名を冠する星
斯くして、一分後。
「………………生意気を実現しくさるとこが、ほんまムカつくねんなコイツ」
「まあまあ先輩。案山子役サンキュ」
場を彩るのは、粉微塵になって消し飛んだアバターひとり分の死亡エフェクト、その残余の赤。そして、ふわりと舞い遊ぶ花弁が如き〝灰〟の残滓。
見守っていたギャラリー四人に関しては……おそらく反射行動。一人を除いて両手で耳を塞いだ体勢のまま、今日一番の『ぽかん』を見せていた。
今のはソラさんにも初披露。ゆえに目を真ん丸にして驚いているのも至極当然のことだろう超かわいい────とまあ、置いといて。
「なんやと────」
「煽ってねぇぞ。わかるだろ?」
言葉選びが気に召さなかったのだろう、軽く眉根を寄せたトラ御大将にフォロー牽制。有言実行『消し飛ばした』とはいえ、これについても言葉通り。
案山子役……つまり、動かずに技を受けてくれて、ありがとうってな。
「………………ハル」
「おう」
然して、冗談や悪ふざけて言っていないことを確かめただけなのだろう。ムッと口を結んで黙った虎に代わり、俺を呼んだのは一人除いた方のギャラリー様。
「今の……もしかして、正面にしか撃てない?」
静かに真面目に、目にしたものを考察していたアーシェより。そんな的確過ぎる推測を一発目に頂戴したとあらば、俺が返すは開き直った笑みと併せて────
「その通り。正確には真後ろにも撃てるけど、まあそういうことだな」
花丸満点、それだけだ。
「ってことで、コレが『鞘』を得た【早緑月】の新能力もう半分……の、必殺技運用パターン。ご覧になった通り〝溜め〟が必要になる上、一度〝閃〟を引いた後はモーションと攻撃方向が完全に固定されるもんだから……────」
「ソロでは、ほぼ使用不可。対人でも当てるのは現実的じゃない」
「そゆこと────お前なら、まず喰らったりしねぇだろトラ吉」
「ったりまえや、舐めんな」
と、追加解説と追加の『丸』を語りながら、新技披露を終えた翠緑の刃を黒鞘へと帰らせる。これも、今は揃って綺麗な姿なわけだが……。
「今のは決闘システムがチャラにしてくれたけど、コレを切ると本来なら二日弱の使用不可突入だ。刀も鞘も、仲良く攻撃力と全能力が消失して沈黙」
というか、柄頭まで『鞘』に呑み込まれてしまい木刀どころか完全無力な木の棒になってしまう。ぶん殴るくらいには使えなくもないだろうが、俺の場合そんなんするなら別の武器を頼ればいいだけなのでインベントリ行き決定である。
「つまり、陣営加護統合の恩恵も……」
「もち、そこまで」
「……気軽には使えない『必殺技』ね」
まあ、そういうことだ。けれども────
「必殺技運用パターンと、仰いましたね。つまり、先程の形態で通常運用する形も……当然、在ると思って構わないのでしょうか」
「それも、勿論です」
ヘレナさんが触れてくれた通り、先の形態────【倶利伽羅】もう一つの能力『灰緑結我』を起動することで至る、先の【早緑月】第二形態については、
「約四分間。加護統合喪失分を補って余りある、暴れっぷりを約束できますよ」
代償を支払うに相応しい、馬鹿げた実力を秘めていると。
なんせ、今度こそ正真正銘『俺のための刀』である。それを他でもない俺が振るうのだ、これまでの『至高』を更に飛び越えた高みに在るのは当然のこと。
「……成程。戦術へ組み込むには」
「十分すぎる切り札、ね」
「決め技についても、ヒト相手はともかくデカブツ相手なら直撃も狙えるやろな」
ってなわけで、三名分の信頼と納得は無事拝領。
戦術云々にはノータッチなニア、現場指揮能力はともかく事前の作戦会議等では基本大人しいソラ両名の反応も一応は見てみるが……。
「ぇ、なんすか……凄いね、くらいしか出てきませんけども」
「あ、はは……その、聞いてたよりもアレで、ビックリしました」
なんて、可愛らしい反応が返って来るだけだ。
「そういや自分、最初に基本能力で『抜刀の威力がうんたらかんたら』言ってたやつ。アレも、あれか。さっきの一撃に乗っとるんけ?」
「ん? あぁ、一応は乗ってる。乗ってるけど、それに関しては正直オマケ程度の能力だから劇的に威力が上がるってわけじゃないぞ。累積向上は青天井だけども、毎戦闘時限定のカウントだから事前に貯金しとくとかもできないしな」
「そか。…………ぁ? 地味にヤバいこと言わへんかったか?」
そんなこんな、最後の最後まで解説フォローを恙無く終えたところで────
「よし、んじゃ〝次〟」
「あぁ、もう、好きにせい……」
次々いこうか。パーティ連携に際して共有しとかないと不都合のある手札を、図らずもアレやコレや大量に抱えちまっているもんでね。
ってことで、いざ二つ目。
「改名した俺の特殊称号。その強化効果について」
【曲芸師】から【星架】へ。名を変えた序列称号は勿論のこと、俺のステータスに刻まれている特殊称号までを余さず変質させている。
特殊称号『星架』────元の『曲芸師』時点で散々お世話になった《鍍金の道化師》より名を変え姿を変えた、新たな強化効果の名は……。
「《星海に遊む戯冠》」
ちょちょっとシステムのメモ帳機能を起動、正直なところ大仰が極まって恥ずかしいばかりの上下正式名称を揃えて記して白状する。
幸いなこと、茶化すような表情は今のところ見当たらず。
であれば、羞恥案件が追い付いてこない内に……────
「ぇー……こっちも結構おかしなことになってるから、心して聞いてくれ?」
諸々全部を、晒してしまうとしよう。
◇特殊称号:『星架』◇
◇強化効果:《星海に遊む戯冠》◇
総計自傷ダメージが総合HPの九割に達することで自動起動。戦闘終了時までHP上限が一割で固定され回復効果を無効化、更に以下の各種強化効果を獲得する。
・自傷判定と見做される全てのダメージによる被害計算を無視。
・全スキルの再使用待機時間を半減。
・自傷ダメージにより失ったHPを割合計算で即時MPとして追加上限に転換。
・直接所属する単一のパーティ員へ特殊強化効果『紡がれし星々』を付与。
◇特殊強化効果『紡がれし星々』◇
・対象は【星架】が保持するステータスバフ数値の1/10を獲得する。
・対象は《星海に遊む戯冠》によるスキル再使用待機時間半減効果を共有する。
・対象が死亡判定となった場合に【星架】は特殊スキル《転星》を発動可能。
◇特殊スキル《転星》◇
・対象の死亡判定を【星架】の死亡判定に書き換える。
もうメチャクチャ。




