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────鍛冶師は鉄を読む、とかなんとか。
古今東西『職人』という人種が自ら扱う素材の全を知り声を聞くことを極致とするのであれば、仮想世界の魔工師が読むモノは〝魔力〟に他ならない。
ゲームシステムに則りMPと称される不思議な力……正しくは、不思議な力を操るための代価となる全ての根源。ほぼ例外なくアルカディアに存在する遍く者にも物にもモノにも宿っているソレを視ることで、熟練の魔工師は識ることができる。
そのモノが、如何なる時を経て在るのか。
そのモノが、如何なる道を辿り在るのか。
簡単に言えば、一定以上の才能を踏まえて一定以上の経験を積んだ魔工師は、モノに宿る『履歴』を大なり小なり読み取れるようになる。
魔工作業と同じ、各人に差異のある非常に曖昧だが反して確かな第六感の如く。極一部の怪物のように『色』を判別したりはできずとも、誰しもが、だ。
そういう意味で、ニアこと【藍玉の妖精】には才能が有って才能が無い。
「ぅえっ、と……! あ、あの! ちょっと今から集中しますけれどもっ! 助力できない云々って、万が一の流れ弾とかに関しては────」
「ご安心を。武を持たぬ御仁の守護は、この場に在って我らが与る役目でございます。手を出すことはできませぬが、身を挺すことは」
「大丈夫ってことねハイじゃあ任せますよホントお願いねっ!!!」
その目は尊敬する先達たちに及ばず、数年の経験を積んだ今も魔力の色を見ることはできない。……──しかしながら、けれども、やはり。
「《月をも見通す────」
特別至極、名の体現。その〝眼〟は誰よりも、
「────夜の女王》……!」
者を、物を、遍くモノを。
見通し視通し見透かすことに、どこまでもどこまでも長けているのだ。
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思ったより大分余裕だが、思ったより至極どうしようもねぇ。
開戦より数分が経って、疾く戦線復帰を果たした俺が思うことはシンプルそれだけ。予想外と予想通りが半々、けれども結果を言えば結局のところ『どうにもならねぇぞコレ』であるゆえに、結論として行き着く先はネガティブだ。
どういうことかと言えば、
「いっせぇ────ッ‼︎」
機能は失っているものの、何より手に馴染んでいるという一点を以って起用。序列称号の権能〝顎〟を纏わせることにより、力を籠めた器と成している黒槍十文字を右。更に【賢者】から差し向けられた槍を拾い左に携えての二槍流。
そんな初見かつ器用な構えで以って並ぶ【大虎】と共に、
「「────ッの‼︎」」
俺とソラ。相棒同士の呼吸を重ねた直剣が二振り。併せ束ねて三人四閃、鈍重かつ豪速で迫った〝竜〟の前脚を強引な横殴りで弾き除ける。
いつものやつだ。動きは遅いが、デカいから速い。
しかし如何に瓦礫の山、そりゃもう硬くて重くて巨大だろうと、ぶっちゃけた話の経験談を言わせてもらえば同質量の生き物に比べれば何てことはない。
皮もなければ筋も肉も骨もない。ならばそれは超常の生命が生み出す『運動』に遠く及ばない単純な『駆動』に過ぎず、宿っている威力は無機質の一言。
圧し掛かってはくるものの、威力に伸びはなく挙動に揺れや不確定要素がない。であればこそ、足りない力を重ねて補えば弾くこともできるし────
「アーシェッ‼︎」
「アイリスさん!」
「ぶちかませぇッ‼︎」
「ん────!」
無理矢理でも抉じ開けた隙に、反撃を差し込む余地さえある。
……だが、つまるところ、どういうことかと言えば。
「ッ、ここも、駄目……!」
と、そういうこと。
足を弾かれ着地点を揺さぶられた瓦礫の〝竜〟が大勢を崩したところへ、完璧なタイミングでゼロ距離に踏み込んだアーシェが突き込むは長剣の鋒。
────が、ダメ。
狙ったのは、首元の継ぎ目。普段と比べれば見る影もなく、しかし振るうステータスの乏しさを思えば感嘆しか湧かない鋭さを以って迸った剣鋒は……──
またしても、呆気なく砕け散る。
瓦礫に剣で斬りかかるとか────なんて、当たり前の話では勿論ない。
相対すれば判る。握れば判る。あの程度で折れる剣ではないと、あの程度で剣を折れる硬度の瓦礫ではないと……経験を以って雰囲気と勘が、
間違いないと告げている、そのはずなのだ。
「っ、……手詰まり」
折れた剣を捨てたアーシェが勢い転じて〝竜〟の身体を蹴り後退。前脚との相殺直後に同じく下がっていた俺たちに並び、呟きを零す。
ずっとこれ。もう幾度も反撃を届かせてはいるものの、通らない。
毎度毎度、ヒットと同時に〝竜〟の身体が仄かな光を放った瞬間、こちらが拾った【賢者】の『作品』だけが一発で壊されてしまう。
俺たちの手にも、一瞬前に振るった武器は既にない。
一撃の判定だけは許すとばかり、脚一本ぶん殴って攻撃を逸らす程度の役目を果たしてくれるのは幸いだが……アーシェの零した言葉通りだ。
抗えはするが、先に進めない。攻略のピースが揃っていない────だから俺たちは、各々で苦笑いを浮かべながら。何度でも、性懲りもなく。
「……次、脳天いってみるか?」
「せやな。んじゃ自分の出番やで」
「なんでだよアーシェでも届くだろ」
「飛ぶのはハルの役目」
「今の俺は地上棲なんだけどなぁ」
「普段は空中棲の自覚、あるんですね……」
見上げるばかりの壁を前にして、手当たり次第に『武器』を取る。
当然だ。わけがわからなくとも意味不明だろうとも推理が届かなくとも問題ない、諦めるなんて択は早過ぎるし端から頭に置いていない。
何故か、そんなもの言わずもがな────
『 見 つ け た ぁ ッ ! ! ! 』
開戦より、約数分。
既に走らせていた大本命のルートが開通するのを、誰も疑っていなかったから。
其ノ弐。




