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つまるところ、例えるのであれば鍵と錠。
無数に存在する〝武器〟の中からアタリを見つけ出した上で、その内に刻まれている往く宛てを読み解き、過つことなく〝竜〟へと届ければいい。
然らば、嚆矢となった片手斧が瓦礫の小指を消し飛ばしたように────
「これ、はぁー……っわかった羽! 翼! 右側の根元っ!」
短剣が、
「ハイ今度は顔! ほっぺ! 左の横っ面ぁ‼︎」
大鎚が、
「太腿! え、どれってぁゴメン左です左前脚の太腿ぉっ‼︎」
斧槍が、
「尻尾の付け根ぇッ!」
大剣が、
「右目ッ!」
円月輪が、
「左目ッ‼︎」
細剣が、
「────心臓! 胸のド真ん中ぁッ!!!」
ありとあらゆる武器による、斬が、打が、突が、その〝眼〟を輝かせながら文字通り戦場の空間を跳び回る【藍玉の妖精】の導きによって。
何度も、何度も、何度も何度も何度も、正答として積み重ねった果てに……。
開戦より、おおよそ一時間程度のことだろうか。巨躯を以って大暴れしていた〝竜〟の瓦礫を少しずつ少しずつ削ぎ取っていった結果。
「「「「「────……」」」」」
最後の最後。これ以上ないほど縮小した小さな小さな戦域を円になって囲みながら。俺たちは各々しゃがみ込み、最早なんの脅威も感じ取れないソレを────
『──』
部位を失っては継ぎ直し、失っては継ぎ直し……その偉躯威容を補修する度に縮んでいった末、今や掌サイズにまで墜ちた【賢者】様の『作品』を、
「……えい」
情け容赦なく玩具のような小鎚でアーシェが叩き潰す様を、静かに見届けた。
さすれば、閃光────と称すには最早、ささやか過ぎる光が瞬くと共に。我らが【剣ノ女王】の振り下ろした鈍器は跡形もなく砕け散り、
「…………………………終わっ……」
「りまし、た……?」
ニアが呟き、ソラが接ぐ。とうとう欠片も残さず消え去った瓦礫の〝竜〟の姿は、念のためと首を振り視線を飛ばしても目に留まることなく。
自然、頭に浮かぶ試練完遂の四文字。
ならば、俺たちが次に意識を向けるべきは……──と、
『────────……」
向かうまでもなく、あちらから赴いてくれた小さな影へ。
先に邂逅した【勇者】と同じく。姿を丸ごと呑み込んでいた〝黒〟が退去して、現れたのは新緑。どこまでも優しく、柔らかな若葉色の髪。
ほんのり長い前髪の奥から、こちらを見つめる瞳は二色。
右は葵に、左は蒼。容貌を露わにして殊更……〝彼〟は幼気と理知を共存させた不思議な雰囲気を色濃く纏い、ただ静かに、こちらを眺め────
「……─────。─────」
『……ありがとう。お見事です』
声を成さない口の動きに、遥か過去からの録音を乗せて。
素っ気ない語り口の言葉。そして『ようやく気が抜けた』とでも言うように、あどけない子供のような笑顔を披露すると────燐光となり、消えていった。
斯くして、そんな風にして後に取り残された俺たちは。
彼が……【賢者】フォルカナの残滓が消え去ると同時。まるで最初から存在しなかったかのように一瞬で、影も形も残さず武器群の消滅した舞台跡。
「……………………なんやねんな、もう。物語を知らへんっちゅうに」
これにて第二の試練は了とばかり、身体に生じた〝変調〟は一旦スルー。バタリと後ろへ大の字に倒れたトラ吉の言葉に心の中で同意しながら、そのまま暫く。
「それな……」
戸惑いが大部分を占める余韻に、浸っていた。
────とある遥か過去の情景────
「ったく、どこまで馬鹿でガキで馬鹿でアホなんだアイツは……」
「そういうレベナントも、僕から見れば相変わらずの語彙ですが」
「うっせぇフォルカナ。苦手がいなくなった途端スンとしやがって、このチビ助」
「煽り文句も成長しませんね。面白みがなくて聞くに堪えません」
「あーあーうるせぇヤメだヤメだ。お前との口喧嘩ほど不毛なこたないぜ」
「同感です。……──女性不得手は、お互い様でしょうに」
「あ??? 誰が────」
「あぁ、正しくはアリスティア不得手……あぁ、いえいえ。更に正しくは惚」
「黙れ。さもないと簀巻きにしてミルフィエの〝巣〟に放り込む」
「………………はぁ」
「なんだよ。珍しく飲みの誘いに乗ったと思ったら、やけに絡むじゃねぇか」
「……………………………………………………」
「どうした、なんだ、やめろ。お前の無言凝視は怖ぇんだよ」
「……………………………………………………………………」
「わかった。さっきの『黙れ』は撤回する。喋れ」
「……………………………………………………………………………………」
「ほら、楽しく飲んで喋ろうぜ親愛なる我が友よ────」
「────楔の儀。理論が完成しました」
「………………」
「ご存じでしょう。僕は『作品』に欠陥を許しません」
「…………あぁ、ご存じだとも。その病的完璧主義者が『完成した』ってんなら」
「……えぇ。不足も不測も在り得ません。いつでも、すぐにでも、遂げられます」
「………………」
「遂げる、べきです。────だからこそ」
「……言うなよ」
「もうすぐ終わることを知れたのだから、悔いを残すべきではないでしょう」
「言うなってんのに────」
「好きなら好きと、愛しているなら愛していると、言えるでしょう貴方なら」
「あぁああぁあー…………ったく、こんの生意気チビ助がよ……! まだ飲んでもねぇのに酔ってんのか言いたい放題に皆の皆まで言いやが────あ? おいっ」
「帰ります」
「はぁッ!? おま、飲むんじゃねぇのかよ言いたいことだけ言って────」
「『駄弁ろう』と言われたから頷いたまで。『飲もう』なんて誘われてませんよ」
「あぁ!? こん、てめ────あ、マジで帰る感じ? あ、ぇ、おーい……」
「…………ったく、賢しい顔しやがってムッツリ偏屈チビ助」
「……ヒトのことを言えた口かっての、ミルフィエ不得手がよ」
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過去も今も、そして未来も。
物語は恋と共に在る。




