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「……臨め、言われてもな」
言葉で貰わずとも意図を受け取れるシチュエーション。その上から『どうぞ』とGOサインを出されたとて、しかし現状は満足に万歳突撃も叶わぬ身。
とりあえず全速突撃が常の戦法である筆頭こと俺。そして性格的ってか好み的には俺に並ぶトラ吉も、苦々しい呟きを零すに留まった。
軽々に、足を踏み出すことはできないゆえに。
「ぁー、っと……あれだ。なんにせよ、ニアは少し下がっとけ。ソラも傍に」
ここまで俺たちを連れてきたのは、騎士様直々のこと。
であれば、経験と勘によって目に映っているラインを踏み越えない限り危険はないのだろうと推察できる。が、あんまり近くに居続けさせる理由もない。
どちらかと言えば、戦闘担当の精神衛生上ってか安心上の話。俺だけでなくアーシェとトラ吉、そこは確認せずとも通ずる三人分の総意だ。
「りょ、了解……」
然らば、非戦闘員側にも突っ撥ねる理由など在りはせず。素直に頷いて恐々そろそろと距離を取るニアちゃん……──は、ヨシとして。
「────……」
「力が戻ったら、即パーティの要だぞ? 英気を養っといてくれよ」
不満気というか、悔し気というか。非戦闘員と一緒にされたパートナーの視線には、フォローでも何でもない単純な事実を返しておくのみ。
考えるべくもない。どうせ攻略を続ける内に〝力〟は戻ってくる。
ほんの僅かずつでも……というか、僅かずつ取り戻していることこそ根拠。『縁』がどうのと事情も理屈もサッパリだが、雰囲気的に考えてもメタ的に考えても『決して失われたままではない』と、わざわざ教えてくれてるようなものだ。
だから、ステータスやらスキルやら全部が必ず戻ってくるはず。そうしたならば、器用万能どころでは済まされないソラは休む間もなくなるだろう。
今、無茶をする必要はない。そんなことは言われるまでもなく理解している我が相棒は……理解と納得が在っても滲んでしまう不満を、お利口に呑み込んで。
「……わかりました」
表情を控え目な微笑で上塗りすると、ニアと共に最前から下がっていった。
────と、いうことで。
「さて……どうするよ?」
「…………」
「どうもこうもないやろ」
佇む〝影人形〟の前に残るは三人、プラス一名。
迷路入口の〝楔〟からこっちが安地というのは確信の在る事実なのだろう。現状かよわい組である二人を追って守護の構えに入るでもなく、傍らに控えるは意味深発言乱発騎士様。彼から放たれる碧色の視線に見守られつつ……。
「とりあえず、俺個人としては勝てる気せぇへんで。今の状態やとな」
「まあ、だよなぁ…………五十、くらい?」
「……そう、ね。そのくらいに感じる」
臨む────もとい挑むに際して、並べられる手札があまりに少ない。ゆえに作戦会議なんて立派なものではなく、精々が前向きに建設的な話し合い程度のこと。
「トラッキーお前、称号の能力。〝四本腕〟は今どんな感じになってんの?」
「アレ自前の筋力ステ参照やねん。使えはするけど、大して頼りにはならへんで」
「あー……そっかぁ。うーん…………」
「姫さんの方どないや。『才能』は生きとんのやろ? 『全能』と髪飾りで起動できる称号の効果と重ね合わしたら、ギリギリ届いたりせぇへんのか」
「……無理。元の力が貧弱過ぎて、倍になったとしても全く届かない」
「それも、だよなぁ……いや、キツくねぇ?」
それでも目前の〝壁〟から目を逸らせないのは、プレイヤーの性か。あるいは序列持ちとしてのプライドか、はたまた代表攻略者としての責任感や義務感か。
「ってか、まず自分やろハル」
「うん? なにが」
「惚けんなや。欠片でもステ戻っとるんやから、使えるんとちゃうんけ」
膝は屈さず、思考は止めない。
「あぁ、まあ、そうな。俺も俺で二人と同じく元が極小なもんだから……期待されるような、いつもの馬鹿力運用は基本的に無理────なので、」
「……なので?」
俺たち全員に共通する理由は、
「約十二時間、ずっと回してる」
それら全部に、違いない。
斯くして、もしもの備えについて告白すれば一瞬沈黙。次いで向けられたのは呆れ満点の半眼および、期待通りと言わんばかりの微笑が一つずつ。
更に脇へと目を向ければ、こっちの気も知らず良き笑顔の騎士殿と目が合った。
「ケンディ殿、質問。ここで俺たちが死ん────……力尽きた場合、どうなる? 稀人仕様のいつも通りと思って大丈夫か?」
然らば、これまで問いを失念ってか先送りにしていた情報を求む。現状の超特殊環境下。『まさか死亡に際して、えらいことにはならんだろうな?』と。
慎重に……しかし、思い切って臨んでも問題ないんだよな、と。
「然り、いつも通りでございましょう」
返された答えより、とりあえずの安堵を確保。たとえ此処でゲームオーバーになったとて、その後は常に則りリスポーン可能……と。
そしたら聞くべきは、あと一つだけ。
「ケンディ殿」
「はい」
「助言は、助力に含まれます?」
「お許し下され」
「っは、だよな……了解」
即ち、予習は望めない。
想像通りの結果に返すは苦味が半分、納得が半分の笑み。視線を両隣へ移せば、アーシェもトラ吉も当然のこと似たような顔をしていた。
といったところで、手札も材料も出揃ったな、と。
現状の俺たち個々のスペックは、甘めに判定して一桁レベル。対して目前に在る〝影人形〟の圧から読み取れる脅威度は、少なく見積もってもLv.50以上。
ハッキリ言って、万全であれば敵にもならないという確信がある。
しかしながら、それも力を失った今の俺たちにとっては途方もなく高い壁。
ステータスは乏しく、スキルの恩恵にも頼れない。いまだ現実と物語の狭間程度に留まり続けている身を以って、紛れもない超人を相手取る必要があるわけで。
いい具合に無理ゲー風味。誠に結構、アルカディアだ。
「……ん。────ハル」
「あぁ、仲良くしろよ」
重ねて、今の俺たちでは語り合ったところで作戦会議なんて体を成さない。できることが限られ過ぎている、ゆえにアレコレ無駄に言葉を交わす意味もない。
呼ばれる前から承知していた求めに応じ、攻略開始直後から『剣』を失っているアーシェの手に代わりの剣────喚び出した【真白の星剣】を託して渡す。
「焼け石に水かもしれへんが、もう切るで。可能な限り『壁』は預かる」
「お願い」
「任せた」
この状況に際して様子見など無意味とばかり、数少ない『手札』を切るに躊躇なく。俺を中央にアーシェの逆側、トラ吉が〝指輪〟に後戻り不能の加護を宿す。
そうして、
「いきましょう」
「おう、気張ろか」
踏み出すは二人。残るは一人。
即ち……現状、重過ぎるがゆえ。まともには振ること叶わない『刀』の柄に手を置いて、構えた俺の両隣から二人だけが歩み出た────その数秒後。
それぞれの足が、ラインを踏み越えた瞬間。
『────────────────……、』
まるで息を吹き返したかのように、止まっていた時が動き出したかのように。
身動ぎした影人形の長い髪が、静かに揺れた。
ずっと語るべきこと多過ぎるけど語るわけにはいかないケンディ殿状態。
それはそれとして後方で「えっ、ちょっと待って普通に始めるじゃんもうなんの声掛けもなく普通に始めようとしてるじゃん、えっ、始める前に一言くらいあってもよくない!!?」とかなんとか騒いでいると思しきニアちゃん可愛いですね。




