攻略会議
────然して、翌々日の夕刻。
「よっす」
「こんばんは」
ログインした流れ、クランホームにて。
「仮想世界まだ明るいけどな」
「現実世界は暗いから、いいんですっ」
一月九日。つまり四柱一般枠も勢揃いしての『馬鹿騒ぎ』を明日に控えた今日であり、互いに冬休み開け学校が始まってから二日後の今日。
予定に則り拠点で待ち合わせた俺とソラは、二日ぶりに互いの顔を見た。
待ち合わせの設定……なんて用事がなくともメッセージは取り合っていたし、昨夜は二人どちらからともなく通話を繋いでお喋りなんかもしていた。
学生身分で互いに忙しくしていようとも、いつもの如く。空いた時間で叶うパートナーコミュニケーションは欠かさず取っていたのだ。
…………いた、のだけれども。
「「………………」」
ハイお見合い。これについての要因は『お互い様』ではなく、主に可愛い顔を至極もにょらせて次なる動きを迷ったソラさんに在る。
そりゃそう。俺としては大手を振って大歓迎以外にないのだから。
「……はい。如何しますか、お嬢様?」
なので、両腕を広げて待ち構え体勢を見せるに迷いナシ。
さあどこからでも掛かってこいとばかり、昨日の声は寂し気で目前の表情は甘えたそうなソラさんに会心の能天気な微笑を差し向けてみれば────
「っ…………きょ、共有スペース、ですよっ、もう……!」
「俺が言うなってテトラにド突かれそうだけど、今更ぁ?」
最近……早、一月ちょっと前。
あの日から今まで距離感を微妙に掴みかねている様子継続中の少女は、俺の行動自体への反応か、内心を読み取られたことを察してのゆえか。
ぷいと、僅かに朱の差した頬を隠すように顔を背けて。
「行きますよっ! 遅刻! しちゃいます……!」
「まだ時間全然よゆ……あぁ、ハイ行きます行きます待って待って」
すたすたパタパタ、早足で歩き出していってしまった。
◇◆◇◆◇
斯くしてウルトラ可愛い天使と有罪男。別に喧嘩をしているわけではないが何とも言い表し難い距離感を維持するまま、やって来たのは毎度恒例。
「────お忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます」
『女王様』こと南陣営元序列持ち。アーシェの右腕ってか最早両腕【侍女】ヘレナさんが取り仕切る、ソートアルム戦時拠点の最上階。
ソラとの待ち合わせは残念ながらデート云々の個人的なものではなく、元より共有されていた『攻略会議』……つまりは、
「早速ですが、始めさせていただきます。〝扉〟の攻略に関する、本格会議を」
に、赴くためのソレだったわけで。
集会場に揃った顔は六つ。進行取締役を預かるヘレナさん、そんで俺と俺の隣で淑やか大人しくしていらっしゃるソラさんの他────
「……ニア、大丈夫?」
「ん゛ぇ゛っ゛……!? ん゛、ぁ、ハイッ。ダイジョウブ、です、ケド」
「全く大丈夫そに見えんで。大丈夫か」
慣れているはずもない場の雰囲気でカチコチに固まっているニアちゃんと、凝固藍色を気遣うアーシェ即ち他ならぬ場の王様。
そんでもって、まず間違いなく逆効果であるツッコミを入れた馬鹿一匹。つまるところ、NPCであるケンディ殿を除いた鍵樹百層扉の攻略部隊抜擢者だ。
なおソラとは逆サイドの隣で縮こまっているニアちゃん。数日前に伝えられたパーティ入りを当たり前だが今なお呑み込めていないというか、覚悟ゼロの面持ち。
可哀想。間違いなく可哀想ではあるのだが……。
「まあまあ。ほぼ身内と虎一匹だ、そんな緊張せんと」
「するって……!!!!!」
「誰が『虎一匹』やねんシバき回すぞボケハゲナス。せめて一頭にしろや」
なんだろうな。最早コイツがアレやコレやどんな顔をしていても無限に可愛いとしか思えない俺、ニヤ顔を見止められ脇腹を小突かれるのも仕方なしか。
なお左右同時攻撃である。赦して。
「……あの【曲芸師】が、随分と頼もしくなりましたね」
「普通に微笑ましい感じは俺も効くので勘弁してください」
とまあ、モノクルの奥より向けられた【侍女】様の年上お姉さん見守り光線と一緒くたに受け流しつつ……アーシェの無表情ジト目も見ないフリをしつつ。
「それで、どんな感じに?」
誠に遺憾ながら、この場にいるのはヘレナさんを除き『虎』と『緊張しい藍色』と『複数人の前で喋るの恥ずかしい控えめ天使』と『お調子者』だけ。
アーシェも信頼を以って両腕に一任が基本ゆえ前提除外として、まともに相槌を打って会話の進行を促せる人材は俺しかいない。
調子は引っ込めて、この場は責任感を引っ張り出してくるとしよう。そんな俺の様子を見て、やはりヘレナさんは年上以下略を向けつつも……。
「会議とは申しましたが、ご存じの通り〝扉〟の奥で待ち受けるモノについては情報がありません。ですので当然、対策などは論じることすら叶わない」
「ですね」
任せてくれるようで、大任を仰せつかったような気持ちである。
「そのため、半分は顔合わせが目的です。皆さん見知った仲────」
「………………」
「……と、隅々までは、そういうわけでもありませんから。親交の端としていただければ幸いと思い、この場を設けさせていただきました」
「だってよニアちゃん」
「ぃっ……よ、よろしゅう、お願いします…………」
「おう。よろしゅうなぁ」
なぜか関西弁を倣って頭を下げた藍色娘に、虎が人当たりの良い快活な笑みで応えている────が、なんとなく察していることが一つ。
ここ、おそらく難儀するだろうなぁってことだ。
「成程」
しかしまあ致命的な問題では非ず。
ひとまずは置いといて、進行を優先させた方が良かろうて……いや【侍女】様、そんな『任せましたよ』みたいな信頼の目を向けられても困りますがハイ。
「ぁー、と……したら、もう半分は?」
「対策が立てられないなりに、こちらで叶う備えについての相談。また連携訓練というほどではありませんが、簡単に〝交流〟の時間が取れたらと」
「手札共有とかで相互理解を深めよう、的な」
「はい。勿論ですが、共有する情報の線引きは各々ご自身で判断していただいて構いません。あくまで我々は〝プレイヤー〟です、義務は存在し得ませんので」
と、そんなところで『前置き』は以上ということだろうか。行き届いた補足の気遣いも添えて、面々を見回したヘレナさんに投げられる異議はない。
夕刻集合、それから暫し夜の時間を頂戴する旨は全員納得済みで集まっているだろう。早めの夕飯も済ませているし、当然のこと俺も問題ナシだ。
それでは────なんて、俺は仕切り役じゃないのでね。
「では……改めて、始めましょうか」
進行は、姫様が信ずる『女王様』に任せよう。
『刀』については次話で大体わかるよ多分きっとおそらく。




