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────そして、更に四時間が経過した。
迷路探索開始から計十二時間。言うまでもなく常の非推奨連続ログイン時間を余裕で超過する体感を経てなお、誰一人として不調を患っていないのは幸か不幸か。
空腹なんかの生理的欲求に関しては、現実の感覚が仮想世界のアバターへと直で伝わるのが基本仕様。そういった不都合アレコレが今に至り発生していないということは……やはり、星空イベント同様の特殊仕様が適用されているのだろう。
いよいよ以って『進み続けるのであれば覚悟しろ』とでも言われているかのよう。加えて、代わり映えのしない風景の中で無限鬼ごっこを強制させられる始末。
流石に、いつかは頭がおかしくなるぞ────と、
景色が開けたのは、いい加減に味変が来いと天に祈り始めた頃合いだった。
「………………………………………………あぁ」
丁度キリよく五十本目、白の〝楔〟が齎す結界の内へと飛び込んで数十秒。
永遠に追い回されて避け得ず慣れてしまったのだろう。最早ニアですらビビらせられなくなってしまった黒塊が背後で消えていく様は、総員無視。
「……っ、…………ぁあぁぁあぁあぁぁっ……!」
然して、そんな藍色娘が脱力するままへたり込み、溢れる感情を口から零しながら、半泣きの様相で見つめる先。そこに在ったモノは……。
「約半日で、ようやく、四分の一ッ……!!?」
迷路の終わり────もとい、出口の一つ。
左右から絶えず圧迫感を与えていた〝壁〟は開けて、真っ直ぐに続くは迷路の『路』ではなく場を繋ぐ『道』が一筋。そして最奥に聳えるは建造物。
……いや、元建造物。といったところか。
「約半日で、ようやく、四分の一ッ……!!!!!」
限界というか、明確に『一区切り』と言える地点に達したことで張り詰めていたものが切れてしまったのだろう。嘆きというか恨みというか辛みというかを解放するままニアが内面エキサイトしているが、ツッコミを入れる者はいない。
「…………仮想世界換算では、三分の一日、ね」
「そう変わらん。このゲームを作った奴はアホや」
「あは……は…………はぁ……」
労わりの念を以って藍色頭をポフる俺と並んで、アーシェもトラ吉もソラも揃って異論ナシ。攻略に挑み始めて以降、パーティの心は統一されているからだ。
例によって────
「………………」
道の先に在る元建造物。どことなく見覚えがある気がしないでもない『城』の亡骸こと朽ち果てた瓦礫の山を、静かに見つめる騎士様を除いてのことだが。
さて……と、結界の範囲内ギリギリ。俺たちの最前に立って風景を見やる彼の隣へ歩いていき、視界に収めた横顔は賑やか騎士らしからぬ凪ぎの一色。
然らば、こちらを向いた碧眼と目が合って、
「……、なんでもございませぬ」
別に何も聞いていないというのに、微笑みと共に思い非ずの言葉を渡された。
我が友よ。わからんて。
「────ケンディ」
残念ながら、以心伝心で通じ合えるほどまで俺たちの仲は長くない。その辺は今後に期待ってなことで曖昧な笑みを返していると、隣にアーシェが並んだ。
「合ってる?」
そして、明快な呼び声に連ねる明確な問い。いつものことながら少々端的かつ直球が過ぎるウチの姫に、しかし騎士は先程までとは異なる優しい微笑み一つ。
「えぇ、間違いなく」
アーシェの問いに対する肯定……即ち、俺たち全員が求めていた答えを返す。
つまるところ、
「東の城跡。貴方様がたの辿り着くべき五箇所。その一つでございます」
今攻略において初。俺たちの歩みが、成果を刻んだ瞬間ということだった。
◇◆◇◆◇
────で、辿り着いたら『なにすんの』って話。
四柱戦争で言うところの各陣営戦時拠点。まずはその四か所を目指せばよろしい……とはケンディ殿から聞いていたが、そこで何が待っているのかは無情報。
勿論のこと、そこについても訊ねはした。したのだが、お預けにされちまったのだから仕方ない。曰く『辿り着いてから説明しても間に合う』とのことで、それまでは道程に集中してもらうための配慮と言われたら執拗に迫るのもアレだから。
ゆえに、待ちに待った好奇心解放解説拝聴タイムではあった。
あった、のだが────
「「「「「………………」」」」」
此処から先では〝黒〟の追手ナシ。心配無用と結界から連れ出され、言葉通り平和と静謐に満ちていた『道』を歩いて歩いた先の果て。
ケンディ殿に先導されるままソレの前で足を止めた俺たちの口からは、最早『で? なにすんの?』なんて間抜けな問いが出てくる余地が奪われていた。
『──────────……』
それは、瓦礫の中。微動だにせず佇む影人形。
騎士の姿と呼ぶには軽々、旅人の姿と呼ぶには厳か。
軽装の戦衣を纏う……長い髪とスラリとした痩躯を見るに、おそらくは長身の女性────思い起こすのは、他ならぬ【悉くを斃せし黒滲】の様。
黒一色で描き出された、その姿。
容貌はなく、生気もなく……──放たれるのは、いっそ清々しいまでの、
「…………スゥ────────……ぇ、ケンディ殿」
「はい」
「マジで言ってる?」
「まだ何も申し上げてはおりませんが、マジでございます」
さぁ、かかってこい。
そうとしか受け取れない純粋無比、戦意の結晶めいた情報圧。
いや、わかるよ。少なからずゲームを遊んだ経験があって、このシチュエーション。やるべきことを読み取れなけりゃ嘘まであるから、そりゃわかる。
わかる……けれども、さぁ?
「────皆様、概ね察してはおいでのことでしょう。然らば多くは語りませんが……一つ違えることの叶わない〝ルール〟を、お伝えさせていただきます」
斯くして、
「ルールっすか……ほう…………」
「……………………なにかしら」
「……聞こか。言うてみ」
俺、アーシェ、トラ吉の流れ。騎士様の口ぶりってか場の空気から、なんとなく嫌な予感を読み取っての三者三様に口で促す。さすれば、
「これに限り、我々は手出しができませぬ。お許しを」
ケンディ殿が提示した〝ルール〟とやらは、見事に推測の範囲内────思い浮かべていた内でも、見事に最も勘弁していただきたい部類のモノであった。
「「「「……………………」」」」
然らば、完全沈黙するはニアを抜いた武力担当。おそらく自らでは読み取れていないであろうニアちゃんも次いで、俺たちの様子を見て死んだ魚の目になった。
ほほう、実に面白いことを仰るじゃないか。と、心の中では大爆笑。
アレと、頼みの綱である英雄NPC様の助力を抜きに、薄ッッッッッすら取り返し果せているだけのステータスのみを武器と成し、戦り合えと申し上げる所存?
身の丈を越えるような大剣を肩に担いだまま、微動だにせず佇むアレと???
「…………………………つ、……【剣ノ女王】様?」
「……今、その名前で呼ばれたくない。やめて」
震えを隠せぬ声音を向ければ、無表情を僅かに困り顔へ寄せているアーシェが視線を逸らす。それはつまり、今の状態では彼女でさえも俺と同じということ。
目の前のアレに挑みたくないと思っている、その証に他ならない。
力は失えども、仮想世界で培ってきた勘までは失われず。放たれる圧から容易に読み取れる戦力差に震える俺たちを────傍らで見守る、騎士が一言。
「……時は、限りなく赦されておりますゆえ」
二言、三言と、繋げたのは、気休めにも激励にも至らぬような……おそらくは、自惚れではなく俺たちに対する信頼諸々が大き過ぎるがゆえの、
「どうぞ慎重に、臨まれますよう」
当たり前の文言、ただそれだけだった。
はい。
外伝で四十万文字は余裕かな程度の推しです。




