藍を呼ぶ緑、碧に映る
「「────これ……」」
際して、思わず呟いたのは俺とソラ。
空間に……見える世界に端から端まで亀裂が迸り、最後には砕けて割れる。その演出が色濃く記憶へ刻まれたのは、俺たち二人が最も新しいゆえに。
たとえ特別な『記憶』の才能がなくとも確かに気付けたであろう、わざとらしいまでの既視感。それによりすぐさま思い起こしたのは、あの日の宇宙。
「…………懐かしい景色」
「もう四年ぶりか。そんなんあったなぁ」
次いで、もう『ちょっとした昔』と言える程度の時を経た二人も至る。陣営は違えども、かのチュートリアルエリア【試しの隔界球域】に共通する最終演出……。
始まるために終わりを告げた、過去に輝く最初のフィナーレを。
────斯くして、
「…………………………で?」
見知った四柱の舞台ごと砕けて分かたれた空間。その奥から生じたのは、いつか見た星空の先と同じく全てを包み込むような白光の背景。
何十時間も暗い夜の中に在った俺たちの視界を、眩ませて然り……だというのに、不思議と目を灼かず優しく満ちる光が、繭の如く新たな空間を形作る。
過去の再現となるならば、次に生じるのは転移の光。
かつて俺たちを新天地こと【隔世の神創庭園】へと送ったように、俺たちへ新たな冒険を贈ったように、慣れ親しんだ青の光が迎えに来る────
数秒、十秒、数十秒。待てど暮らせど、訪れる気配はないけどな、と。
俺たちが成したらしい『偉業の戦果』とやらを見届けた果て。それでもなお理解が追い付いてくるこたないぞと目をやれば、視線を受け取った騎士が薄く笑む。
笑んで、
「そう焦らずに、お待ちください」
ここまで来たら、いっそ徹底に思えて清々しい。『焦らず』になどと焦らすように口遊みながら、ケンディ殿は彼方を……──元の星空が、砕けた先。
彼方の虚空へと、その碧眼を真っ直ぐに向けた。
「余韻に浸るというのは、なにもヒトだけの特権ではないのですから」
そして、そう迎え入れるかのように────天を仰ぎ寿いだ、刹那。
「「「「 」」」」
どこかの遥かな遠くから、四人の声が、聞こえた気がした。その瞬間。
「────ぶぇっ……!?」
「ッ、なんっ」
腕の中で、ニアが唐突な悲鳴(?)を上げる。勿論のこと咄嗟に安否確認を投げる俺、次いで一斉に向けられた視線に藍色が答える、
その暇は、沈黙を亘り来たソレによって封じられた。
『 』
『──────────────────ッッッ……!!!』
正しくは、ソレらによって。
天と地、無音と劈音、光輝と暗闇、壮麗と混沌────〝緑〟と〝黒〟の色。
まずは先んじて目を惹く、天。
白光の背景と千切れた星空の狭間に顕れ出でたのは、燦然と輝きを放つ〝緑〟の結晶体。見覚えのある形状と光の色、いつかノートPCの中に見たモノ。
「……、……『緑繋』の」
「ジェハテグリエ……」
ただただ、遥か遠く虚空の果て、ゆえに正確なサイズ感は測る術なく。けれども視覚、そして彼方から肌に伝わる圧倒的な存在感を、俺たちは知っている。
然らば、ソラと俺が連ねた呟きに異を唱える者はおらず。過去に邂逅した〝白〟より感じたものを重ね合わせた俺たち同様、アーシェは〝白〟と〝赤〟を、トラ吉も己が攻略舞台に立った〝赤〟を思い起こして結び付けたのだろう。
疑いなく心に降り落ちてきた確信────あれが、本物。過去に俺とソラとアーシェが謁見した真なる〝白〟の竜と同じ、幻想に秘められていた〝緑〟の正体。
次に、目を背けたくなるような地。
砕けた舞台床の更なる下。深淵の闇が満たしていた世界の底部と入り混じっていた白光……──その柔らかな光を喰い潰すようにして、滲み溢れた〝黒〟の淀み。
無限に在るかの如く湧き出した混沌は、空間に在る全ての空白を黒に染めてやるとばかり。絶えず体積を増し続けながら、絡み合う無数の『叫び』を放つ。
何の感情も、感じられない声で。
いっそ何故と、こちらの方こそ叫びたくなるような極致の不気味。色とりどり、それがヒトのモノであるならば喉が張り裂けて当然と思える絶叫でありながら、その音色には一切の思いも想いも、何一つとして籠められていない。
それを、強制的に、認知させる。そんな異様としか言い表せない『声』を地獄の底で撒き散らす────〝黒〟が渦巻く、闇一色の〝海〟より。
丸が一つ、泡のように浮き上がった。
「………………」
誰かの無言を、息を呑んだ音を、聞き取れる。即ち、それはその瞬間、感情在るモノの心を例外なく震え上がらせるような『声』がピタリと止んだということで。
渦を巻き蠢いていた〝海〟も、動きを失い静まり返ったということで。
ゆっくりと、浮き上がり続ける。
……つまるところ、俺たちの方へと向かってくる。その真黒な真球が徐々に視界の中で迫り巨大になってゆく光景を見つめる────俺たちの背より。
『 』
声なき声が。音を発していないのにも関わらず、それこそ『声』に比べれば真実『声音』と信じられるソレが、穏やかな〝緑〟の光と共に。
スケール極大の状況に呑まれる、あまりにも小さな者たちを、包んだ。
そして、
「……、…………た────『助ける』」
誰より先に口を開いたのは、藍色娘。
いや、今この時ばかりは、藍色のみならず。
「なん、ぇ、ニ……────」
腕の中を顧みれば、その瞳を藍ではなく碧に輝かせるまま、
「『助ける、助けて、一緒に、助ける』……」
誰かの言葉を、俺たちに伝えんとする西陣営ヴェストールの職人が。
「『大丈夫』…………────うん、わかった、大丈夫」
真っ直ぐに、俺を見て、
「ハル君」
「お、おう……?」
俺を呼んで、
「〝黒〟は敵だよ。どうしようもないくらい敵────倒そう、あたしたちで」
その碧眼を輝かせながら。
何かに心底から怒ったように、そう言った。
明日で締めます。気合い入れてけ。




