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翠一閃。事実として常と比べれば欠伸の出るような速度で……けれども例えば現実に照らし合わせたならば、何かを一息に両断するに足る速度で。
閃を描いて駆け抜けた【早緑月】が、影人形の身体を逆袈裟に断つ。
────その、次の瞬間。いくつかのことが立て続けに起こった。
まず始めに、アバターの変調。
それは俺たちプレイヤーが知る祝福の光に関与するものか否か、仄かに身体を包んだ黄金の光……レベルアップ同様のエフェクトと共に、ステータスが舞い戻る。
全て、ではない。しかしながら、それなりに実感を得られる程度の値。力の帰還を感じて即座、報酬頂戴とばかり頬を緩めたのは俺だけではないだろう。
そして次に、影の退去。
俺の振るった『刀』が奔り抜けたラインを基点に、人形もとい人型から一斉に影……言い直すのであれば〝黒〟が弾けるように霧散した。
斯くして────……ぶっちゃけ、他にも何かしら変化は在ったのかもしれない。この場で俺にも読み取れる変遷が、まだ在っても不思議ではない。
けれども、これが最後。
『──────……、」
「────っ……へ?」
残念ながら、それ以外の全ての情報を星空の彼方まで蹴っ飛ばして、
俺が感知できた事件は、それが最後だった。
全身を染めていた〝黒〟の底から、顕れ出でたのは〝白〟の色。長い純白の髪を夜空の下にて燦然と煌めかせながら、至近より俺を見つめるは金の瞳。
斬った、斬られた。ただそれだけの関係性。
つい一瞬前までは、敵だった。少なくとも、俺は〝敵〟として断じ『刀』を振るわせてもらった。自分たちが進むために、容赦も情けも用意しようとは考えず。
そんな、俺を、
「は? ────待ッ」
彼女は、まるで愛おしくて堪らないモノでも愛でるように見つめながら。
距離を、殺す。
「────……
届けられたのは、頬に残された優しく柔らかな手の感触。
そして、
「…………………………………………………………なに、してくれやがる……」
額に残された、冷やりとした口付けの温度。
……────さぁて?
それでは、見事に仕事を成してくれた『刀』を鞘へと納めつつ。最後の最後で爆弾を残した後に、青い燐光となって儚く消えた誰かさんの残滓を見送りながら。
十秒、経過。次いで二十秒が、経過。
もう十秒くらい、猶予があるかしら。とかなんとか思考に浮かべた数秒後。
「……、……………………」
トントン、と。背に届くは予想通りの指先刺突。然らば、頭の中で虎の御大将よろしく『なんでやねん』を連呼しつつ……振り向けば、はい。
「ぇ、なにしてんの?」
「おねがい待って。俺、された側……」
ジトリ半眼の藍色一丁。加えて至近のニアだけに留まらず、その後ろには憮然とした無表情のガーネット、更に後ろには薄っすら微笑んでいる琥珀色。
空前絶後の冤罪抗議が今、幕を開ける。
◇◆◇◆◇
「────【勇者】アリスティア。我らが〝千憶〟の創始者……『原初の四塔』と呼ばれる、最も古く最も強き遥か過去の英雄でございます」
「ほ、ほう……」
「ご存じの通り、我々は貴方がた『稀人』のように天啓……スキルの力は使えない。けれども遥かな過去、我々もヒトを越えた強さを欲する時が在った」
「成程……?」
「然して、研鑽の道を。開拓の道を歩み示したのが、名高き彼ら。各々が比類なき〝力〟を燦然と輝かせ、導なき時代を先導した四人のモノたち」
「も、盛り上がってきたな……」
「それこそが『原初の四塔』────【勇者】、【王帝】、【聖女】、【賢者】と呼ばれし我らが誇り。今の稀人様方にも匹敵し得る、力を示したモノたち」
「おぉー……」
「…………………………と、いうのが格好の付く体面でございます。私も四人それぞれと実際の面識がありますが、各々それはそれは癖が強くございまして」
「アンタが言うか??? ────え? 遥かな過去の英雄と面識、え……」
言うなれば、執行猶予期間中。
件の〝影人形〟────聞けば【勇者】アリスティアとかいう大層な名を持っていらっしゃったらしい〝彼女〟へと決死で臨んだ舞台後。
依然として風景を形作っている瓦礫の山から少し離れた位置。わかりやすい節目ということで、大休憩の判断を下した俺たちは腰を下ろして一並び。
試練を突破した褒美めいて、騎士様より『事情』を伺っていた。
「かのアリスティアに関しましては、戦いに酔う性質がありましてなぁ……いやぁ、懐かしい。加えて戦いだけではなく酒にも弱く、しかも共通して酔うと気に入った者に接吻を配って回るという困った悪癖がございまして────」
「はいキタこれハイ訳知り騎士様の言質確認ッ‼︎ 知らん知らん遥か過去しかも別世界の偉人様の悪癖なんて事前に察知できるわけねぇだろ俺、被害者!!!」
斯くして、俺待望。
三方向から向けられていた微妙な視線に対する免罪符を得て無実を主張すると、唐突なる口付け額爆撃を受けてチクチク感情を寄越していた三人娘は……。
「………………」
「ふーん……」
「そう、ですか……」
「え? 嘘でしょマジどう足掻いても俺の罪になんの???」
避けろ、と。避けとけよ、と。そう仰る?
格好付けたとはいえ、あの俺は俺で正直ぶっちゃけ内心は決死行で臨んだ一刀の余韻を蹴飛ばして、咄嗟に予測不能の接吻を避けて然りと仰るッ……!?
「…………ったく。まあ、アホがアホした幸せ痴話喧嘩は置いといてやな」
「味方してくれよ野郎仲間……」
「じゃかぁしいわ。男なら嫉妬の百や二百、笑って受け止めりゃええねんハゲろ」
「おい最後に呪言を付け足すな台無しだよ」
とかなんとか……まあ、謂れのない罪の赦しは後々で求めるものと置いとこう。そこは呆れ百パーセントで白けているトラッキー先輩の言う通りだ。
「ぁー……────なんだ。その、ケンディ殿?」
ゆえに今は、薄っすらと怒っている……もとい拗ねていると思しきアーシェに代わって、聞いておくべきことを正しく聞いておくべきだろう。
「なんでしょうかな」
この、騎士様に。
────遥かな過去からの旧知であると語った〝同胞〟の影を斬り、見送った俺を、清々しいまで誇らしげに見つめる〝千憶〟の騎士様に。
「NPCって、俺たち以上の不死不滅なんじゃなかったか?」
俺たちプレイヤーの知る常識を覆すような光景を見て、知らされて。当然のように生じた問うべき問いを差し向ければ……また、
「さっきの、アレは……なんというか、こう、…………どう見るべき、現象で?」
直接的な言葉を避けて、疑問を重ねた俺に。
「────我らにとっての〝死〟……ですな。はい」
彼は、やはり穏やかな顔で微笑んだ。
────とある遥か過去の情景────
「アリスティアぁッ!!! また勝手に俺の宝物庫を荒らしやがったなぁッ‼︎」
「うわっはーこわーい! レべ君が怒った助けてフォルぅー!」
「わ、っちょ、来るな! なんでいつもいつも僕を盾にするんですか!」
「とかなんとか言っちゃってぇ~フォルフォルったら顔が真っ赤~」
「五月蝿いですよミルフィエ! 言っているでしょう女性は苦手だと……!」
「なになに、あたし相手でも照れちゃうの? 可愛いなぁもうチューしたろか」
「やめッ、酒臭ッ……!?」
「聞け剣馬鹿ッ‼︎ 勝手に飲むな! そも俺のはコレクションだ飲む物じゃな」
「お酒は飲むためのものだよぅ。いいじゃん沢山あるんだから……あ、もしや」
「ぁ」
「ぁ~がんばぇ~」
「は、な、なんだ。おい、ジリジリと寄るな何の真似だ……!」
「いやはぁー……お代が、欲しいのかなぁって?」
「おだ……、おい馬鹿やめろ‼︎ おいッ!? 待────」
「んふへへへぇー……!」
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はい。
外伝で四十万文字は余裕かな程度の推したちです。




