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頭に響いた快声一つ。どうだ参ったか褒めろとばかり、どんだけ叫ぼうが鼓膜は痛まないとはいえ少々行き過ぎなデシベルが頭の中で迸った瞬間。
立て続けに二、三と言葉を交わして────
「よし来いッ!」
俺は容赦なく、正しく褒められるべき我らが職人様を呼んだ。
刹那、
「「────っ」」
至近、すぐ傍、手の届く距離。
青ならぬ藍に輝く転移光と共に、瞬時目前へ現れたニアと俺の目線が正面衝突。然して、その両手に抱えられた片手斧を迷いなく掴み受け取りながら、
「右後ろ脚の、えっとッ、小指ぃッ‼︎」
更に受け取った『解答』も併せて、手放さず抱えて地を蹴飛ばす。目標変更、目指すべきは当てずっぽうの脳天などではなく────
右後ろ脚、その小指。
然らば、立ち塞がるは障害。確かに抗えはするだけで、断じて舐めて掛かれるわけではない相手。攻撃行動に掠れば推定即死の怪物目掛けた正面からの突撃敢行。
当然のこと、迎え撃つように振るわれた先とは逆側の前脚を、
「ハイっせぇ────ッ!」
「「────ッの‼︎」」
先とは面子を一人代えた、三人四閃が弾き飛ばす。
斯くして、再び崩れる体勢。節々を構成する瓦礫を軋ませ鳴らしながら、たたらを踏んで揺れる〝竜〟の腹下を駆け抜け疾走、
「さぁ、流石に箪笥の角よか……ッ!」
目標眼前、振り被るは届けられた『作品』が一つ。
「痛がってくれよ、なぁ‼︎」
打つは手斧、打たれるは瓦礫竜。しっかりと形作られていた『小指』に向かって、狙い違わずニアから預かった刃を叩き付けた────その瞬間。
これまでに見た仄かな光とは明確に異なる、激しい閃光。
夜空の闇を劈くようなライトエフェクトが迸ると共に……『作品』と『作品』が、まるで共鳴したかのように音高く、粉々に砕け散った。
戦果確認。さすれば、
「ッ!? うぉちょ、待て待て待て!!?」
小指どころか右後ろ脚の先が丸々消し飛んだ〝竜〟が堪らず大きくバランスを崩し、轟風を巻き込み落下してきた巨体の下から咄嗟の全速離脱。
「ッッッぶねぇ……‼︎」
辛くも間に合い、余韻に浸っている内にペシャンコという戦犯案件は無事回避。が、転倒した巨体が通路を満たし向こう側とは分断されてしまった。
ので、
「────ニア」
呼ぶ。すると刹那の内に、
「だ、だいじょ────!?」
「よく見つけた。マジ偉い。ニアちゃん天才MVP」
再びの転移。
瞬きより早く隣へ現れた藍色頭を、感情のままワシャワシャ撫でくり回す。「おわぁッ」と乙女ならざる悲鳴が上がったが、不満は見えないのでヨシとしよう。
『語手武装』もとい『語手想具』────【序説:光差す藍の恋導】。武装ならざる語り部の器として容を成した、ニアの腕輪が備える権能は一つだけ。
無制限に、俺との距離を、ゼロにする。ただそれだけ。
読み上げるとなれば羞恥が過ぎる基本能力は、大別して二つ。
限定対象者……つまり俺の傍への無制限転移権をアクティベートする『逢瀬』および、俺との無制限念話権をアクティベートする『藍声』だ。
簡単な話、ニアが俺を想っ────特別扱いしてくれる限り、俺が特別扱いしてほしいと願う限り、かの腕輪は一切の代償や制限なく俺たち二人の距離を失くす。
ゆえに、これが本来の、真に望む形の使い方というわけではないが……。
「ぁ、あの、勢いで、飛んできちゃいました、けどもっ……!」
「大丈夫。逃げるだけならギリなんとかなるから、絶対に守る」
「そ、そです、か……安心、だぁ」
ヒト一人が自在に空間を跳び回れるという強みは、逢瀬だけではなく戦闘時にでも何時にでも、溢れるほどの有効活用性が秘められている。
今回も、また然りだ。
「で。そういうことで、いいんだよな?」
「ご、ご覧の通り……!」
そちらも「だろうな」と予想していた通り。欠けた一足へ他所の身体を回すことで補い、再び立ち上がりつつある〝竜〟を見やりながら。
今しがたの『成果』がニアの見つけた『解答』で間違いないのかと問えば、間近で地響きを鳴らす巨躯の迫力にビビり散らしながらも首肯一つ。
然らば、やはり荒事に巻き込むのは申し訳ないと思いつつも────
「ニア」
「は、はい……」
もう一度、頭の上から感謝を降らせながら。
「予定通り、お前が主役だ。────さ、勝たせてくれよ【藍玉の妖精】殿」
前を見たまま笑みを浮かべれば……ペイっと、手を掃われる。
「プレッシャーやめて言ってるよね……!? 頑張るけどもぉっ……‼︎」
斯くして、そんな。
へにょへにょオロオロやけっぱちの声音が、徹底攻勢への狼煙となった。
【序説:光差す藍の恋導】語手想具:腕輪
・基本能力:『逢瀬』
使用者が〝最も想いを寄せている〟プレイヤーを対象者として自動設定。
相互の承認が在る限り至近への無制限転移権がアクティベートされる。
:『藍声』
使用者が〝最も想いを寄せている〟プレイヤーを対象者として自動設定。
相互の承認が在る限り無制限の遠隔思考発声伝達権がアクティベートされる。
・解放能力:《?????》
使用者が〝最も想いを寄せている〟プレイヤーを対象者として自動設定。
相互の承認を以って、至近へ通じる転移門を開く。
転移門は使用者のみならず、日に最大五名までの同行者が利用できる。
といった其ノ三でしたとさ。




