一方その頃:恋人(未来系)
普段どこで何をしているのか────と、よく他人に問われることがある。
いつも答えは同じ。即ち『特別な場所にいるわけでも、特別なことをしているわけでもない』……ただ仮想世界が広過ぎるあまり、気付かず擦れ違っているだけ。
つまるところ、意外とその辺にいますよ、と。個人的な質問だけでなくメディアのインタビュー相手でも、幾度となく示した他ならぬ事実。
その言葉は違わずに……──
「随分と、バラバラが増えてきたな」
「そだ、ねぇ……あたしらも遂に姉妹離れの時期がやってきたのかなぁ」
「……なんだ。どういう顔だ、それは。笑ってるのか萎んでるのかハッキリしろ」
けれども、実際のところ視線を避ける技術は二人併せてフル活用しながら。
大通りから外れた横道がメイン。密集地ではないが、それなりのプレイヤーが歩いている街中を誰の目にも止まらず歩きながら、
「まあ、理由が〝男〟ってのは両者えぐい現実味あってアレですけども?」
「……わざわざ『えぐい』方向に向けるんじゃない」
秘密の未来の恋人同士は、付かず離れず。
誰の視界にも映らぬ自信はあれど、公共の場ということで確かな自重を保ちながら。しかし、ある意味では自重ゼロの街中デートに興じていた。
囲炉裏とミィナ、二人の身を包むのは不可視のベール。
燃ゆる火の如く陽炎を纏う無数の細氷を媒介に、具現を司る権能がチョイチョイっと悪さをした結果……誕生した、ほとんど完全な光学迷彩。
物理現象一割、魔法九割が成す力技。気配断ちの隠密コートと併せてしまえば、最高位の感知スキル持ちであろうとコレを看破するのは朧気にしか叶わない。
勿論、平常時に限り。
あらゆる手段を持つ手合いが全力全開あらゆる手段を解放すれば容易に捉えられるだろうが……まあ、そんなことを街中でする者は紳士淑女の中に存在しない。
で、あればこそ。
「まーリィナちゃんは『兄』だけどさぁ……逆に心配だよね。大丈夫かなーあの子。アレに『妹』としてベッタリで、ちゃんと恋愛できますかね?」
「…………………………」
「ほらもう恋愛下手が自分のこと棚に上げてガチ思案顔するレベルだもんね。いろりんでソレなんだから、あたしの胸中は押して知るべしーぃ」
「……改めて聞くが、本当にリィナの方に恋愛感情は」
「あーないない絶対ない。百パー有り得ないけど仮に頭やられちゃったお兄さんに迫られた場合、真顔ノータイムで迫真の平手打ちでしょ。『兄』をやれって」
「変人姉妹め……」
盗み聞きを封じるアルカディアの加護に頼りつつ、最低限ボリュームを控えた小声で以って、ひと欠片の注目も引かぬまま密やかな逢瀬が街を往く。
友達のように。
恋人のように。
「なにしてるかなぁ凸凹三人組で」
「さてな。トラの奴がいることだし、ダンジョンでも冷やかしてるんじゃないか」
「そうかなぁ? トラトラ意外とロマンチストだし、非戦闘員配慮で観光スポット巡りとかもアリじゃない? アレでコレとは違うからなーほんとなー」
「………………なんだ、文句か?」
「いえいえ別に、そんなそんな。ほんともう今日とか大変貴重な夜更かし可能オフ日ですけど、まさかそんな露骨おねだりなんて……いえ、そんなそんな────」
「ええい、鬱陶しい……! 注文があるなら初めから言え!」
歩んでいた気配が、掻き消える。
────否、もしもその姿を捉えている者が存在したのであれば、掻き消えたようにしか見えないであろう僅か一瞬の早業によって。
「うわっはぇあ!? ちょぉっ!!! なにしてんのぉッ!?」
「黙ってろ。所望の散歩に連れて行ってやる」
「散歩ってか絵面が誘拐ッ!!!」
「人聞きの悪いことを言うんじゃないッ!」
誰の目にも止まらぬまま、豪速で彼方へと消えていった二人の行方は……。
本人たち、のみぞ知る。
嗚呼。
あ、11/22ミナリナ誕生日おめでとう。どちらも幸せそうで何よりですね。
今日の夜は頑張る。
でも十時過ぎは間違いないので良い子はオヤスミ。




