたことが一つ残らず消し飛んだ。
そんなアホな状態に陥っているのは言わずもがな、俺だけじゃないだろう。そもそも本格的に俺たちの『会議』に加わるつもりがないはずの斎さんは置いとくとして、アーシェでさえ突如開催されたメイドパーティに思考を流されている模様。
ゆえに、誰か何とかしてくれという願いを込めて混乱を言葉にしてみたところ。
「…………………………────ハル」
口を開いたのは、正面から俺を見る相棒一人。
倒錯的な装い、いまだ羞恥の紅が抜けていない頬、場の例に漏れず可笑しな状況に浮ついた内心を表すように揺れる表情────けれども、
トータルそれら全部を束ねても、気を取られている場合じゃないと真剣に見返さざるを得ない光を湛えて……空色の瞳が、真っ直ぐに俺を見ている。
「メッセージでは、聞きました、けど……」
「うん」
ならば、こちらからも真っ直ぐに見返して声を返すのみ。輪を同じくして傍に控える三人は、とりあえず俺たち二人のやり取りを見守るつもりらしいから。
……とはいえ、いつもの如く。
────大丈夫、ですか。
────大丈夫だよ。
────本当に?
────本当に。
────無理してないですか?
────してないよ。
────ほ
────本当に。
特に声は要らなかったから、周りが聞き取れたかは知らないが。
斯くして、
「まあ、うん……────そしたらとりあえず、この場にいる皆様へ。医師曰く『心配無用おそらく多分きっと問題はないはずさ』ってなわけで……」
まだ少し不安そうではあるものの……相棒の顔に、安堵の色が見えたから。
「改めて、ご心配お掛けしました」
締め括りの謝意を以って三日ぶり、再会劇の一幕としておこう。
もうコイツにも着せよう。




