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震動、放圧、足元を染める巨躯の影。
こちらのステータスは甚だ不完全、数値にして精々Lv.20を跨ぐか否かといったところ。加えてHPもMPも表記が灰に沈んだまま、相変わらずスキルも使えない。
継続して、惨憺たる弱体化状態。
そんな身で舞台に在って、目算パッと見Lv.50……──は、優に超えるであろう迫力および情報圧を、巨大な質量と巨大な気配を以って伝えてくる〝竜〟を前に。
「「「「────」」」」
傍から見れば笑われざるを得ない、そして自分たち自身でも笑わざるを得ない。比率ちっぽけが過ぎる俺たちは、視線も言葉も要さずして一斉に動いた。
四者四様、俺も、ソラも、アーシェも、トラ吉も、一歩を踏み出して『武器』を掴むのは同時。そして、その内から真っ直ぐに前へ駆け出す役目は────
一番槍ではなく、鉄砲玉が頂戴。
アバターに湛えるは僅かレベル換算二十程度の能力値。しかしソレは長らく息をしていない魔力および基本能動的に作用しない幸運に関する割り当てを無視した場合の換算であって、つまるところ確かに実感できる力がLv.20分程度という話。
即ち、件の【勇者】様の加護あって筋力先行。更には元のステータスの構成を参照して自動で割り振りが決められているのか、俺の残りは全て敏捷へ全ツッパ。
然らば、ステータスポイント200程度が残さず余さず、わかりやすい身体能力に振り切られた俺の現状スペックは……さあ、この通り。
「すぉ────ら゛アぃッ‼︎」
適当に拾った大槍を、大股三歩程度の助走を以って。オリンピックぶっちぎりの勢いで豪速投擲を行える程度までには、回復しているということだ。
外転出力『廻』の切り売り。
寝ている最中もスキルならざる特異能力《我が名は〝赤〟を纏う王》の追加思考を運用、もう一人の俺に絶えず収斂を続けさせていた貯金を崩すに躊躇なく。
勿体ぶらず容赦ナシ、籠めた威力を全力で振るう手から送り出して……──瓦礫の〝竜〟から踵を返し、結果を見届けることなく真後ろへ全速前進。
さすれば、噛み合う。
地を蹴り宙に遊んでなおもスキル無しに踏み締めた俺の脚と、徐々に力を取り戻しつつある【大虎】の権能、四本腕の如き顎を束ねた、発射台が。
打ち合わせなんて今更いらねぇ。
咄嗟の危地で咄嗟に浮かべる思考程度、互いに読み取れる程度の練度はある。
遠慮なんていらねぇ。
こちとら、如何に常の力その大半が失われていようとも────
「行って────」
「────来いやぁッ‼︎」
たとえば時速数百キロ程度の人間砲弾遂行くらい、俺に限って無理はない。
足の裏から直接に感じ取れる推定膂力、そして今や勝手知ったる友人の呼吸。両者を読み取り跳躍を重ねれば、乗算された力が俺の視界に映る景色を線にした。
行く手の風景は『記憶』済み。理想ルートは記憶風景に敷設済み。そして即時ほぼ反射の実際軌道算出、誤差は大体のとこ四十センチ強程度……──
「ッ余裕‼︎」
ズレた着地点に生えている障害物を行儀悪く蹴飛ばしながら着地遂行。
「────んぇッ……!?」
すると同時、すぐ後ろから聞こえた驚倒半分悲鳴半分の声音を一旦スルーして、
「っ、だよな、知ってた……‼︎」
ロケット配達にて瞬時に目前。これまでは拒むことなく俺たちを受け入れてくれた〝楔〟の結界に阻まれた手を引き戻し、確認作業を終えたなら再び踵を返す。
退路が断たれている。即ち、こちらの意思による撤退は推定ほぼ確で不能。
誠に結構だ。とりあえずのところ今すぐに欲しい情報は手に入った────然らば、その僅かな情報からヒントを絞り尽くし思考を回して抗うのみ。
それが俺たち、それがアルカディアのプレイヤーだ。
「ニアッ!」
「はっ、ばッ、ふぁい!!!」
先程は頭上、今度は横。再び擦れ違う刹那、名を呼ぶは目まぐるしい状況の中に在って致し方ない戸惑いと硬直に呑まれている職人様。
本当に仕方のないこと。
ほんの数十メートルの距離に馬鹿げた化物が突如として顕現したのだ、戦いの心構えを持たない者に『ビビるな』とか、それこそ馬鹿げた注文をしたりはしない。
けれども、期待する範囲では。
「頼んだぞッ‼︎」
「っ……!」
今を攻略する仲間として、役割を渡すことに遠慮も容赦も必要ない────わかっているとも、甘やかしたら怒られるシチュエーションくらいは。
だから、
『────頑張るッ!!!』
「っは……!」
一時撤退可否の確認作業、および開戦に際した激と指示の伝達。戦いの中に在っては、相棒とのソレも斯くやといった精度で通る以心伝心。
アーシェからの指揮を完全遂行して返事も待たずに駆け行く俺の耳に、紡ぎ上げた『絆』を通して距離および周囲音を無視した元気な声が届いた。
頼もしい限り、喜ばしい限り……──さて、それでは。
「うへ……どうなる、ことやら、ッと!」
いざ向かうとしよう、数秒足らずで辿り着くであろう数十メートル先。早速のこと……目を背けたくなるような大暴れを始めている、巨竜の元へ。
其ノ壱。




