break through the firewall.
「……────稀人様方」
そして騎士は、ゆっくりと目を開き。
「感服でございます。よくぞ、ここまで」
此処へ来てから今に至るまでアレやコレやと意味深発言で振り回しつつも……なんだかんだ助け見守り続けてくれた、その瞳に俺たちを映す。
「…………『試練』は」
「全て、果たされました。然らば────」
そして彼は、アーシェの呟く問いに深く頷いて、
「〝四〟の葬送を以って、この〝世〟を隔てる膜は掃われ幕が上がる」
空を見上げた、その時。
「──────っ」
誰か、何事かを言った。
けれどもそんな小さな声音、搔き消されて然りの轟。途方もない大樹が捩じ切られる様の如き異様な音が世界を満たすと同時……聴覚の次は、視覚。
突如として〝界〟に奔った巨大な『罅』が、意識と驚倒を攫う。
「おい! どないなっとん────」
状況にボリュームを最適化したトラ吉の声が耳に届くも、変遷は止まらない。空間に刻まれた亀裂は異空間の星空だけに非ず、俺たちの足元へまで
「────ッ、ハル!」「任せろッ‼︎」
訪れる、その刹那。
併せて訪れたソレが、いつまでも満たされずにどこか空虚だったアバターの隙間を埋めた瞬間。アーシェの求めと俺の応えに一切のラグは存在しなかった。
────────《天歩》起動。
「っっっ……ふむぐゅ、……ッ!?」
「緊急回避だ、勘弁なっ……!」
瞬きの間に翔ける最速。抱き寄せ攫ったニアが遅ればせ腕の中で悲鳴を上げるものの、申し訳ないが言葉通り配慮の余地も択も無かった。
なにが起こっているのか理解不能、ならばとにかく逃げる他ないゆえ……。
「ソラ! アー──」
「平気ですっ!」
「大丈夫」
「なら良しッ」
「おいコラ俺も心配しろや‼︎」
中空。床部と天蓋に奔った無数の空間断裂から距離を取る位置にて、右腕から放つ〝影糸〟で繋いだパーティを丸ごと抱えての緊急安全確保。
無論、その中には未知に流される者だけではなく、
「ハッハ……! 流石の反応速度でございますなぁ!」
「笑ってる場合か! どうなってんだコレ‼︎」
既知を眺めて愉快に笑う、訳知り顔の騎士様も。
「ご安心を。宙ならば、落ち着いて説明する暇も在りましょう」
「それ回避しなかったらヤバかったってことだよな!? 事前に警告して!!? ────っと、ちょい待ち……! ソラ、頼む足場!」
「は、はいっ! えと、《剣の円環》っ」
斯くして、この期に及んでのボケンディに心からのツッコミを入れつつ。唐突な全快ってか超過諸々でブレそうになる糸の制御を危ぶみ援護要請。
「《この手に塔を》!」
俺と同じく〝力〟を────ようやっとのこと『スキル』を取り戻し、その無敵万能たる権能を再び身に宿した相棒が魔剣の巨塔を創り上げた。
用途は、そのもの足場。滞空する砂塵の巨剣、その腹へ糸で括った総員を下ろし俺自身も足を着けてから……ハイ再開、続きをやろうか。
「説明」
と、俺が問い質す前に無表情ご立腹のアーシェがケンディ殿へ挑み掛かった。然らば対する彼は、相も変わらず笑むままに……。
「いや失礼をば。恥ずかしながら心昂ぶりましてな、警告を申し上げるのが遅れたことは深く謝罪させていただきます。申し訳ございませぬ」
「……ん、」
「まあ、我が尊き稀人様であれば問題ナシと高を括ってもおりましたゆえ」
「反省してないでしょう貴方」
もういっそ煽ってんのかと思うような暢気な振る舞い。あの【剣ノ女王】の仏頂面(無表情)を前にして、ここまで能天気で対するのは流石の推定超絶年長者。
────とかなんとか、馬鹿やってる場合ではなく。
「ぁ、ぁの……ごめ、あの、動けない……のでぇ、もう暫く…………」
「いや気にしなくていいから大人しくしとけ」
「はいぃ……」
足場へ離した総員の例外、抱えたままのニアは俺が保護しときゃヨシとして。
「それぞれ、大丈夫か? 正直に言うが、俺はギリ」
「わ、私も、慎重に動けば、なんとか……!」
と、俺とソラもギリギリではあるがヨシとして、
「…………ダメ、少し掛かる」
「……同じく。今すぐ全開は無理やな」
アーシェとトラ吉、二人から返ってきたのは予想通りの答えだった。
なんの話か────他でもない、空間の変遷と共に返還された『スキル』のみならず、数多に限りなくアバターへ雪崩れ込んできた〝力〟についての話。
さて久方ぶりの思考操作……システムウィンドウ展開、現行ステータス照覧。
──────────────────
◇Status◇
Title:星架
Name:Haru
Lv:110+400
STR(筋力):300+700
AGI(敏捷):300+500
DEX(器用):0+500
VIT(頑強):0(+100)+500
MID(精神):350(+450)+1000
LUC(幸運):300+800
──────────────────
「おぅっふ…………」
各Lv.40相当からの倍加に飽き足らず、オマケが付いてキリよく百。
最後の【王帝】から与えられたのだろう器用と頑強の数値も含めれば、そのもの締めて総計Lv.400相当の極まってイカれた純粋ステータス強化効果。
考えるまでもなく、ギリギリでもなんでも辛うじて制御を失さずに動ける俺とソラが可笑しい側。今攻略へ挑む前に【星架】の権能諸々に対応するためステータス変動に慣れる特訓は重ねたものの、こんなものは想定の遥か上も甚だしい。
AGIとDEXが綺麗に釣り合い取れてて偉いねとか言ってる場合か。ここまで行き過ぎた力の上乗せなど、一周回ってデバフにすら成り得る荷の超過である。
如何にアーシェとトラ吉の両名が『序列持ち』切っての身体操作センス持ちといえど、ここまでの変調を瞬時に乗りこなせるようになるわけがない────
……そんな確信が、あるからこそ。
「心配無用」
「おん?」
「あ?」
「え……」
「…………」
平然と言い放ったケンディ殿へ、計四対の半眼が飛ぶのは道理も道理。重ねて、外に構ってる場合かとばかり腕の中で瞑想しているニアちゃんは置いといて……。
「なにが……────」
こんな馬鹿げた強化効果を今になって与えられたという事実が、自然これから始まる〝何か〟の内容を物語っている。であれば十全満足に動けないなど、紛うことなき致命に直結する大問題に他ならない。だというのに、
一体全体、なにが、無用だというのか。
そう、俺が問い切る前に。
「理解は後に追い付くでしょう。今は、ご覧あれ」
中空に浮かぶ剣塔の上。空を見上げ地を見下ろし、伝う遍くを覆わんと奔り続ける『罅』を視線で追い掛けながら、いつまで経っても言葉足らずの騎士は……、
それでいて、なんだかんだ、俺たちを確かに此処まで導いた彼が、言う。
「稀人様方の果たした……我々が永きに亘り希んだ、偉業の戦果を」
然して、その言葉を呼び水とするかの如く。最後にバキンと、なにか……後戻りのできない、なにかの進行を思わせる音が空間を震わせて。
星空と路で形作られる〝界〟が、跡形もなく砕け散った。
新年あけましておめでとうございます。
御帰還おめでとうございます、神様の言伝。




