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────斯くして始まった、長き旅。
訳知り顔の現地人お墨付きと相成った『緑繋』レイド第二幕。異次元四柱迷宮強制スクロール逃亡ゲームへ本格的に挑むに際し、俺たちに侮りや油断は無かった。
断じて、無かった。そりゃもう顔さえ知らぬ女神様にも誓えるくらいには。
最初は辿り着いた〝楔〟の結界を離れる折。ケンディ殿に改めて攻略に必要なアレやコレやの質問を重ねて、まずは情報を徹底的に頭へ叩き込むことから。
女神の加護が及ばないとは、具体的に一体どれだけの不利が生じるのか。俺たちのアバターから、どこまでの範囲で〝力〟が失われているのかを確認していった。
結論を言えば、誰もが最初に経験する例の儀式。
つまるところの〝始まりの場所〟……青水晶の封から目覚め、暗い道を往き、出会った【選定の石人形】となんやかんやあって、果てに辿り着く陣営選択の場。
そこで遍くプレイヤーが受け取ることになるモノ。所謂『戦神の加護』により齎された『レベル』『ステータス』『スキル』が関与する全てが失効範囲だった。
さしあたって真っ先に困った『ステータス』については言わずもがな。『スキル』は一切が使用不可になる他《魔工》を用いて造られた装備品の類も例外なく機能を失っているし、勿論のこと魔法もサッパリ詠唱に応えてはくれない。
『レベル』に関しては「連動してる『ステータス』と同枠じゃね?」なんて舐めた思考をしていたのだが、これも大間違い。
忘れがちだが、ステータスに振り分けできるポイント以外にもレベルアップで得られる恩恵がある────それは他でもない、インベントリ容量の向上。
うん、関わってるね。
はい、ってことで中身まるっと全封印。
ええかげんにせぇよふざけとんのかどうすりゃええねん、と。総じてトラ吉でなくとも投げやり空笑いの関西弁を吐き散らして然りな縛られ具合である。
然して、綺麗に何もかも奪われたかのように思える俺たち────けれどもしかし、プレイヤーの持つ『加護』は神様からの贈り物だけではなかったようで。
いくつかの寄る辺が、俺たちには残されていた。
最たるものは、魂の分け身こと『魂依器』がそれぞれ。
それもNPCの《魔工》スキルによるものでは? といった疑問も上がったのだが、ケンディ殿が言うにはNPCの《魔工》は技術であって奇跡ではないのだとか。
意味も理屈も結局よくわからないが……実際問題お試しで俺があっさり指輪を剣として喚び出せてしまったことから、そういうもんかと納得するしかなかった。
次に、制限アリで『語手武装』。
こちらも「それは流石にプレイヤーメイド側やろ」とツッコミが挙がったが、騎士様曰く『根源が二つあり、その片方である女神様の加護だけが封じられている状態』とかなんとかで不完全ながらもギリ使えるとのこと。なに言ってんの?
勿論、意味不明。そこらで俺たちは完全に真剣な思考を放棄した。
続いては、その他プレイヤーの魔工師が介在せず生まれた装備品全般。
早い話が、ダンジョン報酬の類。たとえば俺の【九重ノ影纏手】だとか、アーシェの【狐幸ノ影纏布】だとか、ソラの【小紅兎の首飾り】だとかだ。
その点【藍心秘める紅玉の兎簪】に関しては魔工師の手が加わってしまっているので沈黙しているのだが……まあ、ぶっちゃけ現時点では大して残念でもない。
然らば最後が、称号関係。
通常称号も特殊称号も隔てなく、コレに関しても普通に働く模様。それこそ女神の加護に類するカテゴリ筆頭だろと思ったのだが、どうも違うらしい。
じゃあ誰が名付けてんだよと。謎。
────とまあ、そんなこんなの手札事情。
総じて言えるのは、誠に遺憾ながら特に役立つことはないってなところ。
どうにもこうにも、全てを活かす根幹となるステータスシステムが死んでいるのが致命的。機能が生きている装備品類も『追加ステータス』は女神の加護に作用する形なのか何なのか息をしていないため、外付け盛りは許されず。
MPも失われているゆえ、ソラの【剣製の円環】なんか使えるのにうんともすんとも言わない状態だ。もう本当に隅々まで丁寧に潰されてる感が笑えてくる。
つまるところ、わかりやすい抜け道は残念ながら存在しないってな具合。
剣が在ろうが、常識の範疇に納まってしまう身体能力では化物相手に頼りにならず。力を補助する手段が在ろうが、元の力が乏しければ倍にしたとて雀の涙。
結局のところ、現実的な位に封じ留められてしまった身を必死に駆り、この大迷宮区を〝黒〟に追い回されながら、踏破しなければならない────
どう足掻いても、そういうことだったのだ。
……────然して始まった、長く長く険しい旅。
訳知り顔の現地人お墨付きと相成った『緑繋』レイド第二幕。異次元四柱迷宮強制スクロール逃亡ゲームへ本格的に挑むに際し、俺たちに侮りや油断は無かった。
断じて、無かった。そりゃもう顔さえ知らぬ女神様にも誓えるくらいには。
だから、こそ。
「────……………………………………………………なあ、ケンディ殿」
「なんでございましょうか」
十分過ぎると思えるくらい、覚悟を持って臨んだからこそ。
すいませんマジ舐めてました、と。誓いを撤回するまでに時間が掛かってしまった。それはもう長く長く────今、辿り着いた〝楔〟は数えて三十七本目。
「…………俺たち、あと何日くらいで出られると思う?」
遂に皆を代表して俺が口から零した問いに、騎士様は微笑むのみ。その沈黙が信頼によるものか、はたまた慈悲によるものか……わからない。わからないが、
確かな事実が、ただ一つ。
────歩み始めてから、アーシェ曰くの約八時間。
視界端、一秒たりとも刻むことなく静止しているシステムクロックの如く。俺たちの足は、いまだ何処にも辿り着けていないままだった。
説明おつかれ主人公。




