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────斯くして、だ。
「…………問え、言われてもな」
当然ながら、場に満ちたのは困惑一色。トラ吉の呟きは全員の代弁だ。
推定『色持ち』レイドの続編へと赴いたつもりが、飛ばされたのは見知った舞台。更には攻略に備えて磨き抜いた〝力〟を傍から喪失。
続けて見覚えのある〝黒〟に追い回され、果てには世界の秘密と来たもんだ。
理解できるのは、自分たちが何か重要な局面に立ち会っているという予感だけ。混乱以外に一体どうすればいいというのか────であれば、やはり。
「「「「………………」」」」
「……今、考えてる。待って」
いつもの無表情を僅かながらも困惑に染めているのは、俺たちと同じ。けれども確実に思考を固めてはいない我らが旗頭へ、視線が集うのは自然なことだった。
困った時の【剣ノ女王】様。
なにかあれば頼ってばかりの構図は一般的に考えればアレではあるものの……ハッキリと断じざるを得ない事実として、まずもってアーシェ本人が間違いなく『一般的』の範疇に在る人間ではないのだから仕方ない。
そんでもって最近ようやく自己認識が追い付いてきたアホとは違い、彼女は並み居る他者に隔絶した差を突き付ける己がスペックを誰より正しく理解している。
ゆえに、我らが姫は女王の冠を戴くことを躊躇わない。
……俺が知らぬ以前までならば、それは負担になっていたのかもしれないが。
「……ん。────ケンディ」
今のアリシア・ホワイトことアイリスの無敵メンタルには、弱みなど皆無だ。
「最終確認。この結界内は絶対安全?」
「〝千憶〟の名に於いて、保証いたしましょう」
「時限的な制約は?」
「在りませぬ。この〝楔〟は皆様方が知る模造品とは別物でありますゆえ、砕くことも叶わなければ御力が絶えることもないでしょう────悠久に」
「………………『青点』の権能、ね」
であれば、その思考に迷いも曇りも淀みもなく。過去には周囲を置き去りにしてきた自身の能力を、周囲を丸ごと連れ往くために如何なく振るい始めた。
いつもいつとてマジ格好良い。惚れる。
「思い浮かぶ問いが膨大過ぎて、選択が難しいけれど……まず、結局のところ、此処は私たちが辿り着くことを求めていた場所という認識でいいのかしら」
なんて、普通にぼけっと見惚れていたのを察知されたのだろう。
隣と背後から頬と背中を同時に抓られ「いてっ」と小さく悲鳴を上げた俺、そんな様子を見て「なにしとんねん平和か」とツッコミを入れるトラ吉。
そして見ずともわかるジト目の強襲者二人を他所に、
「二重の意味で、左様ですな」
「………………」
確認を経ての、一つ目。問いに対して意味深な肯定を返されたアーシェは、僅かに目を細めながら面と向かって騎士を見つめる。
ケンディ殿は、変わらず穏やかな顔のまま。
俺たち稀人へ、親愛と敬愛を隠さない眼差しのままだ。
「……私たちが、求めていた。私たちを、求めていた。二重の意味で、そう…………なら、ここが私たちの求めていた『緑繋』レイドの続きとして」
然らば、アーシェは納得を頷きで示した後。
「私たちを此処へ求めたのは、誰? あなた達の言う、グリエ様? 女神様?」
「…………」
ケンディ殿は、まだ答えない。それはおそらく、続く言葉を待っていたからで、
「それとも〝黒〟────【黒歪のヒュプノニクロ】?」
そこまでを確かに耳で受け止めて、彼は浮かべる笑みを深くした。
「……まず、誤解を解いておきましょう。我々は、決してニクロ様と敵対しているわけではございませぬ。それどころか、あの御方こそ我らが最も敬愛する御柱」
「つまり……」
「左様です。〝黒〟は黒であっても【黒】ではない。遠き果てへと御隠れになったニクロ様が、その色と御身の全てを以って封じた────我々の〝敵〟」
………………で、まあ、とかなんとか。
「……ついていけてる人いるか?」
「ぇ、無理ですけども」
「ぜ、全然……」
「なんのこっちゃねん」
傍から会話を聞いている俺たちは、申し訳ないが清々しいまで置いてけぼり。後で改めて解説してもらえばよかろうと、恥を忍んで諦めの姿勢。
ニア、ソラ、トラ吉と。
まさしく別世界の住人が如く。物語の中みたいな洒落乙やり取りを展開している二人を眺めながら、邪魔をしないよう四人でコッソリひそひそが関の山……。
「……そう。────次、今に即した現実的な話がしたい。これが私たちの求めた『攻略』であるとして、私たちがすべきことを貴方は知っているのかしら」
「存じております。少なくとも、進む道は示せましょう」
「それは、今の私たちで踏破することが可能な〝道〟?」
「勿論でございます。貴女様方でなくては、踏み越えること叶わぬ〝道〟です」
と、そうこうしている最中にも話は進む。
「さしあたっては、美しき稀人様。どうぞ〝楔〟に手を。お触れください」
「……? わかった」
話だけでなく、状況も。
アーシェも俺と同じく……というか、俺以上に人を見る目が鋭い姫様のことだ。ケンディ殿の雰囲気を見て、彼を信用する方針は固まっているだろう。
促され、疑う様子はないままに立ち上がり、傍に聳えていた〝塔〟────もとい、ケンディ殿が言う〝楔〟へと手を伸ばして触れた。
瞬間、
「っ……」
刹那に、仄かに。〝楔〟から放たれた光がアーシェのアバターへと伝い、その全身へと染み入るように行き渡る。然して、驚きの吐息は聴こえたものの、
「だ、大丈夫かー……?」
「……ん、大丈夫」
念のために確認を投げ掛けた俺へ、振り返った彼女は頷きつつ……〝楔〟から離して自らの目前に掲げた己が片手を、ゆっくりと閉じて開いて。
「────少し、力が……ステータスが戻った、気がする」
「「マジか」」
ぽつり、一言。思わずの反射的リアクションが丸被りした俺とトラ吉は顔を見合わせて、これまた反射的に意味もなく馬鹿男子。
そんな様子を見ながら、
「本当に、ほんの少しだけ。言った通り、気がする程度だけれど」
「でしょうな。あくまでも、架け橋となる〝楔〟の一つが僅かながら『縁』を手繰り寄せた程度……僅かばかり、心ばかりのモノでしかありますまい」
「『縁』……ね。────ケンディ」
「はい」
力は失われども、少しずつ調子を取り戻していく俺たちが、馬鹿をやれる理由。
いつもいつとて何処に在ろうと頼もしさと冷静さを失わない【剣ノ女王】が、力の欠片を取り戻したという手を下ろしながら再び静かに口を開く。
「まだ、この先で。話をするタイミングは、あるのかしら」
「ありましょう。────長き旅と、なるでしょうからな」
聞いて、聴いて、頷いて。
「……そう。それなら、進みましょうか」
彼だけではなく、率いる俺たちへと微笑んだ。
「次の質問は、次の休憩までに考えておく」
未知の中に在っても、決して立ち止まることのない歩みを宣言しながら。
なに書いても核心に触れちゃいそうで後書きを綴れませんけども?




