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────とはいえ、だ。
情け容赦なき連戦展開には普通にビビらされたが、冷静に考えずともキャストのグレードに関しては間違いなくダウンしている第二幕。
【黒血の星狼】からの【神楔の王剣】。
見た目の圧で言えば甲乙つけがたい両者ではあるが……前者は仮想世界本番たる神創庭園に出没する幻のレイド級エネミー。対する後者は如何に隠しダンジョンの主とはいえ、六人編成の通常パーティ攻略を適正とする存在だ。
挑戦者側がアレコレやりたい放題やらかすことで育てたとなれば話は別だが、そうでもなければ基本的に『枠』から大きく外れることはない。
つまるところ、どちらが格上かといえば断然【黒血の星狼】であり、実のところ【神楔の王剣】はアルカディア基準では良心的なボスの範疇。
重ねて、どこぞの誰かが楽しんだ限界タイムアタックみたいな滅茶苦茶をしでかさない限りは。更に言うと、例えば学習ナシの素体状態なんかは────
「────兜割りィッ‼︎」
「────です……ッ‼︎」
ぶっちゃけた話、ステータスが低下していようがスキルが使えなかろうが、今の俺たちにとっては文字通り相手にならない過去の壁だ。
然して、戦闘所要時間四分強。
よくよく見知った挙動で以って『道』の上、至極窮屈であろうフィールドでも器用に暴れ回ってみせた巨躯の騎士鎧をド突き回した末のフィニッシュ。
締めは俺とソラの同時突貫。
遥か昔のように感じる日の再演。いまだ謎のまま放置している例の忖度など今や甚だ不要とばかり、宙に並ぶ紅刃の道を駆け抜けた先で共に振るった剣が届く。
斯くして、騎士の兜を星剣と砂剣が確かに捉え────
「っとに、遠くまで来たもんだなぁ」
「……一年前の私が今の私を見ても、自分のことだって信じられないと思います」
「それはアレかな。隣に立ってる男も含めて?」
「え、ぁ…………ふふ、ですね」
余韻、着地、雑談、そして爆散。いつかのような誰が画策したかも知れぬ幕引きではなく、今度こそは間違いないと胸を張れる己が実力。
剣閃二迅、束ねて一閃。真っ向から兜を打ち砕かれた【神楔の王剣】の巨躯が余すことなく燐光と解け、第二幕の終局を輝かしい青で盛大に彩った。
────と、いうことでね。
「……んで? これは自分ら、どっちのなんや?」
「どっちもの、という可能性もある」
最後の一撃を任された……というかノリで二人で掻っ攫った形だが、当然のこと力を合わせて騎士鎧を追い詰めた二人が討伐エフェクトの中を歩いてくる。
「パートナー枠で参加したソラの分は、ハルの分と合わせて一つで顕れたパターン。……だとして、それで二人の分が終わりなのか────」
「更に追加で二人分それぞれが顕れるかは、わからへんと」
「ん」
「かー……これで終わりやったら楽なんやけどなぁ…………」
とかなんとか。寄りつつ交わすは何の話かといえば、他ならぬ『試練』の話。
戦いながらも考えていた……わけではなく。唐突な脅威出現イベントが二件続くに当たって、特に考えずとも各々で自然と辿り着いた簡単な推測。
つまるところ、おそらく【聖女】様が用意した『試練』の内容は……──
「あのさ、いいか? 俺たちのよりも何よりも……」
「アイリスさんの分が、とても怖いんですけど……」
参加プレイヤー全員か、各陣営それぞれか、などなど。最後の最後が訪れるまで範囲は不明なれど、各人に応じた何かしら『縁』の再現。
冒険の記憶に刻まれている印象深い出会い……みたいなアレを映し出して、俺たちに改めてソレらを打ち果たさせる。まあ大体そんなところだろう。
────そんなところだろうと、予想がついてしまったもんだから。
次なる訪れは、すぐそこに。待ってはくれないらしい第三幕。
「…………………………………………そんなに、皆して見ないで」
【神楔の王剣】の残滓が消え去った舞台に、再三。虚空より〝何か〟が生まれ落ちる気配を鋭敏極まるアバターの感覚が察知する。
然らば、ソラと二人連ねて口にした通り────記憶の中に在る印象深い強敵を再現するらしい今回の『試練』において、満場一致。最も予想が利かず最も恐ろしいが過ぎる誰かさんへ、視線が集うのは至極当然のこと。
……嫌な、予感が、してる。
すごく、嫌な、予感が、してるんだ。
「…………あー……名前は、出さないけども。もしもの、場合は」
自惚れであってくれと、強く願っている。
思い過ごしで合ってくれと、殊更に願っている。
反面、いっそのことガチで〝アレ〟が来てしまったのであれば、もう本当マジどうしようもないよね一周回って清々しく終われるよねという諦観もある。
ゆえに、
「ぜッッッッッッッッッッ……てぇ、無理だと思うけど、頑張ろうな。ハハ」
「ハハちゃうねん」
「笑うしかないのは、そう」
「あ、はは……」
【神楔の王剣】と戦り合っている最中から、既に最悪の場合の覚悟は決めていた。それは俺だけではなく、他三人も同じだったのだろう。
諦めは忍ばせつつも……しかし無条件降伏は在り得ないとばかり。
やはり俺も他三人も手にする得物を握り直し、連戦の疲れで整え切ること叶わない呼吸を落ち着かせながら────待つこと、数秒。
さぁ、来るなら来いよ名前を言ってはいけない化物。
心の中、果たして最悪の終止符が顕れ出でるのか否か。願い半分の諦め半分を入り混ぜる俺たちが固唾を飲んで待ち受ける場に────
『────……』
ソレは、顕れた。
「えっ?」
「あ?」
「へっ?」
「…………………………」
ソレは、少なくとも、俺たちの恐れていた黒一色の化物ではなかった。
ソレは、むしろどちらかといえば白色基調の装い。黒色の部位もあるにはあるが、それは頭部ってか〝髪〟と〝眼〟の色くらいに慎ましく(?)留まっている。
そんで、ソレは────っていうか、あの、はい。
ソレってか…………『俺』は、
『────、』
まずアーシェを見て、次にソラを見て、そのまた次にトラ吉を見て……最後の最後。おそらくは今、綺麗に鏡写しになっているのだろう俺と同じ表情。
困惑に染めた顔で、ある意味で誰よりも親しいがゆえに誰よりも親しくない顔で俺を見つめた後────『俺』は、ふっと謎に自信ありげな笑みを浮かべて、
「なに笑てんねん張ッ倒すぞ」
嫌悪とは、また違う方向性の強烈な反感。
本人の腹から純粋無比なイラつきと共に、場違いなツッコミを引き出した。
曲芸師スマイルを本人視点へプレゼント。




