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────それはまあそうだろうなという東に続いて、四陣営の中で最も戦いから遠い位置付けに在る西までも戦闘を絡めた『試練』だった。
となれば、残る二つも同様の形ではと考えるのが自然な流れ。
西の【賢者】様ことフォルカナ氏も言っていた。武を測る云々と。即ち『試練』とは、様々な状況を実力を以って切り拓く力を求めるモノ。
ひとまず、そう思っておいて良いのでは……なんて暫定の認識統一は済ませて来たのだが、そうすると四陣営の中で最も予想が利かないのが他ならぬ北だった。
小細工ナシ純粋無比な技比べ。楽しみ遊ぶように手札の開示を待った末、満足げな笑顔と爆弾を残していった東の【勇者】様は『らしい』の一言で置いといて。
西も西で終わってみれば、陣営特色たる職人の見せ場を織り込んだギミック戦闘なら『そうなるだろうな』と至極納得のいくデザインではあった。
んで、まだ見ぬ南の【王帝】様が用意しているであろうモノも……なんとなく、いくつかは予想が利く。南陣営の特色然り、四塔に連なる〝王〟たる称号然り。
まあ、どれかは当たっているだろうな程度の予想は。
────しかしながら、だ。
「『宝探し』でもさせられる感じか……?」
「……戦い、ながらです?」
「なにかしらの〝的〟が沢山湧いて、宝……正解を探し当てるゲーム、とか」
「デカブツから掘り出すパターン……っちゅうのは、西のと雰囲気が被るわな」
休憩を挟み、いざ目前。
歩み近付き距離数メートル。ここまで来てなお、しっくりくる予測ってやつが浮かんでこないのが『自由』を掲げる〝北〟の原初たる【聖女】様。
正確に言えば、あらゆる可能性が浮かび過ぎて推理も何もあったもんじゃない。
冒険。そんな漠然かつ広過ぎる解釈範囲の概念を導と抱くのが、北陣営ノルタリア。それに加えて先の【賢者】様の元より『ミルフィエは────』云々という独り言を拾ってきてしまったものだから、余計のこと想像がつかない。
『────、──……、────、──、──…………』
この、ゆらゆらふらふら揺れ躍り続ける。声はないのに、ご機嫌な鼻歌が聞こえるような気がしてならない華奢な女性が、どんな舞台を用意しているのか。
斯くして、俺たちは例によってラインの前で一呼吸。
「…………………………聖女。聖女、なぁ……──サヤカと、ええ勝負やな」
「サヤカさん?」
「なに考えとんのか、ようわからん度」
「あぁー……」
数年来の付き合いで親しい者と、最近の濃いが過ぎる付き合いで急激に親しくなった者。聖女繋がりの知人に関して、若干失礼な会話を交わす男二人。
「ソラ、よろしく」
「はい。いくらでも、お任せをっ」
魔力解禁により、ようやくの出番。スキルが戻らないゆえ自在の念動操作は不可能なれど、創るだけならば幾らでも創れるようになった【剣製の円環】の魔剣を手渡し手渡され、全く微笑ましくはない戦力密度で微笑ましい光景を作る女子二人。
「────…………が、がんばれぇー……」
そして後方。推定ここ一番の頑張り所で完璧な働きを演じて見せ、もう今度こそ後は任せたとばかり遠方にて騎士様の背にガン隠れしているニア。
各々、息と意気が整ったところで────
「用意は」
「「「いつでも」」」
姫の音頭に則り、俺たちは線を踏み越えた。
然して、さぁ何が来る、何が起こると身構えて、
身構えて、
身構え……………………………………身構え続けて、三十秒。
「……?」
「あ?」
「え、と……」
何も、起こらない。〝彼女〟は相変わらず、ゆらゆらふらふらとドレスローブや髪を揺らして……揺蕩うように、踊り佇むだけ。
ゆえに、
「……………………なんやね」
アーシェ、俺、ソラと続いた疑問の声音に、トラ吉が至極お決まりのようなツッコミを入れようとした────その瞬間のことだった。
「「「「────……!」」」」
アーシェも、俺も、ソラも、トラ吉も。
全員が全員。例外なく、一斉に。
ある意味で懐かしさを覚えてしまうような感覚に総毛立つまま────緩みかけていた意識を、反射で蹴飛ばすようにしてトップギアへと跳ね上げたのは。
そして、クスリと無邪気な笑声が耳元をくすぐった……ような気がした刹那。
少女のように無垢でありながら、どこか妖艶な気配も滲ませた女性の姿が影も残さず忽然と消える。然して、水を打ったような静寂が訪れて……──
一拍。
「「「「────ッ」」」」
誰の合図も号令も待つことなく、俺たちは一人残らず全力で床を蹴り、命からがら必死の散開離脱を果たした。斯くして、元居た場所に訪れたのは、
『────────────…………』
物言わぬ、漆黒の姿。
しかしそれは、断じて先程まで揺れていた華奢な女性の姿に非ず。
物を言わぬだけで、声が無いわけではない。地獄の底から響く低い震動音のようなソレは、紛れもなく飢えに満ちた〝獣〟の唸り声。
光を吞むような〝黒〟ではなく、星月の夜光に照らされて輝く漆黒の毛並み。体高四メートルは下らない巨躯の最中、爛々と煌めくは血のように真赤な双眸。
────巨狼。そう称す他ない化物。知らない相手……では、ない。
不気味な静寂の中。大牙で、鋭爪で、空を咬み千切り止まった巨躯を四方から囲む俺たちと、四方に散った小さな獲物を値踏みするように睨め回す赤眼。
「………………………………おい」
ぽつり、声音を無音に乗せたのは、
「……そらまた、なんでやねん」
黒塗りの……──言い換えれば、漆黒の十文字槍を携える【大虎】で。
反応するように顔を向けた巨狼は、狼煙の如く天へと立ち上げた尾を……──半ばから三方へと枝分かれして、十文字にも見える尾を、ゆらり揺らすと。
『……──────────────ッッッ!!!!!』
遠吠え、なんて生易しいものではない。
地獄の窯、その蓋が開いた。そして奈落の業火が溢れ出し、聴き入る悉く一切を灼き砕く────そんな破滅的に耳を潰すかのような轟咆を撒き散らした。
あぁ、俺はコイツを知っている。
とはいっても、別に俺自身に出会った経験があるわけじゃない。更に言えば、コイツに出会ったことがあるのは、仮想世界でも一人だけ。
それを、なぜ知っているのか。簡単だ。
「随分と久しぶりやないか、わんころッ……‼︎」
仮想世界でも有数のプレイヤー、その武勇伝に綴られている名前だから。
────さぁ、それでは、予想外も予想外。
過去を通して、アルカディア史に刻まれている遭遇件数は僅か一件。伝説に聞き想像の中でしか出会うこと叶わない、文字通り幻の超稀少エネミー……──
『────────ッ!!!』
【黒血の星狼】と、待ったナシご挨拶の幕開けだ。
──────遥か過去の一幕──────
「仮に【血慧の死宝玉】とか注文しても、キミってば普通に持ってきそう」
「ラス……なに?」
「【黒血の星狼】っていう、幻のユニークモンスターからのドロップ品」
「……まず、幻とか言われてる時点でエンカウントの問題がですね」
「ちなみに、出現したのは一年くらい前の一回きりだったかな」
「現実的な〝当て〟を紹介してもらえます???」
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約800話越しの登場らしいですよ。覚えてた人は大したアルカディアンです。




