────────────────…………
仮想世界アルカディアの『戦闘』において、極一部の例外を除き全てのプレイヤーが最も頼りにする要素とは何か────それは超常的な身体能力……ではない。
なにを差し置いても『適性』スキル。
武器を用いるか、魔法を用いるか、どちらにしても必要不可欠なモノ。一切の例外なく誰しもが一番最初に取得する、それこそが全ての根幹を支えている。
何故そう言われているのか、至極簡単なことだ。遍く者に〝戦い方を教えてくれる〟のが、他ならぬ『適性』スキルだからである。
コントローラーのボタンを押せばいいわけではない。
マウスやキーボードを操作すればいいわけではない。
仮想の造り物とはいえ、己の身体を以って、武器を振るい魔法を振るわねばならない────そんなこと、現代に生きる人間が、まともにできるはずがない。
剣でも、槍でも、あるいは棍棒でさえも。十全に扱うどころか、実際には正しく振って威力を生み出すというのも思った以上に難しいことだ。
ましてや、怪物相手。化物相手。たとえ超人の身体を得たところで、本来ならば『戦いを成立させる』ことなど甚だ困難の極みであると言えよう。
然らば、それは【剣ノ女王】ことアイリスさえ例外ではない。
重ねて、極一部の例外を除き、全てのプレイヤーが、戦い始めた日より片時も離れることなく……共に歩んできた〝導〟とも呼べるモノが失われた。
すると、どうなるか。
「────ッ……、っ!」
髪が揺れて、上体が揺れて、すぐ目の前。
思考が在っての動きか否か。二択から自分を選び取った〝影人形〟が挨拶代わりとばかり、猛然と振り下ろした大剣を大きく躱しながらアイリスは吐息を散らす。
激しく床を打った刃が発する音と衝撃。身に伝わってくる圧は想定通りと言える範囲────だが、それだけならば苦々しい息など撒いてはいない。
わからない、なんてことはない。当然。
けれども、
「こ、の……!」
半分は無意識、もう半分は意識しての文句。零した言葉は相対する〝敵〟に対してのそれではなく、予測を遥かに下回った自分に向けての音。
『適性』を欠いた手に納まる、剣が重い。
「────ッ!」
この世界で誰しもが前提として受け取っているガイドを失ったとて、積み重ねてきた記憶は確かな経験値として実在している。なればこそ不格好ながら初撃の回避も成ったし、文句の声音を放ちながらも反撃に向けた踏み込みは反射で成した。
……しかし、やはり。
まかり間違っても【剣ノ女王】などとは名乗れぬ体たらく。
『────』
身体能力が、なんて次元の問題ではない。常の鋭さなど見る影もなく、代わりに実装された迷いがブレとなり滲む剣閃を……──
否、閃とも呼べぬ剣の線を、身体を捻り小首を傾げた影が見送った。
頬スレスレ。普段であれば決してしない、必死かつ大袈裟な回避行動をした自分に見せ付けるかのような洗練された動き。腹を立てる、
『──────』
「っ……!」
そんな余裕も、在りはしない。
流れる数秒。影人形の手中で大剣の柄が勢いよく回り、床を打ち跳ね上がった勢いも喰らい鋒と刃が唸りを上げて行先を変える。向かうは勿論、
半端な反撃の手を出した、取るに足らない者その一。然らば獲物は、
「づオッッッッ────────ッラァい!!!!!」
意地を以って、やり返す。
来ないはずがない横槍。疑わなかったインターセプト。
大して役には立たないと言いつつも確かに頭上にて〝冠〟を輝かせ、なけなし全てを振り絞るが如く搔き集めた力を纏う槍手が、威勢良い号砲と共に激突。
槍だけでは圧が足りないと踏んだか、ほぼ体当たりの様。見事に挙動を読み切った動きで振るわれた剣の横合いを叩き────弾き飛ばすには、力及ばず。
だが、ほんの数センチ。
たったの数センチばかり、しかし確かに生まれた斬閃の揺らぎ。その隙間に、
『────』
「────」
戦意を燃やして自負を掲げる『剣』が一振り、頬を掠める刃を見送った。
然して、
「ふッ……────‼︎」
振り被らない。動きが大きくなればなるほど違和感が邪魔をする。
振るわない。要する力の範囲が広くなるほど、精彩を欠く。
ならば、真っ直ぐに押し込むのみ。
足元至近。僅かに軌道を逸らした大剣の刃が再び床を────打つことはなく。
見送り不可と即断した影人形が強引に得物を引き戻しながら後方へ跳んだことで、今度は揺らがず放たれたアイリスの刺突が鋭く空を穿つに留まった。
……と、どうやらブレイクタイム。
何事かを思っているのか。何事かを思える思考が、果たして在るのか。
再び大剣を肩に担ぐ形で静かに止まった影人形と、距離おおよそ十メートル。今しがたの交錯を鑑みれば『安全距離』と読み取れる間を空けて、
「……おい、五秒ちょいやで。最適化が早過ぎひんか?」
「お互い様。あんなに綺麗に逸らしてくれるとは思わなかった」
全力横槍の勢いそのまま。ベシャッと床へダイブした身体を跳ね起こす臨時の相方と言葉を交わしつつ、まとわりつく違和感を斬り払うように白剣を一振り。
「そりゃ、お褒めに預かり光栄────どう見る」
「予想通り。Lv.50程度の筋力耐久型プレイヤービルドと同等の挙動」
「同感や。つまるとこ今のは……」
「えぇ、そうね」
どうやら再びラインを踏み越えない限り、向かうから続きを始める気はないらしい。ジッと佇む〝敵〟を見ながら、二人は揃って……。
無表情の上に薄っすらと、あるいは深々と、その違いはあれど。
「遊ばれた」
「はは、結構。思い知らせたるでアホんだら」
揃って、不愉快に対してプライドを示す強気な笑みを滲ませながら。
「────次」
「おう、いこか」
揃って剣と槍を構え直して……臆さず再び、一歩を踏み出した。
『スマホやPC』で文章を書くのに慣れ切った人に『ペンと紙』を渡して「さぁどうぞ書いてください。勿論、難しい字も漢字を使ってくださいね」みたいな感じ、
なんじゃないですかね。大概は辛いでしょ。




