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「────戻ってない?」
おおよそ、二時間程度。
各々で回復に努めた大休憩の終わり。即ち攻略の再開に際してアーシェが共有した確定情報を聞かされた直後、俺は思わず素っ頓狂な声を上げた。
然して、どういうこっちゃねんと疑問を浮かべているのは俺だけに非ず。
騎士様への尋問もとい質問コーナーを傍で聞いていたソラを除き残る二人。知る由もなかったトラ吉とニアも「え?」という顔で首を捻っている。
なんの話かと言えば、
「ん、彼が言うには。私たちのステータスを取り戻せるのは、あくまでも〝楔〟に触れたとき限定みたい。……彼が、言うには、ね。だから────」
「アリスティアさんを倒した時にグワッと戻って……──入ってきたのは、俺たちのステータスとは別口の……なに? ボーナスポイント、的な?」
「えぇ。……彼が、言うには、ね」
「ぇなに喧嘩でもしました?」
とまあ、そんなこんなの話。
先の戦いが幕を引くと同時、俺たちのアバターに齎された力。あれは別に失われていたステータスが戻って来たわけではなく、例の影人形こと【勇者】アリスティアの試練を突破した報酬のようなものだったらしく。
「あー、まあ、なんや中途半端な気はしとったわ。修羅場ぁ越えて取り戻したにしては微妙な塩梅の上り幅やったからな……──あぁ、そか、成程」
と、相槌なのか独り言なのかな言葉を並べる内。自己完結ってか自己納得したらしいトラ吉が、開いて閉じてと繰り返しながら己の手を見つめる。
「────返還やのうて土産だったか。そら、ありがたいやんけ」
そんな呟きを聞く内に、俺の頭も次いで推測に至る。
「推定Lv.50……五等分で分けてくれたのか。道理で、筋力に寄ってたわけだな」
レベルにして丁度10。ステータスポイントに換算すれば丁度100。スカスカになっていたアバターの内へ新たに積まれた能力値、その由来に。
その身を光と散らした過去の英雄様より、俺たちへの置き土産だと────
……なんて、休憩前にケンディ殿からアレコレ言われて納得しているため、感傷に浸るまではいかない。勿論、思うところは皆無ではないが、
「……ハル?」
「ん? あぁ、心配ないぞ」
俺が背負うべきものではないと、理解している。────結果として彼女に引導を渡したのは俺だが、彼女に〝死〟を与えたのは俺ではないとのことだから。
改めて一応、気遣ってくれたのだろう。袖を引き名前を呼んだ相棒に言葉通りの笑みを返す。それなりに感情移入はしているが、そこまで溺れてはいないと。
可愛い相棒から我らが旗頭へと視線を戻せば、ガーネットの瞳と目が合った。やはり『大丈夫だぞ』と頷いて見せれば、アーシェも小さく頷き返し、
「────結論から。この人、物語は語ってくれるけど設定は語ってくれない」
と、騎士様を遠慮無しに視線で刺しつつズバッと一言。
「ぇなに、やっぱ喧嘩でもしました?」
「ぇなに、普通にムカムカじゃん姫」
「めずらしなぁ。これは俺でも読めるで表情」
「あ、はは……」
斯くして、そのあまりにわかりやすい様を受けて俺たちが返せるのは戸惑い或いは苦笑が少々。半眼を向けられたケンディ殿は胸を張って穏やかに笑んでいるが、向けている方であるアーシェに関しては実に珍しい顔を晒している。
傍で二人の会話に聞き入っていたゆえ事情を知っているソラさんも、あははに留まりフォローなし。ということで、なんとなく察せられるが……。
「…………現状、必要だと思える情報は揃えた。けれど、残りは全部、後回し。結局は新しい謎と疑問が山積みになっただけだったから……少しずつ、考えておく」
「お、おう……おつかれ…………」
いつぞやの『白座』攻略戦直後……とは事情もアーシェの表情も全く異なるが、聞く側の俺たちにとっては似たようなこと。
お姫様の考察解説拝聴会は、全てを終えた後お楽しみにってなことで。
「ここからは、寄り道なし」
瓦礫の山を抱える広場より、長く長く伸びた道の先。
結界の光幕を以って空間を隔てる白い〝楔〟の向こう側。いつまでも暗く口を開け続ける迷路入口を、続いた俺たちの視線を先導する姫が射貫く。
「────情報を共有する。攻略、再開よ」
◇◆◇◆◇
この空間────ケンディ殿が言う〝界〟にて俺たちに求められるのは、東西南北四方に座す『原初の四塔』が提示する試練を制覇して回ること。
東は【勇者】アリスティア。
西は【賢者】フォルカナ。
南は【王帝】レベナント。
北は【聖女】ミルフィエ。
プレイヤーが属する現在の四陣営……の、礎となった遥か神代の四ヶ国。
イスティア、ヴェストール、ソートアルム、ノルタリアを築いた仮想世界の現住人、その原初の長たちの残滓に謁見。彼ら彼女らに〝今〟の輝きを示す。
ケンディ殿曰く……もとい、ケンディ殿の語る『物語』を翻訳したアーシェ曰く、おそらくはそこまでが山場である可能性が高い。
まあ、大体は予想通りの運びとなるだろう。
四箇所のギミックを解いて回り、道を拓く。そしてその先に在る『俺たちが目指すべき場所』最後の五つ目で、待ち受けているのがフィナーレ。
ゲーム的お約束だけではなく、アルカディア的お約束も併せて考えれば想像は容易い────なんやかんやのガチバトル案件が発生するものと思われる、ってな。
得てして、そういった構成の攻略案件はクライマックスの状況を整えるまでが辛いもの。最後の最後は気分爽快お祭り騒ぎってのが王道だ。
そして俺たちの知るアルカディアは、そういった王道テンプレが大の好物。
チラホラどころではなく意外仰天を叩き付けながらも、お約束どころに限っては基本的に外さない。そんな確たる信頼があるからこそ……────
そこまでの道程が激ヤバなんだろうなって予感も、外れてくれないわけで。
「 こ れ も 言 っ て た か ソ イ ツ ぅ ッ ! ! ? 」
「 言 っ て た け ど 思 っ て た の と 違 う …… ッ !」
「 ハ ッ ハ ッ ハ ! ! ! ! ! 」
「 な に わ ろ て ん ね ん 意 味 深 ア ホ ン ダ ラ 騎 士 ぃ ッ ! ! ! 」
長く果てない大迷路に、響き渡るは賑やかな怒声、苦声、快声、そして怒声。そしてそして、巨大な地響き&駆ける足音が正しく無数。
異界に遺された東の城跡に別れを告げ、結界を潜り迷路区へと舞い戻り早数分。
俺たちは例によって虚空より現われ出でた、単眼の巨大黒塊との限界デスレースを再演し始めた……──までは、もう慣れっこ許せる範囲だったのだが。
許容範囲外。追加の招かれざる客(大勢)が、大問題だった。
『『『『『────────────……ッッッ!!!!!』』』』』
「なんだよアレッ!? こッッッッッわ!!!」
「知らんわボケ‼︎ ヒトちゃうんけッ!?」
「なわけあるかよッ! どいつもこいつもパーツ過多だっつのバーカ!!!」
形容するのであれば、冒涜が過ぎる泥人形。
たとえば、頭が無数。たとえば、腕が無数。たとえば、脚が無数。どこもかしこも多かったり少なかったりで造形の整合性が取れていない、しかしハッキリと各箇所それぞれが『ヒト』の形であると読み取れてしまう不気味の極致に在る黒の塊。
それが、重ねて、無数。
「おいケンディ殿てめぇッ!!! どんどん増えてるぞ大丈夫かコレぇッ!?」
「問題ないでしょうッ! 皆 様 方 で あ れ ば ぁ ッ ! ! ! 」
「 も う 根 拠 が 感 じ ら れ ね ぇ ん だ よ な ぁ ッ ! ! ! 」
駆け抜ける俺たちに呼応するかのように、迷路の壁面より次々と。生まれ落ちては床へと叩き付けられ、すぐさま起き上がり追走を始める異形の群れ。
いや、追ってくるだけならば逃亡一択。最後尾の巨躯オンリーだった初期状態と変わらずギリギリ振り切れる速度なので問題ないのだが、
「っ! ハ──」
「────上やハゲぇッ‼︎」
「ハゲじゃねぇつってんだろサンキュー虎ハゲ!!!」
「誰が虎ハゲやね────えぇい鬱陶しぃッ!!!!!」
全力疾走、抱える腕の中。
【勇者】様より賜った筋力を活用して絶賛被運搬中のソラが注意の声を紡ぎ切る前、上から降ってきた真黒な人間大の雨を護衛の横槍が弾き飛ばす。
これだ。通った傍からではなく、走り行く先からも夥しい数が湧き出してくる。
言わせてもらって、構うまいな?
「いい加減にしろやアルカディアぁッ‼︎」
次なる目的地まで、推定所要時間不明。
笑えるほどに苦難が過ぎる攻略劇は、おそらくまだ始まったばかりなのだろう。
なおニアちゃんは姫の直々お姫様抱っこで運ばれながら震えてる。




