the continued.
────光が満ちたのは、打ち上げから約二週間が経過したタイミングだった。
直近で示されていた月末という予測より、僅かではあるものの時期が早まった理由は流石に明白。大晦日の四柱放送が燃料となったようで、年明けからジワリジワリとプレイヤーたちのモチベーションが上昇傾向にあったからだ。
それは当然のこと。少しずつ落ち着きは見せていたものの、依然として熱自体は冷めやらぬ最新コンテンツ『木登り』に関しても同じく。
ペースダウンしていた総合攻略値(推測)のゲージ蓄積は、それまでマークされていた最高速に迫る勢いで順調に進んでいき……といった具合である。
無論、喜ばしいことである。
ついては去年の内に一般まで情報共有を済ませている『最精鋭百層到達済み』の件や『〝扉〟に関する推測諸々』の件などの振り返りも併せて────
満を持しての攻略に挑むことを、告知宣言したのが昨日。
実質的にアルカディアプレイヤー総勢の『成果』を〝鍵〟として使わせてもらう形になるのだが、そんなもの全くもって今更のこと。
コンプリートに際して『追憶レイド』という遍くプレイヤーが楽しめるコンテンツの実装が約束されている事実も併せて、仮想世界におけるグランドクエストこと『色持ち』攻略はMMORPGとして真実あるまじき形で頂点層に託されている。
流石にゼロ、なんてことはないだろう。
けれども、文句や嫉妬は全体に比して極少数。常識的に考えてクリア不能を地で行く馬鹿難易度レイドに挑む者たちへ向けられるのは、応援と期待が大多数……。
と、俺の知る限りは、そんな雰囲気。
然らば俺たちにできるのは、応援に甘んじる傲慢を識り期待に応える責務を背負って、他者の分まで全力で楽しむことだけ────
そういうことで、今日。
「スゥ──……………………なんか、逆に緊張すんな? この感じ」
「わかるわぁ……。ある程度はギャラリーおった方が、もう安心すんねやな俺」
土曜休日、昼過ぎの今。
俺は〝扉〟が待ち受ける鍵樹百層最奥大広間の門前に仲間たちと共に集い、後はもう自分たちの思い一つで舞台の幕を開く直前に居た。
睡眠時間充実。昼食栄養補給満点。現実仮想、共にウルトラコンディション。
緊張はする。勿論する。するが……流石にアレやコレやソレやと特大イベントに事欠かず、文字通り絶えず自己管理の必要性に追われていれば慣れもする。
元より『いつでも動けるように』と備えていたのはそうだが、それでも昨日からの今日。即断決行に合わせられたのは我ながら偉いと自分を褒めてやりたい。
こういうところも成長しとんねやな────と、最近は……ってほどでもないかもしれない、自分も褒めて伸ばす方針の俺が悪友と暢気にしている傍ら。
「ハ────ッハッハァ!!! 心配ご無用ですぞニア嬢‼︎ もう幾度となく申し上げております通り、このケンディ!!! 我が尊き稀人様の大事な御方とあらば、貴女様へ這い寄る影など悉くを退け滅して進ぜますゆえにぃッ!!!!!」
「…………ぁ、はぃ。声量、半分くらいで。お願いね」
「御意にッ!!!!!」
「ぁダメだこれ今日も聞いてねぇなコレ……」
と、そんなこんな賑やかに仲良くしているのは二人組。
一ヶ月足らずではあるものの、どうにかこうにか紆余曲折あって打ち解けるに至った〝守られる側〟&〝守る側〟の愉快極まるペアである。
世間……ってか仮想世界の職人界隈では『誰にでも分け隔てない明るくノリ良い隠れファン製造マシーン』とか認知されているニアちゃんだが、あれで実のところ明確に苦手で極力は避けたがる人種が一つだけ存在している。
それが……。
「ねぇあの、騎士さ────」
「ケンディと! どうか親しみを持って呼んでいただければ‼︎」
「もういいってコレも無限回やってんじゃん騎士さんでいいじゃん諦めてぇ……」
アレとか、
「……ま、あれやなぁ。なんだかんだ、悪ない感じには納まったんとちゃうか?」
「そうなー。お前もなー」
コレとか。
────つまるところの、圧が強いタイプの男性だ。
ケンディ殿は、言わずもがな騎士怒涛まっしぐら(???)の内面。トラ吉に関しては、普通にオラついてる外見に加えて強めの口調……つまり、関西弁。
ビビりなニアちゃんが、そりゃもう両者にビビることビビること。
大丈夫だよー怖くないよーと俺を筆頭に無敵のアーシェや気遣いソラさんがフォローはしていたし、本人も理性ではわかっちゃいるのだが本能がダメ。
ケンディ殿はメンタル黒龍鱗岩だからともかくとして。不意に後ろから声を掛けて悲鳴を上げられた時など、トラ吉御大将が一時しょげ虎になったりしていた。「はは哀れ虎」と笑っていたらソラさんに正座させられたのが懐かしい。
まあ、しかし────
「……なんとか、パーティにはなれたかしら」
「あぁ、十二分だろ」
結果、ご覧の通り。ギャーギャーできるくらいには慣れた様子のニアを見守る『お姫様』が背後より追加、恋敵……とは今や呼べなくなっている関係か。
隣に並んでニアを見やるガーネットの瞳は、友達というより妹か娘でも見ているような慈しみの色を湛えていらっしゃる。いつものことながら何目線だよと。
二ヶ月とはいえ、お姉さんはニアなんだけどな……と、
「────っすみません! お待たせしました……!」
和やかの極みでお送りしていた場を賑わす、転移の光と天使の声。
門の奥、大広間中央。百層攻略済みプレイヤーの特権で直通となる転移門を潜り、少し遅れてパーティに合流したソラがパタパタと走ってきた。
超かわい────最近、俺の内心こればっかだな。我ながら色惚けの極み。
とまあ、さて置き。
「大丈夫か?」
「は、はい……! 憂慮は無いようにしてきましたっ!」
別に遅刻というわけではない。そうでなくともソラ相手に文句など言う面子ではないが、ソラ自身も特別に『ごめんなさい』という顔をしていないのが証左。
重ねて電撃的に決まった流れであるため、超絶いい子の家事手伝いあれこれ大忙し事情を頑張って午前中に消化して来たがゆえの重役出勤だ。
であれば、掛ける言葉など一つだけ。
「おつかれさま」
ってな。頭を撫でたい衝動は我慢したが、ソラさん本人は言葉と笑みだけで嬉しそうにしてくれているのでヨシとしよう超かわいい以下略────
「ソラ。少し休む?」
「いえ、大丈夫です! 一息だけ入れてからログインさせてもらいましたっ」
「そう。いい子」
然して、横から撫で撫でを掻っ攫っていくアーシェ。羨ましいとか思わないからどうぞ無限にそのまま仲睦まじくしていてほしい心から。
「おいハル」
「あ?」
「気色悪い顔してんで」
「なんだとテメェこっち見んな」
ともあれ────ともかく、だ。前置きは、こんなところで十分だろう。
男二人、立ち上がるのは同時。さすれば平和にイチャ付いている天使と姫の、向こうで飽きずに騒いでいる騎士と妖精の、視線が一時に集う。
「…………────っし、ほな行こか」
第一声。始まりは権能諸々の都合、一応の形でシステム上のパーティリーダーを預かったトラ吉こと【大虎】タイガー☆ラッキーより。
「えぇ。行きましょう」
次いで、実質的な旗頭。最高戦力と最高頭脳を併せ持つと共に自覚して、堂々と最前を歩き始めたアーシェこと【剣ノ女王】アイリスが。
「っ……!」
そして、グッと可愛らしい握り拳を作って気合いを入れつつ。なんだかんだ、最早こんな大舞台にも怯まない大物へと成りつつある俺の相棒が。
「……では、参りましょうか。────重ね重ねですが、ご安心を。護ります」
場違いなようで、究極的に俺たちの誰よりも在るべき場所に在る存在。そのもの仮想世界に生きる騎士が、らしくない声量と意味深な微笑を湛えて続き、
「ぁ、はい。お世話になりま……すぅ…………」
いまだ、というか、いつまで経とうが覚悟なんて決まりやしないと言わんばかり。恐々とした様子を隠せぬままヨロヨロおろおろと────
「……ほら、行くよ? ────ハル君も、ニアちゃん守ってくださいねー」
進もうとして、振り返り半眼を向けてくるニアに一つ。
「ッハ……あぁ、はいはい。そりゃもう喜んで!」
笑みを返して、仲間たちを追い掛けた。
追い掛けた、その先で。────六つの枠を、外周の円を、時と共に積み重なった戦果の光で満たし尽くした足元。巨大な〝扉〟を模る紋様が、
◇ sign in to guest account……accept. ◇
世界の理が、鳴動する。
始まっちゃった。




