手札共有
「────ほんなら、俺からいこか。トップバッターや」
ってなわけで、トントン拍子。
アレやコレや諸々の『実演』が必要あればスムーズにってな具合で訓練場へと場を移すや否や、まずはトラ吉が迷わず手を挙げた。
勿体ぶりなし。手札開示の、お時間である。
「前々回の四柱からこっち、説明が面倒やさかいギャラリーの想像に任せとったが……──要するに、魂依器のごっつエライ新能力やな。それが二つある」
然らば早速、ほんのりドヤで虎々大将が語り始めたのは己が指に煌めく『指輪』について。前回四柱時点で第五階梯に至っていた【荒吼に介す二等星】だ。
俺も直接ぶん殴る機会があり、まあ随分と可笑しな様子になっていたが────
「簡単に言うと、自己強化のソロ特化か味方支援のパーティ特化で選択式のアホみたいなバフや。一回起動すると死ぬまで撤回でけへんのが使いづらいが……」
────……と、なんで俺にピンポイントで視線を向けてニヤついてんすかね、この虎。男同士で玩具自慢する小学生男子かってツッコミ入れたら怒るんだろ。
なんやねん。とっとと吐け。そう半眼で伝えたところで気持ちよくなっている猫科ブルゾンには響かなかっただろう、たっぷり数秒のタメを挟んだ後。
「効果の方は、どっちも遠慮ナシの『やりたい放題』やで」
トラトラトラッキーはドヤ顔継続。
いっそ清々しいほど自慢気に、魂依りの器が秘める力を詳らかにし始めた。
……──────と、いうことで。はい。
詳細、把握。
まず、選択式あたおかバフひとつ目。ソロ特化効果が……。
◇『孤虎奮尽』◇
宣誓による起動と同時、次の死亡時まで効果が持続する。任意撤回不能。
・単独行動時に限りアバターの耐久性能が十倍になる。
・HP、MP共に一切の回復効果を受け付けなくなり、また自動回復も停止する。
・味方との共闘時、耐久向上効果は無効。
・周囲の味方に特殊効果『孤牙尽圧』を付与。あらゆるMPの消費量が増加する。
────これ。大体なにを言っているのかわからない。
そして次、あたおかバフふたつ目。パーティ特化の支援効果が……。
◇『虎群奮踏』◇
宣誓による起動と同時、次の死亡時まで効果が持続する。任意撤回不能。
・自身以外のパーティ全体に特殊効果『王虎奮励』を付与。リーダー時限定。
パーティメンバーの攻撃行動に〝連撃〟判定が付与され、あらゆる攻撃成功時のダメージ計算において元威力を半減させた追加攻撃が必中扱いで同時加算される。
・自身は攻撃力の一切を喪失する。
あくまで『敵に被害的作用を与える攻撃力』を失う。膂力を失うわけではなく防御行動等は可能だが、それによる結果でダメージを発生させることは不能となる。
・単独行動時、全てのステータスが半減。
HP、MP共に一切の回復効果を受け付けなくなり、自動回復も停止する。
────これ。大体なにを言っているのかわからない。
だからまあ、とりあえず全ての説明を聞き終えて一言。
それぞれ差はあれど避け得ず「ほえー」って顔をしている俺含む一同へ会心のドヤ顔をかましているツン髪タイガーへ、贈る感想はコレしかない。
「どっちも『トラ』って読み入ってるの絶妙にムカつくな……」
「なんでやねん最高にイカすやろが」
最低限の弄りは遂行したのでトラ吉の返しは放っとくとして……まあ、まとめるとコイツのドヤ顔も相応しいと言える堂々ぶっ壊れ具合だ。
どちらも死ぬまで体力魔力の回復が一切不能となる代わり、自分or味方の二者択一で至極とんでもねぇバフを齎してしまう超強化効果。
単純に『自身の耐久十倍』か『味方の火力五割増』を選べるということ。
前者は共闘時メリット帳消し&周囲デバフのトータルマイナス。後者は単独時ただただ『攻撃力喪失』などの爆裂マイナスを受けるだけ……それら制限は確かにデカいが、頭のおかしい効果と釣り合いが取れているかと言えば怪しいレベル。
「十、倍……?」
「同時着撃の連撃判定……自分以外、全員に、ですか…………」
と、アーシェとヘレナさんが揃って真顔リアクションなのが良い証拠。仮想世界トップ勢も認める正真正銘のぶっ壊れ魂依器と成っていたわけだ。
それはまあタコ殴り……もといトラ殴りも効かねぇよなと納得するばかりで。
「ギャグみてぇな強化能力じゃん」
「構成要素全部ギャグみたいなアホには言われたないわ」
ソラさんも誰より「ほえー」っとしてるし、いまいちピンと来ていない様子のニアちゃんも理解が遅れているなりに目を瞬かせて感心している。
都合周囲全員から望んでいたリアクションを回収できたゆえだろう。ご機嫌トラ御大は何度目とも知れない満足げな鼻息を高らかに鳴らした後、
「んじゃ次、お前の番やでギャグ特化」
「誰がギャグ特化だ」
順番が、回ってきた。
ま、そりゃそう。言わずもがな集まった面子の中で……というより、手札の数では仮想世界全体を通しても有数を自負するほどに飛び抜けている俺である。
どこぞの虎タイガーが張り切って一番手を攫って行かなけりゃ、普通に『はいではとりあえずどうぞ』の流れで超絶文字量の解説をぶちまけるつもりだった。
一つ一つ、丁寧に、な。
────それでは始めようか。興味、期待、不安、諦観、幾つも並び立てられるほどに様々な色を含む視線を有難く頂戴しつつ、まずはコレから。
「ったく、見せびらかしよってからに。そりゃあ大層なモンなんやろなぁ?」
と、先程までの自慢劇とは異なる意味合いのニヤつきを頂戴する程度には、登場から今まで興味と注目を引いていたであろう俺の左腰元。
とかく有名となったゆえに、俺以外でも見慣れているか見覚えがあるであろう組紐飾りを湛えた柄。それから鍔までを晒しながら、鞘に納められた刀────
「あぁ、そりゃもう」
これは見覚えなど誰にもないであろう、艶の無い鋼のような黒檀のような質感にて在る、節くれ立った形状の『鞘』に納められた【早緑月】について。
「間違いなく、仮想世界有数の、大したモンだよ」
迫真の自慢、いざ尋常に。
◇【倶利伽羅】:鞘 ◇
・『刀』を納めている間、時間に応じて武器耐久値の回復および次撃抜刀の威力を累積向上。また装備時、常時発動特殊効果『四凮聯繋』をパーティ全体に付与。
◇『四凮聯繋』◇
所有者を含む所属パーティ全体に共有される特殊効果。メンバー各員の陣営加護が統合され、個人ごとに東西南北それぞれの恩恵を制限なく作用させる。
トラトラ御大将が自慢に時間を割くもんだから大体(半分)になっちゃった。




