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────『原初の四塔』その二人目。西の【賢者】フォルカナが示す試練を完遂したことで生じたプレイヤー側の変調は、ザックリ四つに分けられる。
まず一つ、一人目の【勇者】に次いで再びのステータスボーナス付与。
筋力および耐久を授けてくれたアリスティアさんに対して、フォルカナ氏……君? まあ、フォルカナ氏が授けてくれたのは精神および敏捷。
寄りについての並びも両者そのまま。新たにアバターへ宿った力の多くは、西=魔工師=というイメージに違わず魔力に偏っていた。
と、続くは何故それを確かに把握できたかと言う話。
一つ目に絡めて、二つ目。ようやく俺たちのステータスバー……つまるところ、此処へ来てからというもの灰色表示のままだったHPおよびMPが復活した。
試練を二つクリアしたことによるものか、フォルカナ氏の試練をクリアしたことによるものかは不明。これに関してはケンディ殿もとい意味深発言乱発騎士様の意地悪と言うわけではなく、彼も把握していないとのことで仕方ない。
全てを知っているように見えて思えて、しかし全てを識るというわけではないらしい。それはそれで『世界観を読み解く上では貴重な情報』とかなんとか、アーシェが眉間を揉みながら考察保留中の思考にクリップしていた場面が印象深い。
とまあ我らが姫の心労ケアは追々の脳内予定に書き記しておくとして、これに関しては単純にドの付くデカい更新点に違いない。
いまだにスキルは使えない……まあ、ほぼ使えないため攻略利便性爆上がりまではいかない。いかないが、できることは格段に増えたと言っていい。
例えば、運用にMPを要する装備類の利用とか────ってなわけでPart.2。
三つ目、これは流石に間違いなく『西』の試練を突破した恩恵なのだろうが、いまだ封印が解かれていないスキルの中で唯一《魔工》だけが息を吹き返した。
それに際して『確実に意味があるはず』と、休憩と併せて小一時間ほど検証研究を行った結果。万能触媒ルーナを用いた耐久値回復作業を行おうとした場合、この場限定の特別仕様なのだろうルーナに代わってMPを要求されることが判明。
然らば、ゴッソリ……文字通り、一回でニアのMPが半減する程度の量を籠めてやれば、各人の装備を取り戻せるように相成ったわけだ。
メンテ作業程度ならば俺とて問題なく行える。つまり、二人で各々MPが回復する毎に複数装備を解放できる。即ち、言うまでもなく多大な戦力拡充が見込める。
大進歩。ようやく楽しくなってきたなってところで、思いもしなかった四つ目。
前回の試練で賜っていた【勇者】様からの加護が、倍加した。
文字通りだ。筋力偏重で俺たちの助けになっていたLv.10程度のステータスボーナスが、いきなりLv.20程度のステータスボーナスへと跳ね上がった。
そして【賢者】様から賜った加護も、また然り。
こちらは最初から同じくステータスポイント200ほどの上乗せが感じ取れており、即ち現状の俺たちにはLv.40相当のブーストがドカンと掛かったことになる。
此処までの道程で搔き集めてきた〝楔〟由来のステータスと併せて、もうLv.60程度までスキルを除いた力が積み上がってきたということだ。
喜ばしい反面、自然と滲む不安も無視できない。
これ例えば試練を突破するたびに倍々……は、流石にないとしても、プラス十ずつ各ボーナスが強化されていくと考えたら最終的には四十×四の百六十……。
レベル換算で160。
ステータスポイント換算で1600。
そんな余りあるという他ない〝力〟を与るに相応しいほど、ケンディ殿曰くの『五つ目の向かうべき場所』は激ヤバということですか……ってな具合に。
攻略進行に併せて、思うこと考えることは誇張なく無数。だがしかし、それでもプレイヤーは健気に必死に歩みを止めず進むしかないのであるからして────
【賢者】の試練完遂より、おおよそ十時間後。
此処まで……──青に染まる〝楔〟の足元まで、辿り着いた俺たちは、
「………………俺もう、追われる系のゲームは生涯を通して腹一杯、かな……」
「ん……」
「……はい」
「元から苦手だけど同じくでーす……」
「全部まるっと終わったとして、俺も暫くは夢に見そうやわ……」
こちらの強化に合わせて、当然とばかり。圧も難易度も殊更に跳ね上がった異次元四柱迷宮強制スクロール逃亡ゲームの第三ステージは死屍累々。
そうさ、プレイヤー側の変調は四つ。
そりゃもうあるとも、俺たちを追い回す〝黒〟連中のアップデートだって。
あっちの変調は、ザックリ分けて沢山。ドタバタ、ドロドロ、カサカサ、バサバサ、ズリズリ、ゴロゴロ、もうなんというか数も迫力もバリエーションも……。
詳しく思い返す気さえ、起きないほどに。
こちらの戦力が一気に向上したことは間違いないが、脅威の物量向上が更に上を行っていた。ゆえに俺たちにできたことは結局、全力必死の逃亡のみだ。
はてさて、あの濁流に最終的には抗えるようになったりもすんのかね……──なんて、背後。結界の壁を塗り潰していた〝黒〟の瞬時消滅を見送った後。
「…………さて、と?」
「三人目、ね」
五人、揃い顔を向けるは一方向。毎度のこと、辿り着いた折には静かに先を見つめる騎士様のソレに視線を重ねて────青い〝楔〟の向こう側。通路の果て。
プレイヤー特有の超視力を以って、遠くからでもハッキリと見える華奢な影。
ドレスのような、ローブのような、真黒に染まっていてもフワフワとした印象を与える装いを纏い、足元に届きそうなほど長い二つ結びを揺らす影。
どちらも近付くまでは微動だにしていなかった【勇者】とも【賢者】とも違う様子。落ち着きなく……というよりは、どことなくリズムを刻んでいるかのような。
気ままに歌でも歌っているかのように、ふらふらと揺れ躍る影を見やりながら、
「北の【聖女】ミルフィエ……────休憩が欲しい人、いるかしら」
とりあえず、俺たちは、
「「「「──────」」」」
「……ん、私も」
満場一致。アーシェの問いに対して一斉の挙手で応えた。
今に在れば私の推し首位だったかもしれねぇ御人。
ちなみにですがHPが灰色表示で機能しないまま攻撃を受けていた場合、ゲーム的ではなく現実的な被害処理が適応されて大変なことになっていたらしいです。
なにがどう大変なのかは自由に想像していただいて。




